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 千葉県いすみ市の公立病院「いすみ医療センター」で8~9月、厚生労働省の通知に違反して内服薬の「アビガン」が新型コロナウイルスの自宅療養者に処方されていた問題で、同センターは7日、記者会見を開き、11歳と14歳(当時)の子どもに処方していたことを明らかにした。子どもへの処方について、日本小児科学会は「安全性、有効性は未確認」として推奨しておらず、専門家は「不適切だ」と指摘している。

 処方していたのは、同センターで11月末までアドバイザーを務めていた平井
愛山あいざん
医師(72)。8月、観察研究への参加を厚生労働省に申請してアビガンを調達し、9月12日までの約1か月間、自宅療養者に処方した。同センターは記者会見で、処方を受けた患者は98人おり、「8人が未成年で、中には11歳、14歳がいた」と説明。「いずれも家庭内感染で、両親には副作用を説明した」とした。

 同センターの関係者によると、14歳の患者については、院内スタッフが処方2日後に保護者へ連絡して「飲まないでほしい」と伝えたが、保護者は「既に飲んでいる」と答えた。成人と同じ用量を飲んだとみられる。11歳、14歳の2人も含めて、これまでに患者から健康被害の報告はないという。

 アビガンを開発した富士フイルム富山化学(東京都)は、薬事承認の前提となる治験で15歳未満に投与された実績はないとしている。平井医師が参加した観察研究の代表研究機関・藤田医科大(愛知県)によると、今年7月時点で処方された1万5245人のうち、小児への投与は1例あるが、重い基礎疾患がある子どもに用量を減らして投与したケースだった。服用した小児は回復したという。

 小児科医の
釜萢かまやち
敏・日本医師会常任理事は「コロナの病態が不明な時期に高リスク患者へ投与するなら考えられるが、アビガンの有効性がはっきりせず、催奇形性の副作用もある中、小児に対して投与したのはきわめて不適切。経緯をしっかり検証してほしい」と指摘している。

 いすみ医療センターが7日夕に開いた記者会見には、伴俊明・病院長らとともに、平井愛山医師が出席した。平井医師は、自宅療養者にアビガンを処方していたことについて、「厚生労働省に事前に相談する形で進めていればよかったと深く反省している」と研究責任者としての責任を認めた。ただ、「非常事態」だったとして、患者への謝罪については「現時点ではない」と述べた。

 平井医師は、国の承認を受けている同じ抗ウイルス薬「レムデシビル」が初期症状の患者に効果を上げていることから、アビガンも「効果がある」と考え、使用したと説明。観察研究を含む臨床研究に参加するための手続きに必要な倫理審査が行われていないことも明らかにした。

 また、在宅投与については、いすみ市を所管する県の
夷隅いすみ
保健所の松本良二所長が決断したと強調した。

 こうした平井医師の説明について、松本所長は同日、読売新聞の取材に「必要な手続きが済んだといわれたので、使ってくださいと言っただけだ。進めたのは研究責任者である平井医師だ」と反論した。

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アビガン
=新型インフルエンザ治療の内服薬。新型コロナウイルス感染症の治療薬としては未承認(治験中)だが、医師が患者に通常の診療を行った結果を調べて知見を得る「観察研究」(臨床研究の一つ)に参加することで、患者の同意を前提に投与が認められている。動物実験で胎児に催奇形性が確認され、厳重な薬剤管理が求められることから、厚労省は「自宅療養での投薬はできない」と事務連絡の形で通知している。