もっと詳しく

いかに能率的に動くか——。私たちは、そんなスピード感が求められた時代に生きている。一方で、じっくりと自分に向き合い、アイデアを練る時間はないがしろにされがちだ。 特に、作業の中心にPCを据えた環境では効率だけが優先され、“オリジナリティ”は失われやすい。

 

そんな状況に一石を投じるアイデアを、フリーの編集者である木庭將さんが教えてくれた。打開策は“手書き”にあるという。木庭さんが手書きのために現在愛用するのはノートやペンではなく、意外にもデジタルガジェット。電子ペーパー端末「クアデルノ」だ。数年来愛用してきた同氏が実感する、デジタル端末で手書きを行う魅力やメリット、「クアデルノ」の活用法について、10のポイントに沿って紹介していこう。

 

文具編集者/木庭 將(きにわ・まさし) さん

書籍の企画・編集ユニット「choudo」を運営。多くの文房具本を編集していることから“文具編集者”の異名を持つ。直近で手がけた『はじめてのガラスペン』(武田健/実務教育出版)が発売を控えるほか、文具・手帳関連のイベントや、売り場のプロデュースも手がけるなど、多様な案件を同時進行させている。「クアデルノ」は初代モデルの発売当初から愛用中。

 

↑写真は、以前メインで使用していたノートとシャープペンシル。文具編集者と呼ばれる木庭さんだけあって、紙の手帳やノートの活用術もお手のものだが、仕事上、PCやタブレットデバイスも当然扱う。一方、クアデルノを活用するようになった動機は、手書きの作業の質を高めるためだった

 

富士通クライアントコンピューティング
電子ペーパー端末「QUADERNO(クアデルノ)」A5(Gen. 2)

E Ink社のフレキシブル電子ペーパーを採用した端末。2018年末に初代モデルが発売。2021年7月には、第2世代である「Gen.2」シリーズ(写真)が発売された。ディスプレイが10.3インチのA5サイズと、13.3インチのA4サイズの2モデルを展開する。

 

1.手書きによってとことん思考と向き合える

そもそも、キーボード入力ではなく手書きを選択する意味とは何だろうか? 木庭さんは、オリジナリティのある仕事を望むなら、手書きというアプローチがカギになると話す。

 

木庭さん「PCやスマホだけで作業すると、物事を考えるための“枠組み”が固まってしまいがちです。ブラウザやSNSなどから、気づかないうちにアイデアのコピーアンドペーストをしてしまい兼ねませんから。自身のアイデアと向き合い、“自分のフィルター”を通してアウトプットする場として、手書きという手段は適しているんです」

 

↑木庭さんがアイデア出しをする際には、「クアデルノ」を使ってマインドマッピングを行うなどしながら、とことん自身と“ブレスト”するという

 

木庭さん「文章の推敲をするなど、もちろんPCの方がやりやすい作業もあります。でも、図を使って立体的に考えたい場合には、手書きの方が良いアイデアがまとまりやすいんです」

 

2.無限にページを増やしながらアイデアを書き出せる

一方、手書きに紙とペンを使う場合は、デメリットもあるという。

 

木庭さん「電子ノートの最もわかりやすい強みは、“いくらでも自由に書き込める”ということですよね。紙のノートだとどうしても、罫線などのフォーマットやページ残数とかを気にしなくてはいけませんから。そういうストレスをなくした状態で手書きに向き合えるのは、大きな魅力だと思います」

 

↑木庭さんが、仕事の打ち合わせ中にクアデルノでとったメモ。ページ数を気にすることなく、雑記帳のように何でも書きこんでおくという

 

3.書いた情報を後から検索できる

デジタルならではのメリットは、機能の面でもさまざまだ。紙のノートでは、どんどん書き込んだはいいが、そのメモがあとで見つけられなくなるとう失敗の経験は誰にでもあるだろう。しかしデジタルなら検索性にも優れる上、「クアデルノ」では所定のマークを書き込むだけで、あとから検索が楽になる機能がついている。

 

木庭さん「『クアデルノ』は、書いたあとにアイデアを見返しやすいのが気に入っています。例えば、あとでチェックしたい重要な箇所に“☆”(星マーク)を書いておくんです。すると、検索機能を使ってすぐにその箇所を呼び出し、確認できるんですよ」

 

↑確かに、木庭さんのメモにはところどころ☆マークが。☆がついたページをまとめて一覧できる機能も便利だ

 

4.書いた文字のデリートや移動、コピーも楽々

書いた文字をタッチで消したり、必要な範囲をまとめてコピーアンドペースト操作をしたり、そのまま移動させたりできるのも、デジタルならでは。「クアデルノ」のスタイラスペンは、サイドボタンやテールスイッチの操作によって、ペンツールを“消しゴム”に変えられるようになっている。

 

木庭さん「紙のノートやペンだと、書いたものを消すのには時間がかかるし、シャープペンや鉛筆では消しゴムのカスも出て散らかってしまい、思考が途切れてしまいますよね。書きながらアイデアを取捨選択して推敲するという視点では、デジタルが最適だと思います」

 

↑木庭さんは、雑誌や書籍の設計図ともいえるデザインスケッチを作成する作業過程でも、「クアデルノ」を活用している。ページの入れ替えも、範囲を指定し移動するだけと簡単。ちなみにこのテンプレートは自作。好みのテンプレを追加できるのも、「クアデルノ」独自のメリットだ

 

5.筆圧感知によって文字から読み取る“情報”が増える

「クアデルノ」は従来、デジタルペーパー特有の紙のようなザラザラしたディスプレイと、スタイラスにはシャープペンのように徐々に先端が削れていく芯を採用していることから、紙に書くような筆致が得られる。さらに新モデルでは、スタイラスペンの筆圧感知対応によって、文字のハネ・ハライも再現されるようになり、手書きの文字に抑揚が加わった、と木庭さんは話す。

 

木庭さん「文字を書く時に筆圧も反映されるようになったことで、文字が持つ情報量が増えました。例えば会社勤めの人ならば、資料に対して上長がコメントを書きこんだときに、怒っているのか? あるいは、ギャグで言っているのか? など(笑)、PDFにテキストを打ちこんだだけじゃ伝わらなかったニュアンスも、伝わるようになったと思います」

 

↑「クアデルノ(Gen.2)」では、最新のE Inkパネル「E Ink Carta 1250」が搭載され、「ワコムデジタイザ」を利用したスタイラスペンのプロトコルも電磁誘導方式(EMR)を使う「Wacom EMR」へと変わった。ユーザーにとってうれしいのは、ペンの充電を行う手間がなくなり、4096段階の筆圧感知に対応したことだ

 

↑UI上で選択できるペンツールの種類も増えており、より手書き感を味わえるようになった

 

6.カラーのタブレットPCでは賄えないメリットがある

普段の業務では、iPadなどタブレットPCも欠かせないという木庭さん。とはいえ「クアデルノ」が用途で重複することはなく、それぞれに独立した魅力を感じているそうだ。

 

木庭さん「雑誌の校正では、画面上でカラーで確認する必要があるので、タブレットも使います。でも、ペンの書き味がツルツルしすぎていて、僕にとって手書きの延長線上にあるものではないんです。また、ディスプレイが常にカラー表示だと、思考があちこちに飛んでしまいがちです。一方、『クアデルノ』はデジタルペーパーだからこそ、思考に集中できるのが良いですね。そういう意味でタブレットとは役割が全く違っていて、僕にとっては、メモツールの延長にある存在です。手書き用の“画材”はいくつあっても良いんですよ」

 

7.情報共有のためのデータ連携もスムーズ

ウェブブラウジングに非対応の「クアデルノ」は、データの共有をPCやスマホを介して行う。木庭さんは、デザイナーやチームのスタッフとノートを共有する際、PC経由で送信するという。

 

木庭さん「一部のデータは最終的にPDFに出力して、PC経由でデザイナーなどに渡します。ちなみに、『クアデルノ』本体のディスプレイには反映されませんが、ペンの色を黒以外に青か赤も選べるようになりました。私は、写真の要素を青、文章要素を赤、と使い分けていますが、あとでPDFで出力した際にも見やすくなって助かっています」

 

↑「クアデルノ」で書いた内容は、PDFとしてPCに出力できる。デバイスとの接続については、有線のほか、Wi-FiまたはBluetoothによる無線接続にも対応。NFC対応のスマホなら、スマホとのWi-Fi接続も容易だ

 

8.紙の資料を読み込みブラッシュアップする際にも活躍

「クアデルノ」はスキャナで読み込んだ資料もPDFとして取り込める。

 

木庭さん「組織で運用する場合には、他の人のアイデアや書類を添削するのに非常に便利だと思います。データならすぐに複数メンバーで共有できますし、手書きなら直感的に行えるので、資料のブラッシュアップを効率的にできるのではないでしょうか」

 

なみに、クアデルノにはセキュリティ機能も備わっており、パスワードを設定できるので、組織運用で秘匿性の高いデータを運搬する際にも安心だ。

 

↑PCに加え、スキャナともスムーズに連携。紙の書類はスキャナを通じて取り込める。とくに「ScanSnap」シリーズと好相性だ。※ScanSnapダイレクト連携の対応機種に関する最新情報は、公式ウェブサイトをご確認ください

 

働き方が多様化した昨今では、場所を問わずに紙の作業が行える“ペーパーレスツール”として心強いアイテムとなるだろう。また、大量のプリント用紙を必要としない点でもエコだといえる。

 

9.USB Type-Cで同期も充電もよりシームレス

「クアデルノ(Gen.2)」では、プロセッサーが強化されたほか、ストレージも従来の倍の32GB(使用可能領域は約22GB以上)へと強化されたこともポイントだ。また、インターフェースがUSB Type-Cになったことで、最新のノートPCなどとの接続もスムーズに。

 

木庭さん「ことあるごとにPCに接続してデータを同期するのが、習慣になっています。ほぼケーブルで繋ぐだけで手軽にバックアップと充電を行えるので、日々の管理も簡単です」

 

↑クアデルノ(Gen.2)はUSB Type-Cポートを備えるので、最新のノートPCやスマートフォンなどとケーブル類を共通化できることも魅力だ

 

接続に使うアプリは、PC向けに「QUADERNO PC App」(macOS・Windows両対応)、スマートフォン向けに「QUADERNO Mobile App」(iOS・Android両対応)が用意されている。周辺環境はさほど気にせずに導入できるだろう。

 

10.軽く薄く、高耐久で機動力が高い

「クアデルノ」にはA4サイズとA5サイズがあるが、機動力を重視する場合には、コンパクトなA5サイズがオススメだ。

 

木庭さん「A5サイズのクアデルノは261gと、かなり軽いんです。“SUBWAYのサンドイッチ”くらいの感覚かな(笑)。僕のようにいつでも取り出して書き込む手帳的な使い方を想定するなら、よりコンパクトなA5サイズの方が、機動力で優れているので適していると思います。外に出て人と打ち合わせをしたりする機会にも、小回りが効くのが良いですよ。バッテリー持ちで困ったこともありません」

 

↑タブレットPCのように画面割れを気にしなくてよく、気を遣いすぎることなくバッグなどに入れておけるのもメリット、と木庭さんは付け加える

 

キーボード入力で硬直化した思考を手書きで取り戻すリハビリツール

数年来、日常的に「クアデルノ」を使ってきた木庭さんは、その魅力についてこうまとめる。

 

木庭さん「デジタルデバイスの運用に慣れてしまった人にとって、いくら手書きに価値があるとわかっても、いきなり紙で手書きをしよう、というのはなかなか難しいものです。手書きは手間もかかりますから。でも、クアデルノならそういった障壁を解消してくれるんです。PCやスマホから“手書きに帰ってくる”ための場所としてはぴったりじゃないでしょうか」

 

日々慌ただしく仕事をこなすビジネスパーソンにとって、「クアデルノ」という先行投資が、“自分らしさ”や“オリジナリティ”を取り戻すためのキーになるかもしれない。

 

富士通クライアントコンピューティング「QUADERNO(クアデルノ)」












 

取材・文/井上晃 写真/湯浅立志(Y2)
撮影協力/UTUWA