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2日間にわたってオンラインで開催された「TechCrunch Tokyo 2021」で、初日冒頭の「Keynote」セッションに登場したのが、ウーブン・プラネット・ホールディングスでソフトウェアプラットフォーム担当シニア・バイス・プレジデントを務めるNikos Michalakis(ニコス・ミハラキス)氏だ。

「Programmable Mobility」(プログラム可能なモビリティ)と題したこのセッションでは、

  • ウーブン・プラネットの戦略の概要
  • モビリティのプログラミングをよりオープンにするためのArene(アリーン)プロジェクト
  • ウーブン・プラネットが切り開こうとしているビジネスチャンス

の3点を取り上げるとミハラキス氏は述べ、Keynoteが始まった。

技術と投資にフォーカスするウーブン・プラネット

ミハラキス氏はギリシャで生まれ、米国に渡って電気工学とコンピュータサイエンスを学んだ。さまざまな分野のスタートアップやNetflixで働いた後、シリコンバレーのトヨタ・リサーチ・インスティテュートに入社。その後、東京のウーブン・プラネットに移った。

ウーブン・プラネットのビジョンは「Mobility to love, Safety to live」で、技術にフォーカスした2つの会社と投資にフォーカスした1つの会社で構成されている。

技術にフォーカスした会社の1つがウーブン・アルファで、イノベーティブなプロジェクトを推進している。ミハラキス氏のチームが取り組んでいるプロジェクトもここに含まれる。

もう1つがウーブン・コアで、自動車メーカーとサプライヤーが協力しながら自動運転や新しい車載電子プラットフォームを提供している。

そして投資にフォーカスしたウーブン・キャピタルは投資や協業を通じて、スタートアップだけでなく大企業ともパートナーシップを構築しているという。

モビリティは古典的な考え方と現代的な考え方が交差するところに生まれる

モビリティについてミハラキス氏は「自動車に関する古典的な考え方と、ソフトウェア、つまりウェブ、モバイル、インターネットといった現代的な考え方が交差するところに生まれるものです」と語る。

同氏は「(新しい技術ゆえに)モビリティ構築に必要なスキルを持つ人材は今のところいません」とし、ウーブン・プラネットは日本のモノづくりにおけるクラフトマンシップとシリコンバレーのイノベーションの考え方を融合させた文化を構築しようとしていると述べた。また、社内に「DOJO(道場)」を作り、新しいモビリティ・スキルセットを身につけた人材を育成しているそうだ。

快適にソフトウェアを開発できる環境を目指すAreneプラットフォーム

「私たちは地球上で最もプログラマブルな自動車を実現したいと考えています」とミハラキス氏はいう。それを実現するプラットフォームがAreneだ。

Areneのビジョンを、同氏は「開発者が快適に開発を行えるようにしたいのです。最適なツールとプラットフォームを提供し、イノベーションを実現できるようにするのです」と説明する。

このビジョンを実現するためのミッションについては「ソフトウェア開発をシンプルにし、開発頻度を上げて、車載コードをシームレスにアップデートできるようにします。また、そのために安全性が損なわれることもないようにします。これを実現できれば、自動車のプログラミングは誰でもできるものになると考えています」と述べた。

スマートフォンと同じように自動車のプログラミングができるようになる

自動車のプログラミングが誰でもできるとはどういうことか。ミハラキス氏は10〜15年前の携帯電話の状況と対比して説明する。

「かつては電話機をプログラミングできるのは電話機メーカーだけでした。しかし現在は誰もがスマートフォンをプログラミングできます。何千ものアプリケーションが利用可能で、何千もの開発者がこのプラットフォームに参入し新しいアイデアを生み出しています。それにより投資家たちの関心が高まり、利益が見込まれるアイデアには資金が集まるようになりました」と同氏は述べ、このようなポジティブなサイクルが生み出された結果、モバイルエコシステムが成長していると携帯電話の状況を位置づけた。

これと同じように「現在のところ、自動車のプログラミングを行えるのは自動車メーカーだけですが、将来は誰もが車のプログラミングをできるようになるべきです」とミハラキス氏はいう。

オープンな開発プラットフォームで開発者の参入を促し、自動車業界に影響を与える

ウーブン・プラネットの目的は「オープンな開発プラットフォームを構築して、そこでクラウドベースのツールやソフトウェア開発キットを開発者に提供すること」で、自動車の各機能にアクセスするためのVehicle APIも提供する。

ツールを提供するだけでなく「自動車自体についても再考する必要がある」とミハラキス氏はいう。現在の自動車は複数の異なる領域ごとにコンピューティングが活用され、各コンピュータが特定の機能を実行するための専用のものとなっている。これに対し、ウーブン・プラネットは複数のECU(電子制御ユニット)を横断するArene OSにフォーカスする。「アプリケーションがコンピューティング全体に作用していくようにする」と同氏は説明した。

こうした取り組みは業界に大きな影響を与えて「車載アプリ開発者」という職種が生まれる、起業家がモビリティ分野に参入する際の障壁が少なくなる、車載ソフトウェアをアップデートできることで自動車自体のLTV(顧客生涯価値)も高まると同氏は見ている。

アプリ、Arene OS、ECU、ハードウェアの概念図

新しいビジネスチャンスのアイデアは?

このプラットフォームにより「新しいビジネスチャンスが得られると考えています」とミハラキス氏は述べ「ともに考え、創造性を磨いていきましょう」と呼びかける。そして、ビジネスチャンスのアイデアをいくつか挙げた。

まず、アプリのパーソナライズ機能を構築すれば、カーシェアで誰が乗ったかに応じてアプリや構成をロードできるようになる。

また、企業のブランディングも考えられる。企業が実店舗からウェブ、モバイル、ソーシャルメディアにプレゼンスが求められるようになったのと同じで、モビリティにもプレゼンスが求められるようになるだろうという。その例として同氏は、ホテルの送迎車内でチェックインやシャンパンのサービスを提供できるかもしれないと述べた。

分散型アプリケーションの可能性もある。同氏は「すべての自動車に最先端のパワフルなコンピューティング能力とセンサーが搭載されているのを想像してみてください。データの力を活用したすばらしいアプリケーションを構築できるでしょう」と述べ、リアルタイムのマップ構築を例として示した。

そしてビジネスチャンスとして同氏は最後に、これまでにないハードウェアへの期待を挙げた。同氏は個人的に、マッサージチェアがあればいいなと思っているという。

エッジコンピューティングによるマップのイメージ

ミハラキス氏は「成功するものもあれば失敗するものもあるでしょう。結果はわかりません。それが起業というものです」と述べ「自動車のプログラミングをよりオープンなものにしていけば、アイデアを繰り返し実験し、より容易にできるように改良し、実験にかかるコストを低減し、アイデアをさまざまな方法で応用してみるといった活動を通じて、エコシステムを成長させる機会が得られると思っています」と強調して、Keynoteを締めくくった。

(文:Kaori Koyama)