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近年、世界各地の都市で地盤沈下が起きています。その1つがメキシコの首都、メキシコ市。しかし、同市の地盤沈下はほかの都市と性質が異なるようです。メキシコ市の地下で何が起きており、そこはどのくらい危機的な状況なのでしょうか?

↑沈むメキシコ市

 

世界のさまざまな都市で起きている地盤沈下の主な原因とされているのが、地球温暖化による海面上昇や地下水の汲み上げ、石油の掘削です。例えば、中国の上海では1年に最大2.5cmのペースで地盤沈下が進んでおり、これは高層ビルや地下鉄などの建設に伴う地下水の排水が引き起こしていると言われています。また、米国・ルイジアナ州ニューオーリンズでは、石油やガスの掘削の結果、地盤沈下が起きており、街のおよそ半分が海面よりも低くなっています。この地域は2005年にハリケーン「カトリーナ」によって大きな被害を受けましたが、地盤沈下が起きていなければ、被害はもっと小さかっただろうと専門家は指摘しています。

 

しかしメキシコ市の場合、話が少し異なる模様。2021年に発表された論文によれば、同都市の地盤沈下は、地下水の汲み上げや石油の掘削ではなく、都市の基盤部分が圧縮したことによって起きている可能性があるそうです。

 

これはメキシコ市の成り立ちに関係します。アステカ族が15世紀、テスココ湖と呼ばれる湖の上にある島に湖上都市を建設し、これをアステカ大国の首府としました。その後スペイン軍の侵攻でアステカ王国は滅亡しましたが、この湖が埋め立てられて植民地都市となったのです。これが現在のメキシコ市で、ここは湖にできた都市だったのですね。この基盤部分の粘土層がすでに17%ほど圧縮しており、これが現在の地盤沈下の大きな要因となっているのです。

 

メキシコ市の地盤沈下が初めて確認されたのは1900年代初頭で、当時の沈むペースは年間8cmでした。それが1958年までに年間29cmに加速。1950年代には地下水の汲み上げを停止し、沈下のペースは緩やかになったこともありました。しかしメキシコとアメリカの共同研究チームが、115年間蓄積してきたデータや高解像度のGPSデータを分析したところ、同市は年間最大40cmのペースで沈下している一方、都市化が進んでいない北東部では、年間50cmもの速度で沈んでいる地域があることも明らかとなったのです。

 

メキシコ市の基盤となる粘土層は今後150年間、圧縮を続けると見られ、地盤はさらに30%沈下すると予測されています。それに伴い水質汚染が懸念されており、雨水や排水を集めるためのインフラ整備が必要とも言われています。

 

一度沈下した地盤が元に戻ることはありません。その影響を最小限に食い止めるための取り組みが求められています。

 

【出典】O’Hanlon, L. (2021), The looming crisis of sinking ground in Mexico City, Eos, 102, https://doi.org/10.1029/2021EO157412. Published on 22 April 2021.