産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門 接着界面研究グループは2021年11月4日、科学技術振興機構(JST)と、電子顕微鏡下で接着剤の剥離過程をリアルタイムで直接観察することに成功したと発表した。接着接合部の耐久性向上に向けた接着剤の高性能化や、被着体表面処理の最適化が進むことが期待される。
これまでアルミニウム合金とエポキシ系接着剤の接着接合部の破壊過程では、き裂が接着面上を進展することで接着剤が剥離すると考えられていたが、今回の観察により、破壊に至るまでに接着剤の極微小な変形が複雑に進行する現象が明らかになった。
実験では、接着接合部が破壊する過程を、より高倍率で観察できる透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてリアルタイムで観察した。アルミニウム合金(以降、アルミ)の接着接合試料からTEM観察できる100ナノメートル程度の薄片試料を切り出し、試料両端を引っ張る機構を備えた試料ホルダーに固定。試料両端をTEM観察下で引っ張り、ナノメートルレベルで接着部が破壊される様子をリアルタイム観察した。
左右に引き剥がそうとする力を加え、き裂が広がり始めた際、き裂がまだ進む手前の接着剤に小さなひずみが発生している様子が高倍率撮影で観察できた。このひずみが微小なき裂となり、さらに接合面に微小の空洞が発生する。
その後、アルミとの接合部に微小なき裂が到達すると、接合面に沿ってき裂が進展し、先立って発生していた微小の空洞と一体化して破壊に至る。この時、接着剤が破壊後のアルミ側にわずかに残る。被着体であるアルミ表面のわずかな凹凸が破壊挙動に関与し、接着剤が被着体表面の所どころに残る要因になっていると思われる。
産総研では、接着接合部を電子顕微鏡で直接観察し、1ナノメートル~数十マイクロメートルのスケールでの空間構造の解明を進めており、その一環として、接着接合部の破壊メカニズム究明に向け、世界で初めて金属から接着剤が剥がれる過程をナノメートルレベルでリアルタイム観察することに成功した。
接着破壊の起点と過程が明確になることで、複雑な接着破壊現象のメカニズムを推定でき、接着接合部の耐久性向上の指針を提示することができるという。
現在、自動車をはじめとする構造体の製造ではマルチマテリアル構造設計による軽量化と、それを実現するための異種材料同士の接着接合技術が検討されており、生産性とコストの面で接着接合が有効であると考えられている。しかし、信頼性、耐久性の実証が困難なことから、接合部の強度や耐久性に関する科学的裏付けが必要となっていた。
今後は、シミュレーションで接着接合部の破壊現象のリアルタイム観察結果を再現し、複雑な接着破壊現象のメカニズム解明を進める。そこで得た知見を基に、接着剤の耐久性向上、被着体の表面処理の最適化など接着接合の信頼性の評価や実証につなげていく。
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