横綱白鵬引退――衝撃的なニュースが舞い込んだ。
9月場所こそ全休した白鵬だが、それは所属の宮城野部屋にコロナ陽性者が出たため。先の7月場所は全勝優勝を果たしている。なのに今なぜ“引退”なのか。
各報道は、彼の右膝の状態が限界に達していたことを理由に挙げている。
「それも事実ですが、ある“商業的”な事情も見え隠れしているんです」
と大手紙相撲記者が囁く。
本題に入る前に、“一代年寄問題”についてご説明しよう。実はこれも引退を早めた遠因になっている。
周知の通り、大鵬や北の湖など功績のある横綱に対しては、本人一代に限り四股名を年寄名跡として認める“一代年寄”という制度がある。史上最多45度の優勝を誇る白鵬は有資格者に思えるし、本人もかねてより襲名を切望していた。
だが、今年4月、日本相撲協会が設置した有識者会議は、「定款にない」とし、この制度の存在を否定した。
「そのため、彼の一代年寄襲名は絶望的になりました。一代年寄になれるなら、こんなに急いで引退しなくてもよかったのですが……」
一代年寄になれない白鵬にとっての次善の策、それは名門・宮城野部屋を継承することだ。実は、こちらにはタイムリミットがある。
「宮城野親方は来年8月に65歳になり定年を迎えます。その時、部屋を継承する者、つまり白鵬は“親方”になっていないといけません」
断髪式の日取りを気にして…
ここで忘れてはいけないのが、“断髪式”である。人々が順に大銀杏に鋏を入れるアレだ。これをしなくても親方にはなれるが、白鵬クラスとなるとそうはいかない。力士によるが、横綱クラスだと億単位のご祝儀が集まるからだ。なお、部屋継承後に断髪式を行うこともあるが、それは前の親方が急逝した場合など例外的なケースに限られる。
そして、逆算すると、
「直前の7月場所は名古屋開催なので、断髪式は両国で行う5月場所後が丁度良い。その場合、切符販売等の準備に半年はかかるので、引退のリミットは11月場所になりますが、そこまで待つと良い日取りが埋まってしまう恐れがある。断髪式は場所直後の土日曜がベスト。日取りは番付に関係なく早い者勝ちなので、引退を今決めるしかなかった」
算盤を弾いた引き際。
「週刊新潮」2021年10月7日号 掲載