以前にも書いた通り、帰国前最後のパリ旅行はどっしり2週間の滞在に決めていた。
TGVへの移動の事なども考えて、普段は北駅(Gare du Nord)やそこからほど近い東駅(Gare de l’Est)の近くのホテルに泊まる事が殆どなんだけど、今回ははじめて左岸に、しかもホテルではなくアパルトマンを借りてみた。
パリジャン気分を満喫w(エセ・パリジャンとも言うww)
立地としては(もちろんあまり詳しくは書けないけれど)5区の所謂カルチェ・ラタンの辺りだ。地下鉄の駅からもそれほど遠くなく、周辺は静かで大変よろしい。
部屋があまりにも居心地よすぎて、パリなのにひきこもりになりそうな勢いである(実際、昨日あまりに歩きすぎて足が痛く、今日は家の周辺しか歩いていない。こんなのも一人旅の醍醐味だよね。)
パリに来て二日目(1日目はパリのクロネコ●マトに荷物を依頼しに行ったりしてた)の一昨日、とりあえずすぐそばのパンテオンに行ってみた。
パンテオンは18世紀後半、元々は聖ジュヌヴィエーヴ教会として建設された。現在のように偉人の墓所として利用されるようになったのはフランス革命以降の事だ。だから内部には生ジュヌヴィエーヴを始めとして、フランス人の大好きなジャンヌ・ダルクやパリの守護聖人サン・ドニ(モンマルトルの丘で斬首され、現在のサン・ドニ大聖堂があるパリ北側の郊外まで、自分の首を持って説教しながら歩いたと言う伝説がある。だから彼の肖像や彫刻は、首なし男が自分の首を持った姿で描かれる。)の非常に大きな壁画が飾ってある。
中に入ると、一番に真ん中で目に付いたのはこのフーコーの振り子。
フランスの物理学者 レオン・フーコーは、1851年、パンテオンのまさにこの場所に、長さ67mのワイヤーに直径約30cm重量28kgの鉄球を付けた巨大な振り子を吊るして、地球が自転している事を証明した。
この振り子は当時のものではないけれど(実際に実験に使われた振り子はパリのメチエ博物館に展示されている)、これで地球の自転が証明されているってなんだか不思議。ただの振り子にしか見えないけど。
さてパンテオンのメイン(と言っては失礼だけど)はクリプタ(地下集合墓地)にある。
一応お墓だし、神聖な場所なので写真のアップは控えようと思う。(撮ったけど)
フーコーの振り子を通り過ぎて、奥の方に進むと小さな扉がある。”クリプタはこちら→”とか書いてあって、その奥の階段を下りてゆくとクリプタの入り口だ。
入ると左右にジャン=ジャック・ルソーとヴォルテールの墓がある。
迷路のように枝分かれする通路にいくつもの小部屋が並んでいて、その中にアレクサンドル・デュマ、エミール・ゾラ、アレクサンドル・デュマなど名だたる偉人の墓が並んでいてちょっとドキドキしながら通り過ぎる。
最初に「おおっ」と思ったのは展示の開発者ルイ・ブライユの墓だ。彼の墓はヴィクトル・ユゴーとエミール・ゾラがいる小部屋のとなりにあって、唯一部屋の前に胸像とパネルが置いてあった。
そのパネルにはブライユに関するいくつかの説明が展示を交えて書いてあって、上には大きく(これは彼の棺にも書かれているらしいのだけど)
“À celui qui a ouvert à tous ceux qui ne voient pas les portes du savoir”
と書いてある。「目の見えぬ全ての者に知識の扉を開いた者へ」という意味だ。
点字は読めないけれど、点字を開発するっていうのはそういうことなんだ。すごいな。
目の見える人も見えない人もみんな、彼のサインのレリーフと彼の胸像を触ってゆくんだろう。
迷路のようなクリプタを更に進むと、キュリー夫妻の棺を見つけた。
ポーランド生まれの彼女の墓碑にはしっかりと彼女のポーランド人としての姓「スクロドフスカ」も併記されていた。
放射能の発見。人類の歴史を変えた研究。
現在の原子力の技術は、勿論原爆も含めて全て彼女の研究が始まりと言っていい。彼女自身も、最後には被爆によると思われる白血病で亡くなっている。彼女の手書きのノートやメモの現物は、現在でも防護服を着ないと閲覧できない。
まさしく命を削って「これは必ずや人類のためになる」といって研究していた彼女の事を思ったら、訳も分からず涙が出そうになってしまった。
何年か前のフランスバカロレアの哲学の設問が今も頭を巡り続けている。
“La vérité scientifique peut-elle être dangereuse ?”
(科学的真実は危険たり得るか?)
キュリー先生。あなたならこの問いにどう答えるでしょうか?
原子力は確かに危険だけど、それを制御するのが人間の”科学力”でしょう。
それこそ、フランス人が大好きな「理性 la raison」に基づいたしっかりとした知識と技術だけが、科学的真実をより良いものとして利用できるんじゃないのかな。
正直、最近漏れ聞こえてくる、バランスを欠いた極端な「原発反対」運動が raisonnable とは思えない。
キュリー先生、あなたは今の日本の状況をどう思われますか?
人生で初めて読んだ伝記はガリレイ、シュヴァイツァー、キュリー夫人だったので、思い入れがあった。ずっと来たいと思っていた所だったので、来られてよかった。
しばし偉大なる物理学者と心の対話をしてから、パンテオンの外に出た。
隣にはサンテティエンヌ・デュ・モン教会。
とても綺麗だったけどこの時は中には入れなかった。
いい天気だ。
この天気が滞在中ずっと続けばいいなあ。