9月18日(土)と19日(日)に開催された「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」。CGWORLDが主催する数あるオンラインイベントの中でも、プロフェッショナル向けの有料講座として人気を博している本イベントも第5回を迎えた。今回はモデリング領域に焦点を当てた「キャラクターモデリングコース」と「背景モデリングコース」の2コース。本稿では、各コースのトップバッターを務めたCygamesのキャラクターアーティスト・野田哲朗氏と、Image Engineのハードサーフェスモデラー・前東勇次氏のセッションの様子をお伝えする。
TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
モデリングに関するあらゆる知識とテクニックを網羅
「MASTER CLASS ONLINE」シリーズでモデリングに焦点を絞るのは、今回が2回目となる。今回は、全セッションを視聴することでCGモデラーにとって有益な情報・知識・技術を網羅できる内容を目指したという。「テクニックはもちろんですが、各セッション共に講師の皆さんの考え方まで盛り込んだ内容にしようと考えました」と本イベントをプロデュースするCGWORLD編集部の西原紀雅は話す。
本イベントは、独学ではなかなかたどり着けない情報や知識、気付きが得られるチャンスでもある。「アーカイブは1ヶ月自由に何度でも視聴可能です。自分の枠から出て、モデリングに関する幅広い知識に触れてみてください。きっと新たな気付きがあるはずです」(西原)。全16セッションを全て視聴するのは少し大変ではあるが、関心のあるセッションだけではなく、ぜひ全てのセッションを視聴してみてほしい。
『クオリティがみるみる下がってしまう間違ったモデルの作り方
~モデルとテクスチャを根本的に見直せば、あなたのCGはもっとリアルになる~』
背景モデリングコース:前東勇次氏(Image Engine)
「背景モデリングコース」のトップバッターを務めたのは、Image Engineのハードサーフェスモデラー・前東勇次氏だ。バンクーバー在住の前東氏は、「CG系YouTuber」として知られている。そんな同氏のセッション『クオリティがみるみる下がってしまう間違ったモデルの作り方 ~モデルとテクスチャを根本的に見直せば、あなたのCGはもっとリアルになる~』は、「僕の後に錚々たるクリエイターの方々が登場します。まずは前座として会場を温めていこうと思う」という言葉を皮切りに、テンポの良い軽快なトークでスタート。いや、さすがYouTuber。視聴者を画面に釘付けにする話術と映像の見せ方に唸る筆者であった。
▲前東勇次氏(Image Engine/ハードサーフェスモデラー)
2016年に九州デザイナー学院を卒業後、ModelingCafe福岡支社で3年間背景モデラーとしての実績を積み、2019年にカナダのバンクーバーに移住しフリーランスとして活動。2020年からカナダのトロントに拠点を移しMarzVFXで1年間アセットアーティストとしてハリウッド映画やドラマに携わる。2021年に再びバンクーバーに移り、現在はImage Engineでハードサーフェスモデラーとして活動。これまでに関わった作品は『ワンダヴィジョン』(2021)、『暗黒と神秘の骨』(2021)、『FINAL FANTASY VII REMAKE』(2020)など
同氏のセッションでは、仕事や自主制作において「いまいちクオリティが上がらない」というクリエイターの悩みにフォーカス。クオリティを下げてしまう原因と対処法を事例と共に紹介しつつ、モデリングとテクスチャリングの両視点から楽しく詳しく解説した。「クオリティに不満がある」、「就活に向けた制作でクオリティを上げたい」、「作品がTwitterでバズらない」などなど、CGモデリングにおける「クオリティの審査基準」はどこにあるのか。自分の作品を客観的に採点するポイントと、修正する際のテクニックが盛り込まれた内容であった。
▲前東勇次氏の学生時代の作品(上)とプロフェッショナルになって3年目の作品(下)を比較。パッと見はどちらも遜色ないようだが、よく見ると……
さて、クリエイターにもビジネスマインドは重要だ。ビジネス誌でよく見かける「パレートの法則」も、前東氏の手にかかれば「CG制作で使えるパレートの法則」としてCGの現場にもどんどん応用されていくのだから新鮮であった。「クオリティにこだわりすぎると仕事に支障を来します。完成度をコントロールしていきましょう」と前東氏。「クオリティを下げないこと」を意識して、ケアレスミスを含む初歩的なポイントから完成度をコントロールする術(すべ)を惜しみなく伝授していった。
▲クオリティにこだわるか、ギリギリのクオリティを維持するか。クオリティのコントロールは大切
続いて、同氏が学生時代に購入モデルを使って制作したというクルマの3Dモデルを使い、トポロジーの歪みを探りつつエッジの正しいポジションを修正する手法をデモンストレーション。効率的な「多角形の潰し方」を紹介しつつ、多角形におけるエッジの密度を均一に整える理由とテクニックを披露した。もらったデータや購入データに潜むエラーを見つけ出し修正する必要もあるだろう。そんなときに、こういった「ちょっとした知識とテクニック」を知っていると知らないとでは大きく見映えが変わる。過去のモデルを見直し、すぐさま修正を加えてクオリティUPを図りたくなる、そんなセッションであった。
▲自身の過去の作品にツッコミを入れつつ「多角形の潰し方」を解説
『リアリティのあるクリーチャー制作
~存在しないものを作るために必要な技術や考え方~』
キャラクターモデリングコース:野田哲朗氏(Cygames)
「キャラクターモデリングコース」のトップバッターを務めたのは、Cygamesの3DCGアーティストチーム キャラクターアーティスト・野田哲朗氏だ。同氏は、CEDEC 2016の「スカルプトマイスター」に登壇、また同社のプロジェクト「Project Awakening」にもモデラーとして参加するなど、モデリングの領域で精力的に活動している。
▲野田哲朗氏(Cygames/3DCGアーティストチーム キャラクターアーティスト)
フリーランスのイラストレーターを経て、大手コンシューマーゲーム会社で10年以上キャラクターアーティストとして多くの作品に携わり、スカルプトマイスターとしても数度登壇。
現在もスペシャリストとして人物から、クリーチャー、モンスターなどのモデリングを幅広く行う
そんな同氏のセッション『リアリティのあるクリーチャー制作 ~存在しないものを作るために必要な技術や考え方~』では、タイトルのとおり「存在しないもの」を作るにあたり重要となる考え方と技術を、「手」という目の前にあるモチーフを使い実演ベースで解説。しかし、クリーチャーなのになぜ「人間の手」を作る必要があるのだろうか。「存在しないものをリアルに作るためには、存在するものをしっかりと観察してリアルに作れるようになる必要があります」と野田氏。(現実世界にある)リアルなものを作ることができなければ空想上の生物にリアリティを与えることは難しい。オリジナルのクリーチャーを作る際は、自分の中の知識やイメージだけで作るのではなく、実際に観察してきた経験がリアリティにつながっていくのだ。
▲目の前に存在する手を観察しながら造形していく。「構造をあらゆる方向から観察することができる」、「形への理解や把握する力がつく」、「シワの出来方や流れへの説得力が増す」など手をモチーフにするメリットは多い
また野田氏は、「デッサン的な考え方」がモデリングをする際にとても役立つと話している。「『確かこんな感じだったはず』と頭の中のイメージだけで造形してしまうと、マネキンのようになりがちです。細かいところまでしっかりと観察して作ってみてください」(野田氏)。ZBrushの画面で野田氏がスカルプティングしていく様子を確認しながら、解剖学的な解説を添えつつ、シワや骨、関節、筋肉を彫り込んでいく。ときにデッサンとの共通点を織り交ぜつつ、モデリングに説得力が出ないときに陥りがちなポイントまでしっかりとレクチャーしていった。
また、ゲームにおけるモンスターデザインの考え方は「ゲームならでは」の考え方をする場合が多いと野田氏は話しており、「ゲーム内モンスター」のデザインがどのように行なわれているかについて、猫型/人型のクリーチャーモデルを使って解説。リファレンスの集め方や造形・立体について、アナトミーの知識と活用法を紹介しつつ、視聴者からの「どうしても筋肉がバキバキになってしまう」という質問にも丁寧に回答した。プロフェッショナルの作業工程を見ながらリアルタイムで質問ができる、そんな学習満足度が非常に高いセッションであった。
「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.6」12月に開催予定
一流の講師陣による充実のラインナップでお届けした「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.5」。次回「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.6」は12月に開催を予定している。疑問があればその場で講師に質問ができる点は、本イベントの魅力であり有意義な点だ。せっかくの機会なので、どんどん質問してみてはどうだろう。「CGWORLD MASTERCLASS ONLINE vol.6」の最新情報は、CGWORLD.jpやCGWORLDのSNSをチェックしてほしい。