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KDDIの保守監視センター

スマホの普及と光ケーブルによるインターネット社会。昨今、通信は生活におけるさまざまなサービスを支える存在となり、お客さまの利用形態も、日々多様化している。

一方で、近年では新型コロナウイルスなどのような大規模パンデミックや、急激な気候変動による大雨、台風、地震など、安定的な生活インフラの維持が困難になる大規模自然災害も発生するようになってきた。通信会社としても、不測の事態にも対応できるよう従来の保守運用体制からさらなる進化が求められる時代になり、安定した通信サービスの提供が大きな課題となっている。

そんな状況のなか、KDDIが、今後の大規模災害を見据えた通信ネットワークの保守運用拠点の2拠点化と、ネットワーク運用DX化による復旧時間の短縮を実現した。それはいったいどんな内容で、どのように私たちの通信を守っているのか。東京都内に新設されたKDDIの保守運用拠点で話を聞いた。

KDDIの通信を守る新たな取り組み

今後の大規模災害を見据え、KDDIが新たに取り組んだ内容は、あらためて以下の2点だ。それぞれどんな内容か、詳細を見ていこう。

①運用自動化による「復旧時間の短縮」
②保守運用拠点の2拠点化による「安定的な通信の提供体制」

①運用自動化による「復旧時間の短縮」

そもそも通信に障害が発生した際、復旧にはどのような業務を行っているかご存知だろうか。どこで障害が発生しているのか地域や基地局等の設備の特定から始まり、どの設備で不具合が起きているのかの特定、影響範囲の確認、原因の切り分け、復旧作業など、障害検知から復旧までには、実に約2,000にも及ぶ業務が発生している。

この復旧までの時間短縮を考えた際、ネックになったのが、熟練者の「匠の技」だ。

KDDIの保守監視センターにおける保守管理の手運用イメージ

人の手による運用である以上、短期復旧の鍵は、故障箇所の特定や原因の切り分けなど熟練者に頼る部分が多かったが、人に頼る体制になってしまうことが、大きな課題となっていた。

そこで2016年から5年かけてこの約2,000もの業務をすべて可視化し、40,000件のシステム要件に落とし込むことで、運用自動化システムを構築。これにより、最大40%の復旧時間の短縮を実現したというわけだ。

KDDIの保守監視センターにおける保守管理の自動化運用イメージ

運用自動化の恩恵はそれだけではない。スマートオペレーションによる監視体制は、場所を問わずどこからでもリモートで対応できる体制を実現した。万が一、現在の新型コロナウイルス感染症のように、大規模パンデミックによる出社困難な状況が起きたとしても、自宅からリモート対応することで、災害や緊急時にも影響を受けにくい安定した通信サービスを提供できるようになった。

実際に保守運用の現場でも大きな改善が見込めたと、KDDI多摩拠点の故障対応業務の責任者は言う。

KDDIエンジニアリング ネットワーク監視センター担当者KDDIエンジニアリング ネットワーク監視センター
副センター長 佐藤博行、副センター長 真屋公一

佐藤:運用自動化の恩恵は大きく2つ。復旧までのスピードアップと品質の一定化です。自動化の前までは、障害が発生した際、一次対応者が「どの地域でどれくらいの影響があるか」を確認し、二次対応者と「どのような対応が必要か」を検討、その内容をセンター内で共有した上で責任者の判断が必要でした。この一連の考えて判断する運用を自動化することで、復旧までのスピードアップにつながったというわけです。また、その考察や判断も、新人と熟練者では対応内容や対応スピードにどうしても差が生じていましたが、この自動化により、24時間365日、ベテランがいない時間帯でも一定の品質で対応することができるようになりました。

真屋:間違いが起こりづらくスムーズに運用できる点も自動化の良い点です。今までは原因調査や復旧対応のためにコマンドを打ち込む際も、コマンドごとにコード間違いがないか別の人とダブルチェックをし、2人で「ヨシ!」と言ってからOKボタンを押していたのですが、緊急時に復旧対応の箇所が多くなると、どうしても焦りミスが発生しかねません。このコード入力とチェックを自動化することにより、復旧までの時間を大きく短縮できました。

KDDIの保守監視センター内で働く人

ーーーやはり普段から復旧時間の短縮はかなり意識しているのでしょうか。

真屋:はい、時間短縮の訓練は常に行っています。例えばお客さまがコンビニでお支払いの際に通信障害が発生し、au PAYが使えなければ大問題です。それが数秒後に復活すれば、お客さまの不便は少なくすみます。携帯電話でできることは、以前は電話やメールが主流でしたが、今ではau PAYなど決済や、イベントやテーマパークの入場チケットの代わりにもなり、通信でできることがどんどん広がっています。このように生活すべてに通信が関わっているからこそ、通信を止めないよう、何が起きてもすぐに復旧できる対応を目指しています。

②保守運用拠点の2拠点化による「安定的な通信の提供体制」

通信を守るためのもうひとつの強化ポイントが、保守運用拠点の2拠点化だ。この「2拠点化」という言葉は聞き慣れない人も多いと思うが、同じ機能を持つ拠点を2つ持つということだ。具体的には、今までは東京にある保守運用拠点をメイン拠点とし、大阪にある拠点がそのバックアップという体制をとっていたが、万が一どちらかに何があっても対応できるよう、東京と大阪の2拠点を同じ保守運用機能をもつ並列の体制とし、この2拠点を含む全国12拠点が連携することで、今まで以上に、全国に安定した通信を提供できるようになった。

KDDIの全国12拠点における保守監視体制

この主拠点となる東京と大阪の保守運用拠点は、2021年7月と11月に新たな場所に移転。縦横の衝撃を吸収する地震対策が施された耐震設備や、揺れがあったことを計測する機器など、災害に強い設備を備える場所に移転することで、生活インフラを守る要となっている。

KDDIの保守監視センターの縦横の揺れから柱を守る衝撃吸収構造縦横の揺れから柱を守る衝撃吸収構造(東京多摩拠点)

KDDIの保守監視センターの揺れがあったことを観測する計測器揺れがあったことを観測する計測器(東京多摩拠点)

これらの2拠点化に加え、ネットワーク自体も途切れないよう複数ルートを確保したり、通信設備自体も何かあった際にすぐ切り替えできるよう並列稼働(冗長化)したり、もしもの際にも電力を途切れさせないよう自家発電設備を持つなど、安定した通信サービスを提供できるよう、できる限りの体制を整えている。

KDDIの保守監視センターの2拠点体制など持続的継続可能な保守監視体制

大規模災害発生時の現地対応とは

では、実際に災害が起きた際、いかに早く通信を復旧できるよう、現場ではどのような対応を行っているのか。

2018年以降、近年では過去に類を見ない災害による甚大な被害が発生し、大小あわせると1,000を超す災害による被害が毎年発生する状況となっており、通信会社としても、これまで以上の復旧体制の構築が必要とされている。

それらの災害で携帯電話の障害を発生させる原因は大きく2つ。「電力の供給断」と「光回線の切断」だ。ひとつずつ見ていこう。

通信基地局が倒壊したときの写真
通信基地局が利用できなくなる原因

①災害時の通信基地局への電力の救済方法

まずは電力がないことには、通信設備は何も動かない。この対応としては、電源車かポータブル発電機で完全復旧までの対応を行う。

KDDIが災害時に通信基地局を復旧するための電源車とポータブル発電機

②災害時の通信基地局への回線の救済方法

また、光回線が切断されたときは、車載型の通信基地局か、持ち運びできる可搬型の通信基地局を利用して完全復旧まで通信をつなぎ続けるというわけだ。

KDDIが災害時に通信基地局を復旧するための車載型の通信基地局と持ち運びできる可搬型の通信基地局

では、災害により道路が寸断され、基地局までたどり着けないときはどうするのか。そのような場合には、オフロードバイクやバギー、水陸両用車で復旧機材を運搬する。

KDDIが災害時に通信基地局を復旧するために利用するオフロードバイクやバギー、水陸両用車など

もちろん、陸路だけではない。ドローンやケーブル保守船、基地局搭載型のヘリなど、陸海空すべてで基地局復旧までのサポートを行う。

KDDIが災害時に通信基地局を復旧するために利用するドローンやケーブル保守船、基地局搭載型のヘリなど

このように設備体制の増強だけでなく、IT化による復旧時間の短縮化に取り組んでいるという。

KDDIエンジニアリング ネットワーク監視センター担当者

佐藤:災害現場のような大規模障害対応の場面でも、できるだけ早く復旧できるようIT化が進んでいます。今までは現場から電話で受けた報告を元にホワイトボードに状況を書き出し、指示していましたが、2021年からは現場の状況が地図上にマッピングされ、効果的で合理的な指示ができるようになりました。

真屋:具体的には、復旧に必要な発電機や移動型基地局にセンサーをつけ、今どこになにがあるかをオンラインで把握できるようにしました。さらに作業員の位置情報も把握することで、電話で都度状況を確認しなくても、リアルタイムに位置関係がわかるようになりました。今後も様々なIT技術を駆使しながら、更なる復旧時間の短縮化に取り組んでいきます。

KDDIエンジニアリング ネットワーク監視センター担当者

ーーー保守体制も日々進化しているわけですね。

佐藤:はい、通信が常に進化しているからこそ、私たちも日々進化していかなければならないと考えています。そして運用自動化が進んでも最後は人の手による修復も必要ですので、現地で復旧活動に協力いただいているパートナ企業さまと一丸となり、安心してお使いいただける通信を24時間365日、守り続けたいと思います。