「これからもずっと悩み続けていこうと思っています」。そう言葉にしたのは、声優・アーティストとして活動する田所あずさだ。以前はネガティブな自分を卑下していたという彼女。その気持ちに変化が訪れたのは、『Waver』でも多くの歌詞を担当した大木貢祐からの言葉と、アーティスト活動を経ての成長がきっかけだったという。2022年1月5日に「箱庭の幸福」をデジタルリリースする田所に、2021年の活動や、音楽に対する意識の変化についてのインタビューが到着した。
●セルフプロデュースアルバムを経ての成長
──セルフプロデュースした4thアルバム『Waver』をリリースした2021年。田所さんにとってどんな一年でしたか?
ありがたいことに、とても忙しい一年だったと思います。音楽面では『Waver』のライブやプロモーション活動、声優活動の面では外画の吹き替えなど色々なことに挑戦できたので、本当に充実していました。
──念願だったというゲーム実況も、YouTubeで配信がスタートしましたね。
作品のイベントなどよりもラフにみなさんと話せて、とても楽しいです! ゲーム実況をしているときは、お仕事だけどお仕事じゃないような、不思議な感覚になります。息抜きにもなっていますね。
──私、田所さんがプレイされていた『バイオハザード』も『Dead by Daylight』も好きなんですよ。
そうなんですね! 『バイオハザード』が全然上手くプレイできなくって……。やっぱり見ていても、腹が立ちますか?
──いやいや! いつも楽しませてもらっています。
ありがとうございます(笑)。下手くそな私をみなさんがコメントなどで助けてくれるので、本当に楽しいんですよね。
──ちなみに、『バイオハザード ヴィレッジ』の続きは……?
そうなんですよねー(笑)。もちろん、やるつもりですよ! 決して逃げた訳ではありません。それだけは、ここでみなさんにお伝えしておきます。
──配信、お待ちしております(笑)。そんなゲーム実況も思い出のひとつだと思いますが、2021年でなかで特に印象的だったことを強いてあげるとすれば?
やはり、4月に行った「AZUSA TADOKORO LIVE 2021~Waver~」ですね。セルフプロデュースした『Waver』はものすごく心血を注いで作ったアルバム。その成果をみなさんに届ける場所として開催したライブだっただけに、思い入れも深いです。無観客での開催は寂しくもありましたが、その分、どうみなさんに伝えればいいかをより考えながらライブを作っていけたので、よい経験となりました。満足のいく仕上がりになったので、充実感もありました。
──その分、成長も感じられた。
成長を実感しています。『Waver』の制作期間中は、自分の考えを理解してもらうために何度も色々な方と話し合いを重ねました。そのなかで自分の考えをまとめる力や、人へ伝えるための力が以前よりもついたと思います。今後の活動にも間違いなく活きる経験となりました。
──以前よりも音楽への活動に前のめりになれている。
はい。セルフプロデュースしてから、やりたいことが前よりも増えました。もっとこうなった方がいいんじゃないかと、自身を俯瞰して見られるようにもなった気がしますね。前にも増して、音楽活動が楽しくなっています。
──アーティストデビューした当時とは、音楽活動に対する気持ちが変化している。
そうですね。アーティスト活動を始めたばかりの頃は、声優になりたいという思いが強かったので、CDを出すことに戸惑いがありましたし、「私でいいんですか?」という気持ちもありました。内心でそんなことを考えていたからなのか、当時は言われたことをとにかく一生懸命にやっているだけだった気がします。頑張ってレコーディングしなきゃ、もっと歌が上手くならなきゃ、こんなんじゃダメだという気持ちが圧倒的に強かったですね。
──まずは言われたことができるようにならなきゃ、という気持ちだった。
もう、それだけでいっぱい、いっぱい。それ以外は見えていなかったですね。
●悩むことは悪ではない
──そういう気持ちに変化が訪れたのはいつ頃でしたか?
何かがきっかけになったというよりかは徐々に、ですね。最初は言われるがままやっていましたが、このままではダメだ、とにかく違うんだということを示したいと思うようになったんです。そして挑戦したのがロック。戸惑った方も多かったと思いますが、お客さんにもスタッフさんにもだんだんと認めてもらえるようになり、その中で「自分が本当にやりたいものは何だろう」と考えるようにもなりました。そうして、声優やアーティスト活動を続けてきて、今に至ります。
──表現が正しくないかもしれませんが、先ほどからお話を伺っていると、以前よりも前向きになっていると感じます。
今までは、とにかく悩むネガティブ思考な自分を卑下していましたし、それが悪いことで変わらなければいけないと思っていました。ただ、『Waver』の詞を担当していただいた大木(貢祐)さんから、「スペクトラム ブルー」(2019年11月にリリースされた「RIVALS」に収録されている楽曲)のレコーディング時に「田所さんはネガティブじゃないですよ。本当に合っているのか疑うことができる、考えられるから、悩むことを止められないだけです。それって誰にでもできることじゃないと思うので、むしろすごいですよ。悪いことじゃないです」って言ってもらえたんです。あのとき、何だか自分を認めてもらえた気がしたんですよね。「このままでいいんだ、これからもずっと悩み続けていこう」と思えたんです。あの言葉のおかげで吹っ切れました。『Waver』の制作も本当に色々と悩みましたが、それを悪だと思わずに進めることができました。
──いま、私も仕事で悩み続けていてそれを悪だと思っていたんです。心に刺さりました。
悩むのが良いことって言われると、ビックリしますよね。勝手な先入観でよくないと思っていましたが、悩めるのは決して悪いことじゃないんです。
──そうやって気持ちの変化があったり、音楽活動を続けて成長したりしていくなかで、聞く音楽のジャンルなどにも変化はありましたか?
年齢によって聞く音楽が変わったということもありますが、以前よりも幅広いジャンルに興味を持つようになりました。自分で調べるだけではなく、周りの方におすすめの音楽を聞くようにもなりましたね。以前にオーイシマサヨシさんからオススメしていただいた『シカゴ』という映画の音楽が、とても印象に残っています。あれからミュージカル関係の音楽を聞くようになりました。
──以前はあまり触れることがなかったジャンルも聞くようになった。
そうですね。ジャズやローファイ・ヒップホップは自分には合わないという先入観がありましたが、今はそれぞれの良さがあるし、むしろこういう曲好きだなと思って聞いています。幅広いジャンルを聞いて体に馴染ませていくことで、自身の音楽が広がっているような気がしています。