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編集部注:本稿の執筆者はHenrik Gebbing(ヘンリック・ゲビング)氏とWilhelm Nöffke(ウィルヘルム・ネフケ)氏。ヘンリック・ゲビング氏は機関投資家や企業向けに欧州のデジタル資産のカストディと金融サービスのプラットフォームを提供するFinoaの共同CEO兼共同設立者。ウィルヘルム・ネフケ氏もFinoaのシニア・コンプライアンス・マネージャー。

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過去10年間、欧州や世界各国で顧客確認(KYC)やマネーロンダリング対策(AML)の規制に関するさまざまな構造的変化が見られてきた。有名企業によるマネーロンダリングに関するニュースや不正資金のグローバル市場への浸透が相次ぎ、当然のことながら規制当局や一般市民の注目を集めてきた。

Wirecard(ワイヤーカード)のスキャンダルは、広範囲にわたる不正行為を調査した結果、麻薬やポルノの違法な流通に関わる一連のシェルカンパニーの存在が明らかになったという特に卑劣な例である。Danske Bank(ダンスケ銀行)では、9年間ほぼ気づかれることなく約2270億ドル(約25兆円)がエストニアの子会社を経由してロンダリングされていた

米国では、証券取引委員会がRipple Labs(リップル・ラボ)とその幹部2名に対し、未登録で進行中のデジタル資産証券の募集を通じて13億ドル以上(約1428億円)を調達したとして提訴。この訴訟は現在も継続中である。

規制当局や金融機関がこういった犯罪行為に対する理解を深めるにつれ、AML要件も改善されてきた。しかし、これらの調整はどれも後手後手の対応であり、試行錯誤的なプロセスとなっている。

急速に進化するブロックチェーンエコシステムの課題に対処するため、欧州連合はライセンスモデルを改善するために規制システムをさらに強化するより厳しい金融規制の導入を開始している。現在多くの加盟国が暗号資産を個別に規制しているが、ドイツが暗号資産を最初に規制した国としてリードしている。

これらの個別規制は、規制当局から金融ライセンスを取得および維持するための要件をまとめ、暗号資産企業の道筋を明確に規定している。コンプライアンスは当然、投資家の信頼と保護を高める役割を果たすわけである。

金融犯罪や暗号自体の進化にともない、規制機関の監視、対応、制限の実施の取り組みも変化を遂げている。国際的には金融活動作業部会(FATF)が最も著名な監視機関であり、マネーロンダリング防止やテロ資金対策に関する一般的なガイダンスやベストプラクティスの決定を行っている。

FATFはソフトローと考えられているが、タスクフォースが暗号資産内での実行可能な規制の基準を設定している。特に注目すべきはFATFの勧告16で「トラベルルール」として知られているものだ。これはブロックチェーン取引の参加者の個人データを収集および保存することを企業に要求するもので、理論的には、このデータにアクセスすることで、当局が暗号市場の規制をより適切に監督・執行できるようになる。言い換えれば、誰が何をしているかを当局が正確に知ることができるようになるわけだ。要は透明性である。

トラベルルールの難題

FATFのトラベルルールは、伝統的金融機関(銀行、クレジット会社など)と、仮想資産サービスプロバイダー(VASP)として知られる暗号資産企業の2種類のビジネスに影響を与える。

当初トラベルルールは銀行にのみ適用されていたが、2019年には暗号資産企業にも拡大され、2021年にはFATF加盟国の多くの国が自国のAML法にトラベルルールを組み込み始めた。この規制のシフトは暗号資産分野に衝撃を与えることになる。拒否することによるリスクは高く、トラベルルールを組み込まなかった場合、サービスプロバイダーはコンプライアンス違反とみなされ、ビジネスを行う上で大きな障害となる。

しかし、トラベルルールは暗号技術の新規性を考慮しておらず、大きな障害にもなっている。受取人のKYCデータを入手して日々のビジネスに統合する際に大きな労力を要するため、暗号資産ビジネスを統合する際のハードルとなるのだ。

暗号資産企業が情報を入手して支払いを行うためには、クライアントからデータを提供してもらう必要があるが、これを検証することは事実上不可能だ。これは暗号資産の象徴でもある効率性を大きく阻害するものである。さらにこの方法では、VASPや銀行が受け取るデータの正確性も問われるだろう。また、世界各地でデータサイロが生まれ、データの脆弱性がさらに高まることになる。

特定のコミュニティ内で孤立したものではなく、国際的な標準化手段となると、オンチェーン・ソリューション(特定のブロックチェーン上で記録・検証される取引)と、異なるブロックチェーン間でのやり取りや、オンチェーン取引とPayPalなどの他の電子システムで行われるオフチェーン取引との組み合わせを可能にするクロスチェーン通信との間には大きなギャップがある。

暗号資産の匿名性に対してもっともな懸念を持つ人々と、規制は暗号資産を禁止するものだと考える人々との間で、いずれは中間点を見つけなければならない。どちらの意見にも一理あるが、巨大な金融市場や業界の中で暗号資産の正当性と実行可能性を維持するというのは、すべての当事者にとってプラスになるため、この交渉は非常に重要である。

規制反対ではなく、実行不可能な規制に反対

そのためにはデジタルアセットに特化した法律が必要であり、AML関連の問題を解決することなく市場に支障だけをきたすなどということのないようにしなければならない。

伝統的金融業界はすでにグローバル化しているため、FATFが暗号資産の規制監督のための国際的なフレームワークを発行することの価値と必要性は明確だ。

マネーロンダリング、違法な武器販売、人身売買など、犯罪的な金融取引は国際的なビジネスでもある。そのためこういった犯罪への取り締まりは、必然的に国際的な取り組みとなる。

ブロックチェーンの分散型の性質は、我々に馴染みのあるほぼすべての場所で使用されている中央サーバーの標準に反しているため、手ごわい課題となっている。伝統的金融機関のルールや規制が暗号資産にも実装されるというのは、この経済エコシステムとその基礎となる技術が持つ革新性や新規性を無視した過失であり誤解である。

法定紙幣の世界における従来型の規制を、暗号資産のあらゆる側面やブロックチェーン技術の基本的な性質に適用することはできない。例え善意から出たものであっても、このような押し付け型の規制は古いシステムの上に構築されているため、適応・修正しなければならないのである。

テクノロジーの使用に公平な制限を設けるには、それらのテクノロジーの限界と特性を根本的に理解し、協力しあう必要がある。従来の金融界においてブロックチェーンの話題は今、本当に理解すべきものというよりも熱狂的なレトリックのように扱われているのが実情である。

この問題の核心は、ブロックチェーン取引が匿名または追跡不可能であるという根本的な誤解にある。ブロックチェーン取引は疑似匿名であり、ほとんどの状況において従来の銀行取引よりも追跡可能性と透明性を提供することが可能だ。ブロックチェーン上で行われる違法行為は、例えば現金取引よりもはるかに追跡可能である。

このように計り知れない可能性を秘めたテクノロジーは、規制された上で誰もがアクセスでき、有益なものとなるべきなのである。ブロックチェーンやデジタルアセットはすでに私たちの活動方法に革命をもたらしており、規制措置もそれに倣う必要がある。昔ながらの指示を出し、それに従わせ、不公平な罰を与えるというのは未来のあるべき姿ではない。新しい方法をきちんと実行すべきなのである。

アウトロー時代の終焉

国際的な基準を遵守していることがわかっているユーザーのデータベースを利用して、活動を監視することはすでに可能だ。承認されたユーザーやベンダーを知ることで、業界はより早く違法行為や不正行為を発見することができ、違法なユーザーを特定して制限することができる。

提示された規制をよく考えて調整することで、信頼を確保し、ブロックチェーンの可能性を適切に活用するための検証済みネットワークをまとめて構築することができ、システムを破損したり操作したりしようとする有害因子を排除することができる。これは国際的な金融犯罪を起訴し、世界中で暗号資産の正当性を確保するための大きな一歩となるだろう。

暗号資産のアウトロー時代は終わったものの、暗号資産は今前例のないレベルの正当性を獲得しており、規制当局の監視を遵守することでのみ維持、強化することができる。

そしてその規制当局の監視は、ブロックチェーン取引に旧来のやり方をそのまま丸写しするだけのものであってはならない。むしろ、犯罪行為に対抗し、投資家の信頼を高め、暗号資産を望ましい金融投資にする仕組みそのものをサポートしていくようなものでなければならないのである。

画像クレジット:cokada / Getty Images

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(文:Henrik Gebbing、Wilhelm Nöffke、翻訳:Dragonfly)