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昨今、世界中で住宅価格が高騰しています。イギリスでも家を購入する人がこの1年間で著しく増え、住宅価格はロンドンだけでなく、地方都市でも高騰し、国中で値上がりを続けています。その原因と影響は?

↑憧れのロンドンに住む日はいつになるやら……

 

免税政策が住宅購入を後押し

イギリス政府は、コロナ禍による不動産マーケットの縮小を抑えるために免税政策を行いました。イギリスでは通常、住宅購入時にかかる税金として印紙税というものがあります。これは、国が家の売買契約を認めた証として購入者が納税するものですが、政府はこの免税制度を導入し、2020年7月から2021年6月末までの期間、50万ポンド(約7540万円※)までの住宅購入が免税の対象になりました。それ以前は、住宅購入価格が12万5001ポンド(約1880万円)から25万ポンド(約3765万円)までは2%、25万1ポンドから92万5000ポンド(約1億4000万円)までは5%の印紙税がかかっていました。

※1ポンド=約150円で換算(2021年10月4日時点)。以下同様

 

もともとイギリスには、初めて住宅を購入する人に対して、 30万ポンド(約4520万円)までを上限とした印紙税免税の制度がありました。ただし、ロンドンの過去12か月間の平均住宅価格はマンションでも、およそ52万6000ポンド(約7900万円)にまで高騰。そのため、「最初の住宅はロンドンで買いたい」と思っていた人が、この免税制度に飛びついたのです。

 

一方、ロックダウン(都市封鎖)中にイギリス人のライフスタイルは大きく変化しました。日本でも同様の動きが見られますが、イギリスでも、ロンドンのように狭くて高額な都市部よりも、広くて安い地方都市に移住する人が急増。この1年間でイギリス全体の住宅価格は10%上昇しましたが、ロンドンが5.2%増にとどまったのに対して、北西部では15.2%増と驚異的な上昇率を記録しました。

 

このような現象が起きた背景には、リモートワークが普及し、より広いパーソナルスペースを求める人たちの存在があった模様。広い家を欲する人が急増したことによって、3~4室の寝室を持つ家の供給が足りなくなるという事態も起こりました。

 

イギリスでは、ライフステージに合わせて住宅を売買し、小さな家から徐々に大きな家に移り住むという考え方が定着しています。これは「プロパティーラダー」と呼ばれていますが、だからこそ歴史のある家は、住む人が入れ替わりながら、長い年月をかけて大事にされてきたと、世代を問わず人気を集めているのです。しかし、近年では住宅の供給が足りていないこともあり、新築の購入を視野に入れる人も出てきているようです。新築住宅の価格は中古物件より22%程度高いといわれていますが、2020年に購入された住宅の8分の1が新築でした。

 

Office for National Statisticsによると、2020年4月時点のイギリスにおける年収の中央値は3万1461ポンド(約472万円)で、前年比3.6%増でした。イギリスの住宅価格はコロナ前から上昇していましたが、コロナ禍で住宅価格はさらに10%増加。同国でも住宅を購入する際にローンを組むことは一般的ですが、この状況ではプロパティーラダーどころか、多くの人——特に若い世代——は最初の家さえ買うことができません。

 

住まいを必要とする人のために、イングランド北西部のマンチェスターでは、新型コロナウイルスが流行する前から「Places for Everyone」と呼ばれるプロジェクトが計画されていました。同都市では、直近12か月間ですべての物件タイプの平均価格が23万2404ポンド(約3486万円)です。同プロジェクトでは、16万5000戸もの新築住居の建設が検討されており、そのうちの5万戸は手ごろな価格の住宅として割り当てられ、3万戸は福祉を受けている人のために貸し出されるとのこと。なお、手ごろな価格とは、住宅ローンの費用が、マンチェスター居住者の平均総世帯年収2万7000ポンド(約400万円)の30%を超えない程度(頭金を除く)を指します。

 

他所でやってよ

↑地方都市でもたくさんの家が売れているが……

 

ただし、現地の住民の中には、自分の家の近くに多くの新築住宅や、政府が支援している低価格な住宅が建つことを嫌がる人もいます。このような考えは「NIMBY(ニンビー。Not In My Back Yard〔うちの裏庭ではお断り〕の略)」と呼ばれており、昨今イギリスで盛んに議論されています。

 

日本と同様に、イギリスで家を買う際の重要な要素として周辺の治安の良し悪しが挙げられ、治安が良いエリアのほうが住宅価格は高い傾向にあります。新築住宅が建つことによって、「どのような人が引っ越してくるかわからない」という不安や「自宅周辺の治安が悪化してしまうのではないか」といった心配が生じます。

 

一般的に、NIMBYはゴミ焼却場や風力発電設備、墓地霊園、刑務所といった施設の建設に対する住民の否定的な反応ですが、一般の新築住宅についても同じような不安を持つ人が増えているようです。

 

イギリスの住宅価格を押し上げた要因は、免税だけではなく、リモートワークの普及など、働き方やライフスタイルが大きく変化したことも挙げられます。その影響は複雑であり、長く続きそうです。

 

執筆/ukihaddy