働く女性のファッションを追い続けてきたファッションエディター 三尋木奈保が、選りすぐりの名品について語ります。今回は、「ドゥロワー」のブラウスです!
ファッションエディター 三尋木奈保が語る! ロマンティックなブラウス
三尋木奈保
1973年生まれ。メーカー勤務後、雑誌好きが高じてファッションエディターに転身。装いと気持ちのかかわりを敏感にとらえた視点に支持が集まる。おしゃれルールをまとめた著書『マイ ベーシック ノート』(小学館)は2冊累計18万部のベストセラーに。
せわしない日常の中でいっとき、夢見るための甘い服。大人の女性にはそんな買い物があってもいいと思うのです
「15年ほど前の、梅雨の始まりを告げるような霧雨に覆われた夜でした。仕事の途中にやりとりした短い携帯メールで、失恋が決定的になったその日。勝手に舞い上がった短い片思いだったけれど、30歳を越えてからのそれは、なかなか痛い。表参道での打ち合わせが終わったあともまっすぐ帰る気になれなくて、駅を通りすぎて骨董通りへ向かいました。そうだ、今日こそ「あの店」へ行って、何かを買って帰ろう――。
閉店間際に駆け込んだドゥロワーは、当時誕生して数年の新しいセレクトショップ。ヨーロッパのブティックを思わせる上質な世界観があり、私も特別な憧れを抱いていました。仕事で触れることはあっても、実際に自分で買ったことはまだなくて。とっても素敵な分、値段も張ります。今の自分にはまだ早い、と思っていたのに…… その日の私は憧れの店でもソワソワすることなくやけに堂々と、商品を見て回れたのが不思議でした。
手に取ったのは、大きなパフスリーブの、ネイビーのブラウス。上品な光沢のシャンタン生地で、胸から下が細かいギャザーの切り替えになっています。いつも着ている服より、ずっと甘くて上等。品のよさとファンタジーが、丁寧な仕立ての中にたっぷりと詰まっている感じ。おいそれと普段着にできない、ハレの服―― しぼんだ心を癒すために、私はそれを買ったのでした。白い紙袋を抱えて店を出たときは、うっとり夢見るような高揚感で、確かに気持ちが晴れていました。よおーし、あいつのことはさっさと忘れよう、と(笑)」(三尋木さん)
「ドゥロワー」のブラウス
▲ブラウス/本人私物
「ドゥロワーといえばシンプルなカシミアニットも有名で、私も愛用品として誌面で何度も紹介してきたけれど、最初の買い物はロマンティックなブラウスでした」今年新たに購入した一枚は、フリルの甘さとくすんだセージ色のバランスが絶妙。
「大人の女性には、そういう買い物の仕方があってもいいと思います。せわしない日常の中でいっとき、夢見るための甘い服。買うという行為も含めて憧れを手に入れる過程は、その人のおしゃれを一歩深める要素に、必ずなるはずだから。
その後、ブラウスをタンスの肥やしにしたくない一心で、デニムや白のクロップドパンツでカジュアルに着る練習をしたり、ニューヨークやハワイへの出張のときはきらびやかなレストランでのディナーで着たり。当時、いいおしゃれの訓練になったと思います。
今も表参道で仕事が終わると、ふと思い立ってドゥロワーをのぞきに行きます。今年、あのブラウスに面影が重なる一枚を見つけて、懐かしい気持ちで手に入れました。ドゥロワーらしい甘く優雅な服も、今はもう少し気負いなく着られるようになったかもしれません」(三尋木さん)
2022年Oggi6月号「私とおしゃれのモノ物語」より
撮影/生田昌士(hannah) プロップスタイリスト/郡山雅代(STASH) 構成/三尋木奈保
再構成/Oggi.jp編集部