現在、世界中で新型コロナウイルスのワクチン接種が行われています。
多くの人が注射器によるワクチン接種を受けたはずです。
そして最近、オーストラリア・クイーンズランド大学(The University of Queensland)化学分子生物科学部に所属するデビッド・ミュラー氏ら研究チームは、新しく皮膚パッチ型のワクチン接種を開発しました。
器具を使って貼るだけで新型コロナウイルスのワクチン接種が完了するため、注射器が嫌いな子供にも効果的です。
研究の詳細は、10月29日付の科学誌『Science Advances』に掲載されました。
目次
- 新型コロナウイルスのパッチ型ワクチン接種が開発される
- パッチ型ワクチンの臨床試験が決定!
新型コロナウイルスのパッチ型ワクチン接種が開発される
新しく開発された新型コロナウイルスのワクチン接種パッチ「HD-MAP」は、皮膚に張り付けるだけで、簡単にワクチン接種できます。
パッチ自体は1cm×1cmの正方形であり、そこには目に見えないほど微細なトゲが5000以上も備わっています。
そしてこれらのトゲの先端にはワクチンが塗布されており、筒状の器具を使って皮膚に押し付けるだけで摂取が完了します。
従来のワクチン接種は筋肉にワクチンを注射し、免疫反応を誘発するものです。
しかし新しいパッチ型ワクチンは、皮膚を対象としています。
通常私たちの体は、皮膚がかすり傷を負うと、その問題に対処するため皮膚の免疫システムを反応させます。
パッチ型ワクチンはこのメカニズムを応用しています。
まず、無数のとげによって皮膚を局所的に死滅させます。
これにより体がトラブルを察知し、大きな免疫反応が誘発されるのです。
皮膚パッチに使用するワクチンは少量ですが、筋肉注射と同様の免疫反応を引き起こせると言われています。
またパッチ型ワクチン接種は痛みがなく、その方法がとても簡単です。
そのため訓練された医療スタッフを必要とせず、自分自身でワクチン接種することが可能でしょう。
パッチ型ワクチンの臨床試験が決定!
新しいパッチ型ワクチンは、マウス実験で良好な結果が得られました。
今回使用されたのは新しく開発された「HexaProワクチン」であり、現在広く利用されている「ファイザーワクチン」「モデルナワクチン」と比べて熱に強く、高い安定性をもつと言われています。
そしてマウスには、パッチと注射器によるワクチン接種がそれぞれ試されました。
ワクチンを2回投与した結果、パッチ型のワクチン接種を受けたマウスの免疫系は、新型コロナウイルスを阻止するのに十分な抗体を生産していました。
しかも注射器によるワクチン接種よりも、高い効果が得られたようです。
この結果を受けて、2022年4月にはヒトでの臨床試験の実施が決定されました。
また研究者たちは、新しいパッチ型ワクチンが発展途上国に特に良い影響をもたらすと考えています。
パッチに塗布されたワクチンは、25℃で30日間、40℃で1週間安定します。
常温で数時間しか安定しないファイザーワクチンやモデルナワクチンと比べると、安定性の高さが段違いなのが分かりますね。
これまでのように絶えず低温管理する必要がないため、世界中の様々な場所に、より安価なワクチンを提供できるはずです。
このように新しいパッチ型ワクチンは、ワクチン接種の敷居を大きく下げてくれます。
臨床試験への進展は、新型コロナウイルスに対する完全な勝利が近いことを意味しているのかもしれませんね。
参考文献
Needle-free COVID-19 vaccine shows promise
https://stories.uq.edu.au/news/2021/needle-free-covid-19-vaccine-shows-promise/index.html
Needle-Free Vaccine Patches Are Just a Matter of Time Now, Latest Results Indicate
https://www.sciencealert.com/new-mouse-study-suggests-needle-free-vaccine-patch-should-be-coming-very-soon
元論文
Complete protection by a single-dose skin patch–delivered SARS-CoV-2 spike vaccine
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abj8065