スクウェア・エニックスが2021年7月29日に発売したRPG「ファイナルファンタジー(FF ピクセルリマスター版)」(PC / iOS / Android)のプレイレポートをお届けしよう。
ピクセルマスター版とは,FCやSFCでリリースされたファイナルファンタジー(以下,FF)シリーズのナンバリングタイトルを,2Dのドット(ピクセル)グラフィックスのまま現代向けにアレンジしたシリーズのことだ。
1987年に第1作がリリースされたFFシリーズは,ゲームプラットフォームの変化に応じて何度も移植やリメイクが行われているが,時代の流れによってハードウェアを利用しにくくなったり,販売が終了して入手が難しくなったりして,プレイ環境が万全とは言えない状況になっていた。
また内容に関しても,リメイク時期によってグラフィックスや操作性がシリーズ内でかなり異なったり,プレイ感の統一性が取れていなかったりといった問題があった。それらの解決策として登場したのがピクセルリマスター版というわけだ。
昭和の時代に生まれ,世界的なシリーズの礎となった初代ファイナルファンタジーは,令和の時代にどのような形で甦ったのか,本稿で確認してほしい。
そして,本作のプレイヤーに向けてのちょっとした「付録」も用意してみた。画面写真をつなげて作ったワールドマップだ。
オリジナル版がリリースされたころのゲーム雑誌には,ゲーム画面を撮影した写真をつなげて作ったマップがよく掲載されていたので,当時を知る人には懐かしく感じられるはず。FFシリーズのプレイ経験がない人も,この地図を眺めて,未知なる世界の冒険に胸を躍らせてほしい。
時代に合わせてアップデートされつつ
あくまでオリジナルベースの仕上がり
初代FFのオリジナル版は30年以上前の発売だが,それだけに概要を知らない人も増えてきていると思うので,ざっとまとめておこう。
本作の主人公となるのは,「この世 暗黒に染まりし時4人の光の戦士現れん…」という予言の元に集まった,4人の若き冒険者。彼らは危機に陥った世界を救うべく,クリスタルの力を復活させる旅に出る。
後の作品では壮大なストーリーや凝った演出で評価を集めるFFだが,本作は非常にシンプルな構成となっている。
ピクセルリマスター版では一部のセリフこそ修正されているが,たとえば町の住民との会話は直接的なヒントか,あるいはゲームに関係ないフレーバー的なもので,お使い的な何かを頼まれるなどして新たな展開へとつながることはほとんどない。今の時代では逆に新鮮さを感じてしまう。
ワールドマップとして機能するフィールドがあり,そこにシンボルとして町や洞窟が各地に用意されている点は,ファミコン時代のRPGとしてはスタンダードな作りだ。
ゲームを開始するとまずキャラクターメイキングが始まり,前述の4人の光の戦士たちの構成を決める。変更できるのは名前とジョブのみで,用意されているジョブは「戦士」「シーフ」「モンク」「赤魔術士」「白魔術士」「黒魔術士」の6種類。初代FFでは自由なジョブチェンジができず,最初に決めたメンバーで最後までプレイすることになる点には注意したい。
一応道中に転職要素はあるのだが,本作においては単なるクラスチェンジで,例えば「戦士 → ナイト」や「白魔術士 → 白魔導士」といった形になる。全員同じ職業のパーティにもできるが,それなりに苦労が多くなると思うので,初めてのプレイでは避けたほうがいいだろう。
なお,キャラクターごとに戦闘時の前列・後列を設定する要素はないが,パーティの先頭(画面では上)に近いキャラは攻撃を食らいやすくなっている。そのため,先頭は戦士などの堅いジョブにするのが定番だ。ジョブごとの特性もハッキリしており,例えば戦士では一桁ダメージしか食らわないのに,魔術系ジョブは一発食らうと瀕死……といったことも珍しくない。戦闘ではそのあたりも考慮しつつ,必要なら「ぼうぎょ」などのコマンドを選んでおきたい。
魔術士でもう一つ気にとめておきたいのが,オリジナル版と同じく,魔法に「回数制」が採用されている点だ。これは魔法のレベルごとに使用回数が決められている仕組みで,「III」などでも使われた。
あるレベルの魔法を連発しても,別のレベルの魔法の使用に影響しないのはいいのだが,どうしても“よく使うレベル”“あまり使わないレベル”が出てきてしまうので,一般的なMP制に比べると非常にクセが強い。
同じ初代FFでも,一部のリメイク作はMP制になっていたのだが,本作はオリジナル版ベースということもあってか,回数制となっている。前述したようにクセは強いのだが,そのクセが味にもなっているので,悩みつつ楽しんでほしい。
クセの強い要素はほかにもある。魔法はショップで買う形だが,1レベルにつき3つしか覚えられないのに,4種類がラインナップされている。覚える時点ですでに取捨選択が迫られるわけで,最近のゲームに慣れきっている人は,ここでも面食らうだろう。
とはいえ一度覚えた魔法を忘れることもできるので,状況に合わせて魔法の構成を変えていくのがいいだろう。
とくに全体攻撃が可能な魔法は,一度に敵が9体も現れることがある本作では非常に重要だ。バサンダ(雷属性攻撃を低減)やディア(アンデッドにダメージ)やヒーラ(全体回復)など,後のシリーズではあまり見かけなくなった魔法もあり,シリーズの変遷を感じられるのも興味深い。
ちなみにオリジナル版では,使ってもあまり効果が感じられない魔法もあったようなのだが,本作ではしっかり調整されているので,安心して使ってほしい。
グラフィックスに関しては,ピクセルリマスターの名称どおり,オリジナル版の雰囲気を壊さず,高品位のビジュアルに仕上がっているのが嬉しい。リメイク作品ではビジュアルそのものが完全に描き直され,“解像度が上がった”反面,オリジナルとは印象が変わってしまった……といったこともあるが,本作においてそういった違和感はほとんどないはずだ。
サウンドも時代に合わせたアレンジはされているが,オリジナルの雰囲気はしっかりと残っており,グラフィックスとのミスマッチも感じない。当時のプレイヤーは,懐かしく聴くことができるだろう。
ゲームバランスも基本的にはオリジナル版を尊重しているようで,少々難しめの印象だ。前述のように最大9体もの敵と戦うことになるし,何より前半は状態異常がきつい。毒消しがないのに毒を連発で食らって進めなくなったり(ポイゾナが覚えられるのは中盤以降),アンデッドに麻痺させられて回復できず殴られ続けたり(エスナがなく,万能薬は高額),敵の技であっさり即死したり石化したりと,なかなかにハードな戦いが続く。ベテランゲーマーなら忘れかけていた悪夢が蘇り,初めてのプレイヤーなら容赦のなさに閉口するかもしれない。
ただし物価はオリジナル版から緩和され,装備や消費アイテムは購入しやすくなっている。序盤を過ぎればポーションを大量に買い込むことで回復魔法を節約できるし,魔法の使用回数を回復できるテントやエーテルも安いので,遠出前に道具屋に行くようにしておけば,簡単に全滅はしないだろう。
後のシリーズ作品では,消費アイテムをほとんど使わずにクリアできるバランスのものもあるが,本作においては“アイテムはケチらず使う”をモットーにしたほうがいい。特に厄介な敵を魔法で一掃できるか否かが大きく影響するので,エーテルは多めに確保しておくことをオススメしたい。
もちろん,本作はスタンダードなRPGなので,レベルを上げたり装備を整えたりすることでも,グッと攻略が楽になる。ボタンひとつで前回入力したコマンドをそのまま繰り返し,さらに戦闘速度が速くなるオートバトルも完備されているので,経験値やお金を稼ぐのも難しくない。進むのが厳しいと感じたときは,少し足を止めて町の周囲で下準備をするといいだろう。
最近のRPGでは,プレイヤーの強さに合わせた敵が出てくるといったシステムにより,地道なレベル上げを不要にしているタイトルもあるが,こういった“作業”で強くなっていくのも,これはこれでなかなかいいものだ。
また,“遊び勝手”の面でも時代に合わせたアップデートが行われている。例えば「ちゅうだん」機能によって,戦闘やイベント中でなければいつでもセーブ可能になっている。これは一時的なセーブ機能ではないので,再開しても消えることはないし,メニューから直接スタート画面に戻れるので,やり直しも簡単だ。ちなみにオートセーブもあるので,場合によってはそこからやり直すこともできる。
さらにマップ機能が完備されているので,例えダンジョンの中でも現在位置の把握は簡単だ。未踏破の場所でもすべて表示されるうえに,宝箱と階段の場所まで分かる親切設計となっている。おまけに右上にミニマップとして表示することも可能なので,迷うことはまずないだろう。ちなみにフィールド上でも,ミニマップが右上に常に表示されている。
モンスター図鑑やギャラリーなどの資料要素も充実
FF未経験者も“ご無沙汰”だったゲーマーも楽しめる
本作は上述のグラフィックスやシステム面での改修以外にも,3つのオプション的な要素が追加されている。その辺りも少しまとめておこう。
なかなか面白く仕上がっているのが,「モンスター図鑑」だ。出会ったモンスターの情報が,内部データも含め確認できる点ではそこまで目新しいものではないが,生息場所が記されたマップまで確認できるのがユニーク。出会っていない敵は「?」で表示されるので,実際に行って図鑑を埋めたくなってくる。
また洞窟などのダンジョンに一度入れば,そこに登場する敵が一覧表示される。なので,会っていないモンスターがいたことに後から気がつくなど,新たな発見もあるのだ。弱点や耐性も確認でき,ゲーム攻略の面で役立つのも嬉しいところ。
残りの2つは「ミュージックプレイヤー」と「ギャラリー」だ。前者はゲーム中の音楽を自由に楽しむことができ,後者はFFシリーズでキャラクターデザインやイメージイラストなどを手がけた天野喜孝氏のイラストなどが閲覧できる。こちらはモンスター図鑑と違い,両方とも最初から開放されているので,ゲーム起動直後にアクセスしてみてもいいだろう。
個人的にはギャラリーで閲覧できる,数々のモンスターのイラストが印象深かった。こうして改めて確認してみると,ファミコンの限られたグラフィックス能力で,天野氏のデザインを再現しようとしていたことがうかがえ,当時のゲーム開発の苦労が偲ばれる。
それ以外にも未使用のイラストなど,興味深いものがあったので,確認してほしい。
さて,時代に合わせてさまざまな修正やアップデートが施された本作だが,一部のリメイク作で追加された要素は含まれていない。たとえば,GBA版以降に実装されていた,ボスを倒すたびに入れるようになる追加ダンジョンなどは,筆者のプレイした範囲では確認できなかった。オリジナル版がベースなので当然のことではあるが,リメイク作のプレイ経験しかない人は,あると思っていたものがなくて戸惑うかもしれないので,注意してほしい。
オリジナル版の空気感を強く残しつつも,グラフィックスやシステム面で“令和仕様”となった今回のピクセルマスター版FF。前述したように,今の時代から見ると戦闘バランスの面で多少理不尽に感じるエリアはあるが,ちゅうだんセーブやアイテムなどを活用すれば,“詰む”ことはないだろう。
また音楽再生機能やギャラリーといった“おまけ”も,なかなかにファンのツボを押さえているので,ファミコン版をプレイしたきり触る機会がなかった古参ゲーマーは,当時を懐かしみつつ楽しんでほしい。
もちろん未体験のゲーマーにとっては,国民的RPGの原点となるタイトルを,オリジナル版に近い形で楽しめるチャンスとなる。興味があればぜひ触れてほしい。