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 PlayStation 5用コントローラー「DualSense」は,表現力の増した振動「ハプティックフィードバック」と,ゲーム内の状況に応じてトリガーが重くなったり軽くなったりする「アダプティブトリガー」といった機能が特徴となっている。

画像集#008のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

 そんなDualSenseはどのようにして開発されたのだろうか。知られざる内幕について,DualSenseの企画部分を担当した,ソニー・インタラクティブエンタテインメントのプラットフォーム・プランニング&マネージメント ディレクターである青木俊雅氏に話を聞いた。
 また,PlayStation 5用ソフト「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」を手掛けたInsomniac GamesのゲームディレクターであるMike Daly氏にも,DualSenseの活用例をうかがったので,そちらも合わせてお届けしよう。

DualSenseは「コントローラに消えてもらう」ことを念頭に設計

4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずはこれまでのお仕事について聞かせてください。

青木俊雅氏
画像集#002のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

青木俊雅氏(以下,青木氏):
 僕がソニーに入社したのは2004年頃です。最初に携わったのは「Hi-MDウォークマン」の開発で,リニアPCM録音とHDデジタルアンプによる高音質再生をウリにした機種でした。
 それからソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)に異動してエンジニアとしてPlayStation 3に関わり,2010年には企画をする側になりました。

 そして,PlayStation 4の立ち上げ時に,同機のコントローラであるDUALSHOCK 4の開発に参加。その後はPlayStation 4やPlayStation 4 Proの本体,PlayStation VRのサポートを行い,今回のテーマであるDualSenseの企画開発に関わることになったわけです。DualSenseでは新たな機能を策定しつつ,デザイナーから上がってきたデザインの中に収めていくことが仕事でした。

4Gamer:
 DualSenseの開発はどれくらいの規模で行われたのでしょうか。

青木氏:
 PlayStation 4 Proが発売された後(2016年)に開発がスタートしているので,4〜5年かかったことになりますね。人数は具体的に申し上げられないんですが“かなりの数”が関わっています。

4Gamer:
 4〜5年ですか。コントローラはそれだけ重要な構成要素なわけですね。では,開発におけるコンセプトはどのようなものだったのでしょうか。

青木氏:
 「コントローラに消えてもらう」ことがコンセプトでした。

4Gamer:
 消えてもらうためにコントローラを作るわけですか。

青木氏:
 PlayStation 5のコンセプトである「没入感」を高めるための取り組みの一つです。解像度を高めたり,3Dオーディオを採用したりと,没入感を高めるアプローチが本体側で行われてきた中で,「コントローラ側から何かできないか」というところからのスタートでした。
 そこで考えたのが,プレイヤーとゲームをシームレスにつなげること。つまり「コントローラに消えてもらう」ことだったんです。グリップを握ったりボタンを押したりということを意識させることなく,プレイヤーにゲームの中へ入ってもらうことが目標でした。例えば振動ひとつ取っても,「コントローラが震えた」のではなく「キャラクターが震えた」ように感じてもらいたかったんです。

画像集#013のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

4Gamer:
 コントローラといえばゲーム機の顔というイメージがありますが,そこから踏み出したコンセプトだったわけですね。

青木氏:
 そうですね。新型ゲーム機としてはコントローラに目立ってほしいんですけれど,そこで存在を消すというのは逆転の発想かもしれません。

4Gamer:
 コントローラを消すために,どういった点を工夫されましたか。

青木氏:
 一番はエルゴノミクス(人間工学)に基づいたデザインです。ハプティックフィードバックやアダプティブトリガーといった新機能を組み込みつつも,手に持って疲れることのないようなバランスに収めるため,かなり入念な設計を行いました。

4Gamer:
 現在のデザインに決まるまで,いくつくらいの案が出ましたか。

青木氏:
 何十個というレベルです。まずはスケッチから始まり,モックアップ(模型)を作って候補を絞り込み,実際に動作するプロトタイプを作り,ユーザーテストに移行するという感じで,相当数のバリエーションがありましたね。プロトタイプの段階では基板が丸出しになっていたり,サイズも大きかったりするんですが,そこから我々“設計部隊”が最適化を繰り返し,皆さんのお手元にある理想のDualSenseになったわけです。

4Gamer:
 設計部隊とデザインチームで意見がぶつかり合うようなことはありましたか。

青木氏:
 いい意味でいろいろとやり合いました(笑)。ただ,「プレイヤーにより良いゲーム体験を届けたい」という共有認識があったので,迷いが生じる度にこの想いに立ち返っていました。

画像集#014のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

4Gamer:
 DualSenseの開発時,DUALSHOCK 4に寄せられた意見は参考にされたのでしょうか。

青木氏:
 ハプティックフィードバックやアダプティブトリガーについては,ゲーム開発者の皆さんから「ゲーム中によく使うトリガーを使って,プレイヤーにいろいろなフィードバックを与えたい」「プレイヤーの没入感を高めたい」というお声をいただいたことから,採用が決まりました。どちらも我々が発明した機能ではないのですが,我々が考えるようなゲーム体験にオプティマイズ(最適化)するために,早い段階からPlayStation Studiosのチームと連携していきました。
 プレイヤーにテクノロジーだけを押しつけることなく,ゲーム体験としてどうなるかを考え抜いていったわけですが,ゲームに組み込んで試すにしても,そう簡単にデモを作れるわけではないので,結構な時間がかかっています。

4Gamer:
 DualSenseの開発において,印象に残っていることはありますか。

青木氏:
 PlayStation Studiosの海外スタッフが,DualSenseのプロトタイプで新機能を活かしたデモをプレゼンしてくれた時のことは,今でも覚えています。とても無邪気な笑顔で「こんなのができたんだぜ!」って,皆で大喜びしながら見せてくれるんですよ。開発者がゲーマーに戻ったようで,DualSenseはいいものになるという手応えを感じました。

4Gamer:
 実際にDualSenseを外部の開発者にプレゼンしたとき,どんな反応がありましたか。

青木氏:
 言葉で機能を説明をしても反応は薄いんですが,実際に触っていただくと皆さん子どものように目を輝かせて熱中してくださるんです。まさにアイデアが湧いてくるという感じで,かなりポジティブな反応をいただけています。
 こちらからはAPIの叩きやすさ(開発者側からの,機能の呼び出しやすさ)や,設定のしやすさにも配慮していますし,テストしやすいデバッギングツールを用意してもいますので,大きな負担なくDualSenseの機能を組み込んでいただけます。こうした取り組みの甲斐もあり,いろいろなゲーム開発者さん達がさっそくDualSenseの機能を自分たちのゲームに採用してくれているのは,嬉しいところです。

4Gamer:
 DualSenseの機能をうまく使っていると感じられたゲームはありますか。

青木氏:
 DualSenseの機能をアピールしてくれるという意味では,PlayStation 5に同梱されている「Astro’s Playroom」です。ゲーム内の地面の感触がハプティックフィードバックで表現されていたり,ジャンプする時に力を溜める感覚がアダプティブトリガーで感じられたりと,分かりやすい使い方がされています。ちなみに「Astro’s Playroom」は,まずはDualSenseの機能を体感してほしいということで,デベロッパ向けの開発機にもインストールしてあります。

画像集#011のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

 また,Housemarqueの「Returnal」も,コントローラの存在をうまく消していて驚かされました。ゲーム内で雨が降るとハプティックフィードバックで雨粒の感触が表現されるなど,環境の演出にDualSenseの新機能をさりげなく使っています。コントローラを主張しすぎることなく,キャラクターが感じていることをプレイヤーも感じられるんです。「DualSenseの新機能を絶対に使ってください」というオファーはしていないんですが,コントローラを消したいという意図を汲んでくれたのが嬉しかったですね。

画像集#012のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

4Gamer:
 発売からこれまでに,DualSenseのアップデートが行われていますが,具体的にどういった部分が改善されたのでしょう。

青木氏:
 今年の4月には,DualSenseでPlayStation 4用ゲームをプレイしたときの振動を改善しています。ご存じのようにPlayStation 5では,PlayStation 4のゲームもプレイできますが,その時はDualSense側でDUALSHOCK 4の振動を再現しています。
 ただ,この再現はあくまで簡易的なものでした。DUALSHOCK 4ではゲーム側がいろいろなチューニングを行い,モーターを数十ミリ秒単位で制御することで多彩な振動を作っていました。しかしDualSenseでは,「振動していない」か「モーターを最大値で振動させる」かでしか再現できていなかったのです。

4Gamer:
 PS4のゲームはそこまで緻密に調整されていたんですね。

青木氏:
 そもそもDUALSHOCK 4とDualSenseでは,モーターが立ち上がる時間も異なっています。DualSenseの方が素早く振動するため,そうした意味でも振動に違いがありました。プレイヤーの中にはこの数十ミリ秒の差に違和感を覚えられた方もおられたようです。
 そこで,まったく異なるモーターではあるんですが,DualSenseでDUALSHOCK 4の振動を忠実に再現することにしました。立ち上がり時間の差を再現するためにDualSenseのモーターに少し遅延を入れたりしたわけです。

4Gamer:
 そうした調整は実際に体感できるものになっているのでしょうか。

青木氏:
 ユーザーさんもこうした改善に気づいてくださったようで,「DUALSHOCK 4の再現度が高くなったね」とお褒めいただくこともありました。DualSenseはこれからも,我々が想像もつかないようなクリエイティブな使い方がされていき,ゲーム世界に没入できる体験を生み出していくと思いますので,楽しみにしていてください。

4Gamer:
 ありがとうございました。

「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」では“機能”と“体験”に切り分けて活用

4Gamer:
 DualSenseの第一印象はどうでしたか。

Mike Daly氏
画像集#001のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

Mike Daly(以下Daly)氏:
 DualSenseの最終形態を初めて手にしたとき,DUALSHOCK 4からデザインが大きく変わったことに感動しました。白いシェルの部分は滑らかな輪郭で私の手によく馴染み,タッチパッドに指が届きやすくなったのも気に入りました。

4Gamer:
 ハプティックフィードバックとアダプティブトリガーについてはどう感じましたか。

Daly氏:
 初期の技術デモで試したときは良い感じだと思いましたが,その一方で何がてきるのか想像がつきませんでした。しかし,Astro’s Playroomの初期ビルドをプレイして印象が変わりました。フィードバックの反応が非常に良く,映像とも同期しており,これまでにない新しい体験をプレイヤーに提供できると感じましたね。

4Gamer:
 これらの機能は「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」で,どのように実装されてますか。

Daly氏:
 まずハプティックフィードバックですが,私たちは「機能」と「体験」という2つ用途に大きく分けました。「機能」は,ヘルスが回復したり弾切れを起こしたりなど,キャラクターの状態に変化があったとき,プレイヤーにそれを伝えるフィードバックを送ります。そうすることで,プレイヤーはより素早く状況を理解し,適切な判断を下せるようになります。
 一方の「体験」は,ゲームの世界に命を吹き込み,よりリアルな感覚をもたらすものです。例えば,ボルトクランクを回したときのギアのクリック感や,マグネブーツを履いて逆さまに歩いたときの重量感のある足音などが,リアルな感触で伝わるのです。

 そして「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」では,ユニークな武器で戦うことが多いので,アダプティブトリガーが自然にフィットしました。自動小銃の反動をトリガーに伝えるなど,没入感を高めるために使うこともありますが,私が最も気に入っているのは,アダプティブトリガー使って武器に新しい機能を追加できたことです。武器の多くは,トリガーの引き具合によって発射方法を変えられます。これにより,武器を使うことに対する満足感が高まるんです。

画像集#004のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

4Gamer:
 「これは面白いぞ」と感じた活用例を教えてください。

Daly氏:
 ガラメカの1つである「エンフォーサー」はトリガーが2段階になっていて,軽く引けばシングルショット,思い切り引けばダブルショットになります。「ネガトロンコライダー」のようなチャージ式の武器では,トリガーを引くとコントローラにエネルギーが蓄えられていくかのような感触があり,これも面白いと感じました。

 ハプティクスフィードバックに関しては,クリック感がUIの操作性を向上させていることに驚きました。例えば武器選択ホイールでは,新しい武器をハイライトするたびに,小刻みに振動するのが気に入っています。これにより,インタフェースがよりリアルに感じられ,操作するのが楽しくなります。

4Gamer:
 逆に開発段階でボツになった案はありましたか。

Daly氏:
 すべての敵の弾丸やビームに対してフィードバックを設定したことがあります。そうすることで,プレイヤーはいち早く攻撃されていることに気づけます。一方で,プレイヤーが映像を見て感じていることと,フィードバックを引き起こしているものとの間に,関連性を持たせることが難しいことにも気づきました。戦闘がより騒々しく,より混沌としたものになってしまったんです。
 なのでこうした用途は,ジャガーノートのビーム掃射やロケット弾のような,印象的な攻撃にのみ適用するのが効果的であると学びました。

画像集#009のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

4Gamer:
 DualSense向けに開発するうえで,難しいと感じたところはありますか。

Daly氏:
 ハプティクスフィードバックには多くの可能性がありますが,一方で私たちはハプティクスのレスポンス作成においてまだ初心者であり,ハードウェアの可能性を生かす前に多くのことを学ばなければなりません。今後は,より親しみやすく質感の高いニュアンスのある振動を生み出す方法をチームで学び,また,どのようなシーンにフィードバックが必要なのか,振動のバランスをどのように取るのかを,より深く理解していきたいと思います。

4Gamer:
 次回作でもDualSenseを活用するとしたら,どういったことを実現してみたいですか。

Daly氏:
 ハプティクスの反応の質を向上させることに加えて,アダプティブトリガーを引くときの感触と,それに伴うハプティクスやコントローラのスピーカー音声との相乗効果を高めて,さらに強い印象を与えられるようにしてみたいと思っています。また,ジャイロコントロールがうまく機能すれば,カメラの照準に忠実さが加わり,テレパシーのように感じられるので,それも試してみたいですね。
 あと,大きくなったタッチパッドの感触が気に入っています。メニューを見たり,ボタンの配置を覚えたりしなくても,ゲームの要素にアクセスできる直感的な手段として,タッチパッドでのスワイプやジェスチャーをもっと試してみたいですね。

画像集#005のサムネイル/DualSenseのコンセプトは「コントローラに消えてもらう」こと。企画開発者の青木俊雅氏にインタビュー。Insomniac Gamesに聞いた活用例も

4Gamer:
 最後に,これからPS5向けにゲームを作ろうと考えている開発者に,DualSenseに関してなにかアドバイスがありましたら教えてください。

Daly氏:
 プロジェクトの初期段階では,時間をかけてさまざまなフィードバックの形を探求していき,それらが現実の世界で何を思い起こさせるかをよく理解することオススメします。そこに音を組み合わせることで,全体的な印象を強くできます。恐れずにハプティクスのボリュームを上げて,それが自分の体験にどう影響するかを確認してください。そうしたら,アンビエントオーディオを個々の音源に分解して世界に配置し,3D空間のオーディオとして再構成しましょう。ハプティクスと音がどれだけ一致しているかは,プレイヤーがゲームにどれだけ深く没頭できるかに,大きな違いをもたらします。

4Gamer:
 ありがとうございました。