自虐ネタは創造性と関連していました。
中国の首都師範大学(CNU)で行われた研究によれば、自虐ネタを使いこなす人は脳領域(眼窩前頭皮質)の灰白質(細胞量)が大きく、発想力に代表される創造性に優れている可能性がある、とのこと。
自虐ネタは自分をネタにするテンプレートのないユーモアであり、即興性や演出力も求められるため、創造性がかかわる分野だったようです。
研究内容の詳細は『Brain Imaging and Behavior』に掲載されています。
目次
- 創造性にあふれた大物たちは自虐ネタでレジェンドを作っている
- 自虐ネタが好きな人は特殊な脳構造をしていおり創造性が干渉する
創造性にあふれた大物たちは自虐ネタでレジェンドを作っている
自虐ネタは数あるユーモアの中でも、最も難易度が高いものの1つです。
「俺って何をやってもダメだから」
「私って不細工なの」
などは単なる自虐で「ネタ(ユーモア)」が含まれていません。また
「うちの会社ってマジ終わってるから」
「地元がクズばっかりだったから」
などは自分以外の存在を引き合いにだしており、自虐ではなく単なる愚痴です。
一方で、ソフトバンクの孫正義社長は自身のハゲについて
「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」
と述べ、その言葉は多くの人々の記憶に残りました。
孫正義社長の先進性は誰もが疑わない事実ですが、ハゲもまた疑いようのない事実です。
ですが孫正義社長はこれら2つの客観的事実を合わせて、自虐ネタを完成させました。
自分自身のキャラをわかっているからこその自虐ネタと言えるでしょう。
またFacebookの創始者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、かつての母校であるハーバード大学に招かれ、卒業生たちへの祝辞を求められた際に冒頭でいきなり
「あなた方は私ができなかったことを成し遂げた(ザッカーバーグ氏は中退したから)」
と切り出し、笑いと共に人々を一気に引き付けました。
ハーバード大中退の経歴を持つ自分の存在、にもかかわらず卒業式で祝辞を述べさせられている奇妙さ、Facebookの創始というハーバード卒業よりも遥かに難易度の高いことを成し遂げた自らの業績……それらすべてを計算して混ぜ合わせ、自虐ネタを成功させたのです。
さらにザッカーバーグ氏の自虐ネタは、ハーバード大卒の「肩書」を得た卒業生たちに対して、多くを成し遂げた企業家としての「小粋な挑戦状」とも言えるでしょう。
さらに万有引力を説いたアイザック・ニュートンの述べた
「私は海辺で遊んでいる少年のようである。ときおり、普通のものよりもなめらかな小石やかわいい貝殻を見つけて夢中になっている。真理の大海は、すべてが未発見のまま、目の前に広がっている」
という一説は、全ての物理学者が記憶するものになっています。
自分を浜辺で貝や小石を拾っている「少年に過ぎない」と自虐するシンプルなものですが、今日の科学文明は全て彼が拾った「貝」や「小石」の上に築かれています。
ニュートンの場合は笑いを取ろうとしたかは不明ですが、自らを卑下した言葉が正反対の尊敬や感銘を与える効果をうんだのは間違いありません。
このように自虐ネタは成功すれば単なる笑いを超えて、一発で場の雰囲気を変え、自分の存在を強く他人に、ときには歴史にも刻み込めるようになります。
そこで今回、首都師範大学の研究者たちは自虐ネタを得意とする人の脳を調べ、自虐ネタがどのような神経メカニズムで生成されるかを調べることにしました。
自虐ネタがうまれるとき、脳の中では何が起きているのでしょうか?
自虐ネタが好きな人は特殊な脳構造をしていおり創造性が干渉する
自虐ネタを起こしている神経メカニズムはどんなものなのか?
謎を解くため、研究者たちは280人の被験者たちのユーモアのスタイルを調査し、次にMRIを使って被験者たちの脳構造を詳細に調べました。
結果、自虐ネタを好んで使用する人々では、左眼窩前頭皮質と呼ばれる左目の奥にある脳領域において、灰白質のサイズが他のユーモアを好む人々に比べて大きいことが判明します。
眼窩前頭皮質は意思決定や認知機能、価値評価にかかわる領域であり、ユーモアの生成とも深く関連しています。
自虐ネタを生成するには一度自分の価値を落としてから上げるという鋭い価値判断が必要になります。
また自虐ネタは自分を正確に認識する高い認知機能が備わっていなければ、ユーモアとして成立させることができません。
そういう意味では、眼窩前頭皮質の脳機能(灰白質)が強い人は、自虐ネタの使い手になる素質があると言えるでしょう。
続いて研究者たちは被験者の発散的創造性をテストによって評価しました。
発散的創造性とは発想力に代表される自由度の高い状態での創造性を意味します。
創造性豊かな大物たちの例をみても、自虐ネタが成功するかどうかは高い創造性にかかっている可能性があったからです。
結果、高い創造性を持つ人の場合、自虐ネタ好きであることと眼窩前頭皮質の灰白質が大きいことは強く関連していました。
一方で、創造性が低い人の場合、両者の関係は低くなっていました。
どうやら自虐ネタと脳構造の間には関連があり、創造性はそれらの要素に干渉しているようです。
「大物ほど自虐ネタを使いこなすのが上手い」ということがよく言われていますが、その根源にあるのは創造性の高さと特殊な脳構造なのかもしれません。
研究者たちは今後も、ユーモアの背後にある神経基盤を解明していくとのこと。
もしユーモアと脳の関係が解明されれば、自分がどんなお笑い芸人に向いているかを事前に診断できるかもしれません。
参考文献
Neuroimaging study reveals link between self-defeating humor, creativity, and gray matter in the frontal cortex
元論文
Relationship between self-defeating humor and the Gray matter volume in the orbital frontal cortex: the moderating effect of divergent thinking
https://link.springer.com/article/10.1007/s11682-020-00412-5