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北海道から沖縄まで、全国各地にはその土地の名産や特産を生かした「ご当地サイダー」があります。サイダーは柑橘類やフルーツ全般との相性がいいので、味覚の秋には、旬のフルーツを使ったサイダーの製造が増える時期なのだとか。

 

このご当地サイダーのなかには、仙台の「牛タンサイダー」や静岡の「うなぎコーラ」など、飲むことで“ご当地グルメ”を味わえる楽しいラインナップも。全国各地のメーカーがこだわりの材料で生み出したサイダーを調べる、さらに取り寄せて楽しむ……それだけでも、ちょっとした旅気分が味わえるかもしれません。

 

全国ラムネ協会の会長で、多くの地サイダーを手がけている木村飲料株式会社社長の木村英文さんに、ご当地サイダーの魅力を語っていただきました。

 

日本人の職人技がサイダーづくりにマッチ

昔からあるサイダー飲料といえば、瓶のラムネをイメージするのではないでしょうか? ビー玉入りの瓶のラムネは古来の日本文化のようなイメージですが、実は元々イギリスで開発されたものなのだとか。

 

「日本にサイダーが入ってきたのは、江戸時代の終わりです。1853年、ペリーが浦賀に来航したとき、船内に積んでいた飲み物のひとつにあった『レモネード』でした。『レモネード』という言葉が日本人には『ラムネ』と聞こえたことから、ラムネという名称が定着したようです。今では、ビー玉入りの瓶の飲料全般をラムネと言い、それ以外の炭酸飲料をサイダーと言います。

ラムネが誕生した初期の頃は、シャンパンのようにコルクを針金で止めたような形でしたが、1872年にイギリスのハイラム・ゴッド氏が、ビー玉で栓をするラムネ瓶を開発してからは、ビー玉式が定着しています。本国ではこのビー玉の形を統一するのに苦労したようですが、日本人は手先が器用なので、すぐに瓶入りラムネは普及していきました。

昭和初期には全国に2300社ものサイダー会社がありましたが、現在は、全国に34社という状況です。“絶滅危惧種のトキよりも少ない”ということは、非常に危機感があります。地サイダー、地ラムネを盛り上げていきたいですね」(木村飲料株式会社社長・木村英文さん、以下同)

 

ご当地サイダーの発祥ストーリーが興味深い!

全国ラムネ協会の会長の木村社長は、地サイダーや地ラムネが廃番しないよう、精力的に活動をされています。

 

「中小企業が作るサイダーは、大量販売の大手メーカーには価格や生産量で歯が立ちません。しかし、特産品を使ってこだわりの味を生み出すことができます。今、日本で作られている地サイダーや地ラムネの種類は、約250種類ありますが、古くからあるものには、発売当時のエピソードに興味深いものも少なくありません。例えば、山形はパインサイダーが有名なのですが、昭和30年代の開発当時、南国・沖縄のフルーツであるパイナップルはなかなか口にできるフルーツではなく、パイナップルへの憧れから誕生したと言われています。山形にはおいしいフルーツがたくさんあるにも関わらず、山形のソウルフードとしてパインサイダーが根強い人気を持っているというのも、地サイダーへの愛を感じますね」

 

山形食品「山形パインサイダー」250ml 108円(税込)

 

全国縦断! ご当地サイダーの注目ラインナップ

木村社長は自社商品だけではなく、全国各地の地サイダー、地ラムネの普及活動に精を出しています。オススメのラインナップをお聞きしたところ、「すべてです!」とのご回答が。そこで、全国各地の地サイダーや地ラムネの中からほんの一部ですが、ピックアップしてみました。

 

【北海道・東北地方】

・北海道のスーパーやコンビニでも手に入るソウルドリンク

小原「コアップガラナ」230ml 120円(税込)

北海道には、夕張メロンやハスカップ、ぶどうや焼きとうきびなど、さまざまな地元の名産品を使ったサイダーがあります。中でも注目したいのが、コーラに似ているけれど、独特な甘味と薬草感が特徴のガラナ。ガラナはブラジルの植物で、北海道が産地ではありませんが、北海道限定で販売されています。

「北海道だけに定着した『コアップガラナ』は、コカ・コーラが本州よりも3年後に上陸したからです。道民のソウルドリンクの地位を確立し、北海道内のスーパーやコンビニでも手に入る定番商品です」

 

・青森・八戸の漁港から広まった大正10年創業の強炭酸フレーバー

八戸製氷冷蔵
「三島シトロン」330ml 130円(税込)
「みしまバナナサイダー」330ml 130円(税込)

青森県を代表する老舗サイダーといえば「みしまサイダー」。1921年創業の八戸製氷冷蔵で作られています。地元の三島湧水を使った、昔ながらの機械と製法で作られている瓶入りサイダーは、シトロン(プレーン)とバナナ味が人気です。バナナ味は発売当時に高級品だったバナナを、少しでも多くの人が味わえるようにという思いで生まれました。強炭酸の爽快感は、地元の漁師から子どもまで多くのファンに愛されています。

「近頃発売した『イカスミサイダー』は、焼酎で割るのもおいしいとか。こちらも注目のサイダーですよ」

 

・勇気ある挑戦が功を奏した!? 仙台を代表するパワフル商品

トレボン食品「牛タンサイダー」340ml 250円(税込)

仙台名物・牛タンをモチーフにした炭火焼牛タン風味のサイダーは、2011年の東日本大震災後に、ユーモアで被災地を元気づけようとトレボン食品の社長が開発したものです。シュワっとほのかに甘いサイダーに、炭火焼牛の風味がマッチ? 1本あたりコラーゲンが1000mg入っているのは、女性にうれしいポイントと言えそうです。昭和25年創業のトレボン食品は、プレーン、いちご、コーラ、ブルーハワイなどの瓶ラムネやユニークな地サイダーのラインナップが注目です。

「トレボン食品の鶴戸社長は、伊達政宗のような破天荒さを持つ方です。今後の商品開発にも大いに注目したいですね」

 

【関東地方】

・栃木発のなつかしいラムネはスッキリパッケージがおしゃれ!

マルキヨーラムネ「アソートセットB」200ml×12本 1800円(税込)

栃木県足利市島田町、県道152号沿いにある1951年創業のマルキヨーラムネ。昔ながらの味を守り続けながらも、どこか新しく感じる商品のラインナップです。瓶入りのラムネの味は創業当時と変わらず、シトラス味の無色、ピーチ味のピンク、ブルー・ハワイ味のブルーに青りんご味のグリーンの4種類。どれもがかき氷のシロップを連想させる色と味わいです。

「マルキヨーさんはワイン作りの専門家でもあるので、ワインのラインナップもぜひ、チェックしてくださいね」

 

・神奈川の老舗がプロデュース、冬はホットでビール割りも

川崎飲料「ドルチェポップレモネード」340ml 200円(税込)

厳選したシチリア産レモン果汁を使用した微炭酸レモネード。寒い時期には温めてホットレモネードにしたり、ビールで割ったりするのもおいしいので、季節を問わず楽しめます。1952年創業の川崎飲料では、ほかにも「湘南ゴールド」という希少フルーツを使った「湘南ゴールドサイダー」や「塩レモンサイダー」「みかんサイダー」「横浜サイダー」などのラインナップがあります。

「川崎飲料さんは神奈川県を代表する地サイダー・地ラムネのメーカーです。魅力的なラインナップに注目です」

 

【中部地方】

・石川県の地元産業を盛り上げるこだわりのサイダー

DENEN「いしかわ地サイダー」340ml ×18本セット 4806円(税込)

石川県らしい魅力が詰まった4種類の地サイダーです。能登の海水塩を使った「奥能登地サイダー しおサイダー」、湯桶温泉ゆかりの芸術家・竹久夢二が描いた美人画が目を惹く「金沢湯桶サイダー 柚子乙女」、金沢すいかと塩の味がさわやかな「金沢砂丘サイダー すいか姫」、北陸最大級産地である能登のブルーベリーを使用した「能登の里山サイダー 青のしずく」。どれもが地元の特産品を使い、地域活性化への思いを込めて作られている地サイダーです。

「石川県のラムネ・サイダーメーカーは、残念ながら衰退してしまいましたが、こうやって石川県の地サイダーが開発されているのがうれしいですね」

 

・静岡名産のわさび漬け×ジンジャーエール、ピリッとドライな大人テイスト

木村飲料「WASABIジンジャーエール」240ml×20本 3700円(税込)

静岡のサイダーと言えば、木村飲料。こちらでは、静岡の名産品であるお茶やみかん、富士山の湧水、うなぎ、桜エキスや近隣県で採れるフレッシュなフルーツを使ったもの、メロンパンやカレーパンなど、バリエーション豊かな地サイダーや地ラムネが豊富に並びます。たくさんあって悩ましい中、ピックアップしたのは、わさび漬けの老舗「田丸屋本舗」との静岡コラボで生まれたジンジャーエール。焼酎のジンジャー割りなどにもよく合いそうです。

「『ジンジャーエール』と『わさび』のピリ辛な両者が合わさることで、パンチのあるハードな味わいに仕上げました。うなぎエキス入りの『うなぎコーラ』もお試しください」

 

・福井県大野の水と特産品を生かした上品なフレーバー

大野商工会議所「越前おおの名水すこサイダー」250ml 270円(税込)

大野商工会議所がある福井県大野市は、日本の名水の町。2017年にこの土地の湧水を使ったご当地サイダーの開発が企画され、2年の時を経て誕生したのが「すこサイダー」です。「すこ」とは、サトイモの一種であるヤツガシラの茎を甘酢漬けにした郷土料理で、やさしいピンク色と甘酸っぱさが特徴。ほのかに香る米酢とレモン風味が上品な味わいで、里芋の葉をモチーフにしたハートのマークのパッケージが、シャンパンのよう。ツイッター用語で好きを「すこ」と表現することから話題を集め、恋愛成就のサイダーとして注目されています。

「福井県には『北陸ローヤルボトリング』という老舗メーカーがあります。こちらのさわやかラムネもオススメです」

 

【近畿・中国・四国地方】

・サイダーの起源を大切にした大阪の歴史的復刻版

大川食品工業「大阪サイダー」330ml 130円(税込)

1951年創業のラムネ・サイダー専門店である大川食品工業は、大阪の銭湯でなじみの飲料として親しまれた、りんご味の「パレード」やメロンフレーバーの「シーホープ」を製造する老舗メーカーです。2010年に四半世紀ぶりに復活させた「大阪サイダー」は、メロン風味の昔ながらのソーダの風味をキープしつつも、レモンライムの香料で大人好みのすっきりとした味わいに。昭和のレトロ感あるパッケージがおしゃれです。

「大阪を代表するメーカーです。昔親しまれた『大阪サイダー』の復刻はうれしいことです」

 

・ポリフェノールたっぷり! 香川県小豆島のヘルシーソーダ

谷元商会「オリーブサイダー」200ml 200円(税込)

瀬戸内海に浮かぶ小豆島と言えば、オリーブオイルの名産地。オリーブの実を絞ると、2割ほどがオイルに、残りは果汁となり、果汁の方がポリフェノールは豊富です。しかし、果汁は苦味や渋みが強いことから食用の人気が低く、多くの果汁が捨てられていました。オリーブ植樹から100年を迎えた2008年、この果汁を有効活用する商品開発が進められ、誕生したのがオリーブサイダーです。青りんごのようなフレッシュな味わいで飲みやすく、果汁を有効利用できる商品ということもあり、県産品コンクールで知事賞を受賞しています。

「香川県の地サイダー・地ラムネメーカーは衰退してしまいましたが、こうやって、地元の食材をサイダーで味わえる商品開発が成功しているのはうれしいですね」

 

【九州・沖縄地方】

・佐賀県の老舗・友桝飲料の斬新な果実サイダー

友桝飲料「果実サイダー詰め合わせ」300ml ×24本 3110円(税込)

1902年創業の友桝飲料は、清涼飲料水の商品開発数日本一! 木村飲料と並び、地サイダーや地ラムネの普及に大きく貢献しているサイダー業界きっての元気な企業です。上品なパッケージのロングセラー「スワンサイダー」から始まり、「こどもびいる」やラムネ、お風呂上がりに飲みたい「湯あがり堂」など、遊び心あるラインナップが充実しています。コロンとした容器がかわいい果実サイダーは、ドリアン、マスクメロン、スイカ、豊潤白桃、完熟マンゴー、パインの6種類。それ以外にも、おしゃれなパッケージのラインナップも見逃せません。

「九州最大の地サイダー・地ラムネメーカーです。大手企業の下請けも引き受け、急成長している会社。今後の新商品開発にも注目です」

 

・宮崎のマンゴー果汁入りのトロピカルな炭酸水

「宮崎マンゴー地サイダー」245ml 270円(税込)

宮崎を代表するフルーツと言えば、マンゴー。マンゴー果汁入りサイダーをピックアップしました。同じメーカーの「日向夏サイダー」はさっぱりとした酸味で、ウイスキーや焼酎などのアルコール割りにも合いそうです。ほかにも、九州には名産品を使った魅力的なラインナップがたくさんあります。スイカ生産量日本一の熊本県の「スイカサイダー」、大分県の「かぼすサイダー」、鹿児島県の「屋久島たんかんサイダー」は、絶品まちがいなし!

「宮崎県のメーカーは衰退してしまいましたが、地元の食材を生かしたラインナップが出ていることがうれしいですね」

 

・沖縄・伊江島のイエソーダは「言えそうだ」が由来の告白飲料

伊江島物産センター「イエソーダ4本入り オリジナルBOXセット」200ml×4本 1100円(税込)

沖縄本島の本部港からフェリーで30分のところにある伊江島の、断崖絶壁の波打ち際「湧出(わじー)」に湧き出る湧き水を使用したソーダです。100%伊江島のサトウキビで作られた黒糖入りの「ブラックケインコーラ」が一番人気で、ほかにも、村花テッポウユリをイメージした乳酸系の「ホワイトソーダ」、真っ赤なドラゴンフルーツ入りの「ピンクドラゴン」、シークゥワーサーと湧出の塩「荒波」入りの「グリーンマース」の4種類があり、発売から2年で30万本を販売している人気商品です。

「こちらは沖縄県にある唯一の地サイダー・地ラムネのメーカーです。お取り寄せして旅気分を味わいたいですね」

 

全国各地のご当地サイダーはココをチェック!

まだまだほかにも全国には、たくさんの地ソーダや地ラムネがあります。

 

「一般社団法人『全国清涼飲料連合会』のホームページでは、全国の地サイダーや地ラムネのラインナップを紹介しています。販売元も記載しているので、ぜひ見ていただきたいですね。コロナ禍が続く中で、花火大会やお祭りが軒並み中止となっている今、販路が減って、中小の飲料メーカーは大きな打撃を受けています。ですが、日本の職人技が光る瓶入りラムネや丁寧に作られている地サイダーは、後世に伝え続けていくべきものです。フランスやイタリアなどの世界中から愛されているワインのような存在に、日本のラムネや地サイダーを育てていくのが私の夢です」

「2021年地サイダー&地ラムネカタログ」

 

ご当地サイダーはアレンジも楽しい!

そのまま飲むだけでも充分においしいけれど、アイスを乗せてアレンジしたり、凍らせたアイスやフルーツゼリーを入れたりしてソーダ割ドリンクにする楽しみ方もできます。

 

「塩系サイダーや柑橘系サイダーでウイスキーを割ってハイボールにしたり、焼酎やウォッカなどを地サイダーで割ったりするのもよく合いますよ」

 

↑こちらは木村さんの会社のスタッフが考案したアレンジだそう

 

インターネットにアクセスすれば、お取り寄せが簡単にできる時代です。自宅にいながら全国各地の地サイダーや地ラムネを味わってみるのはいかがでしょうか。フルーツやハーブ、アイスを加えたアレンジや、お酒で割ってオリジナルの味を楽しんでみましょう。

 

【プロフィール】

木村飲料 社長 / 木村英文

1956年静岡県島田市生まれ。大学卒業後、祖父が起業した木村飲料に入社し、1999年に3代目取締役社長に就任。「必勝合格ダルマサイダー」「わさびらむね」「カレーラムネ」「うなぎコーラ」などのユニーク飲料を発売し、ヒットさせる。全国清涼飲料工業会理事、静岡県清涼飲料工業組合理事長、全国ラムネ協会会長、島田関税会会長も務める。
http://www.kimura-drink.net