こんにちは、書評家の卯月 鮎です。自宅から少し行ったところに、住宅街なのに突然だだっ広い道路がまっすぐ広がっている不思議な空間があります。調べてみると、そこは昔の花街で、その道は中心となる大通りだったと分かりました。
廃線跡から見えてくる風景
風景からふと昔の名残が見えると、「今、自分は長い歴史の上に立っているんだなぁ」と感慨が湧いてきますよね。それは廃線跡も同じでしょう。私は鉄道オタクではないですが、廃線巡りのロマンには惹かれるものがあります。
『廃線跡巡りのすすめ』(栗原 景・著/交通新聞社新書)の著者・栗原景さんは、旅、鉄道、韓国をテーマに活動するフォトライター、ジャーナリスト。小学生のころからひとりで各地の鉄道を乗り歩いてきた強者です。『地図で読み解くJR中央線沿線』(三才ブックス)、『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『アニメと鉄道ビジネス』(交通新聞社新書)など鉄道に関する著書も多数。
入門するなら名古屋鉄道美濃町線
序章「初めての廃線跡巡りに―名古屋鉄道美濃町線」では、入門編的な位置づけで、岐阜市~美濃市に残る名古屋鉄道美濃町線の廃路跡を訪れます。比較的最近(2005年)に廃止されたためか、線路跡がよく残っているうえ、危険な場所が少なく歩きやすいのがポイント。
鉄道が生きていた時代の地図をスマホに表示し、まずは起点の「徹明町駅」へ。元駅ビルは空き屋ですが、1階のきっぷ売り場はそのまま。アスファルトに入った斜めの亀裂は、レールを剥がして埋めた跡だとか。言われなければ見過ごしてしまう“遺跡”もあちこちに残っているんですね。
そうこうしていると年配の男性に「美濃町線を歩いているんですか」と話しかけられる著者の栗原さん……。単に廃線跡の情報だけでなく、地元の人々とのちょっとした交流も挟まり、読んでいて旅情感があります。
オンライン廃線巡りに役立つサイトは?
「そういう楽しみ方もあったのか!」と新鮮に感じたのが、第2章のオンライン廃線巡り。最初に「グーグルマップ」の航空写真で廃線跡をチェックするのが基本。そこを「ストリートビュー」でたどっていくと、撤去されていないコンクリート橋脚などがしっかり確認できるそうです。
昭和の戦前期から撮影されてきた航空写真が見られる国土地理院の「地理院地図」、全国49地域で明治期以降の地形図を閲覧できるサイト「今昔マップ」など、便利なサイト・アプリも具体的に紹介されていて、本書を手に取ったその日からオンライン廃線巡りに出発できます。
日本最後の非電化軽便だった石川の尾小屋鉄道、廃線跡の沿道にしだれ桜が植樹され新名所となっている福島・喜多方の日中線など「特徴的な廃線跡4例」、「廃線跡巡りの持ち物について」、「著者がおすすめする廃線跡」と各章で切り口もいろいろ。今よりもゆっくりと時間が流れていた時代、鉄道を中心に栄えていた風景を想像して、ノスタルジーに浸るのもいいですね。
【書籍紹介】
廃線跡巡りのすすめ
著者:栗原 景
発行:交通新聞社
在りし日の鉄道の姿を想像しながら歩く『廃線跡巡り』。やってみたいとは思っていても、そもそも下調べからして難しそう! たしかに昔はそうでした。それが今、劇的に始めやすくなっているのです。事前調査から実際に歩いてみるまで、数多くの廃線跡を巡った著者が豊富な実例と実体験をもとに新しい廃線跡巡りのHow Toと、廃線跡をもっと楽しむ方法を詰め込んだ実用の一冊です。
楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る
【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。