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J−WAVEの人気ナビゲーターとして活躍中のサッシャさんが旬のミュージシャンと対談する音楽連載。今回のゲストミュージシャンはSKY-HIさん。自身のソロ活動はもちろん、マネジメント/レーベル「BMSG」の立ち上げ、ボーイズグループのプロデュースなど、その多岐にわたる活動を4回にわたってお伝えしていきます。初回はSKY-HIさんの意識が変わったという、30歳で武道館に立ったときのことについて。

ソロアーティスト・実業家・プロデューサーとして、挑戦の真っ只中にいるSKY-HIの偉大なる信念

◆Guest Musician:SKY-HI

すかいはい/2005年にAAAのメンバーとしてデビュー後、ソロ名義「SKY-HI」としても’13年にメジャーデビュー。卓越したラップやダンス、ヴォーカルなどの技術を携え、ジャンルの垣根を越えた存在として活躍する。’20年にはマネージメント/レーベル「BMSG」を発足し、代表取締役CEOに就任。第1弾アーティストとしてNovel Coreと契約。同年、ボーイズグループオーディション「THE FIRST」で誕生した、7人組ダンス&ボーカルユニットBE:FIRSTのプロデューサーも務めるなど、更なる活動の幅を広げている。

見ないふりをしてきた自分に限界を感じた30歳。
嘘がない自分でいることを選んだ覚悟の一歩

サッシャさん(以下、S):自身のソロ活動ではアルバムをリリースしたばかりのSKY-HIさんですが、もうひとつ力を入れていることといえば、自身で立ち上げたマネジメント/レーベル「BMSG」ですよね。ボーイズグループオーディション「THE FIRST」も話題になりました。まずは、そのお話から聞かせていただけますか? 多額の私財を投じてまで、こうした活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

SKY-HIさん(以下、SK):ちょうど自分の単独武道館公演(‘17年5月2日、3日)を終えた、5年くらい前のことでした。そのとき、今後の自分がうっすら見えたというか、「このままではまずい」という危機感を覚えて。これはもう「日本を変える」か「自分が負ける」かのどっちかになると思ったんです。

S:武道館に立つことってミュージシャンにとっては成功の証だと思うのですが、その場所で「自分が負ける」とは…。いったい何が見えてしまったのでしょう。

SK:日本の芸能界で売れるためにはフォーマットみたいなものがあって、そこにはまってしまうと自分らしく思い切ってやれないとわかっていたのに、「気づかないふり」をしていたと確信したんです。なんとなく自分をそのフォーマットにはめこんでしまっていた。

S:求められるものに応じることができるんですね、きっと。

SK:はめようと思ったけど、はまれないというほうがよっぽどラクで。だって、諦めるしかないから(笑)。でも、おっしゃる通りで、自分はよくも悪くも順応して、はまれるなって思ったんですよね。そうなったときに、数年後、その形のまま大きくなる自分を想像して、そんなに幸せじゃないかもと。自分が守ろうとしている形ってなんだろうと考えたときに、人として、また音楽としても健全なことをやりたかった。また、それができる環境にしたいと思いました。

S:それって自分のことだけを考えて、というわけではなさそうですね。

SK:いや、8割くらいは自分のことです。ただ、今の日本の音楽業界は健全ではないと感じていた部分もあって。でもそれは、だれが悪いとかではないんです、きっと。

S:それってもう、時代の流れみたいなものでしょうね。

SK:30年くらい前の音楽業界はミリオンセラーを連発したCDバブル期で、それをみんなが見続けてきたわけだから、がらっと現状を変えるというのは大変だとわかっています。でも、そこを覆さないと自分が自分でいられなくなると思いました。

S:年齢も関係していますか? 5年前っていうと29歳?

SK:ちょうど30歳でした。特に年齢を意識したつもりではなかったけれど、19歳のころにKREVAさんが30歳で武道館公演をしたということもあって、自分もというのはありました。もともと若いころからラッセル・シモンズ(ヒップホップの名門レーベル「デフ・ジャム」創始者)の本に刺激を受けたりもしていて。エイベックスの門戸を叩いたのも、創業者としての松浦勝人さんに興味があったという部分が大きかった。自分も10代のころから、いつかそうなりたいと思っていたので。それがもう「今やらないとダメだ」ってところまできたという。そこから5年かかっちゃったっていうだけですね。

S:もともと裏方の仕事にも興味があったんですね。AAAの活動中に、SKY-HIとしてMCバトルやクラブでの活動といったアンダーグラウンドでも積極的にプレイしていましたが、常に模索しているというか、切り拓こうとしていた印象があります。

SK:そうですね。多少はみ出したりミスしたりしてもいいから、自分の考えをもって行動したいというのは幼少期からの性質としてあると思います。主催した「THE FIRST」(ボーイズグループのオーディション)を始めたのは、嘘がない環境で創作活動をしたいと思ったから。今までの活動の中では「芸能は夢を売る仕事」的な、嘘を内包しなければいけないこともあって、そこに対しての気持ち悪さはずっとありました。

S:「嘘がない」っていうのは、これからの時代、当たり前の価値観になっていくのかな。

SK:う〜ん、どうでしょうね。でも、インターネットのおかげで生配信も当たり前になってきて、なんとなくこう… 嘘が露呈しやすくなっているとは思います。逆にいうと、本音とか本気のものにスポットが当たる時代がきたのかなとも。

S:自分の心に素直でいるために突破口を模索し続けてきた感じでしょうか?

SK:それが微妙なところで…。正直、多少本意じゃなくても自分的にはあまり問題なくて。自分がはまることで周囲が上手くまわるなら頑張りたい、と思うタイプでもあるんです。

S:そうか、はまれる自分がいるって言っていましたね。求められる自分でいることもできると。だからこそ疲弊するんですよね。

SK:はい。SNSなんかだと、自分の話をする人と、直接は会ってないのに遭遇するようになっちゃいましたよね(笑)。そこで寄せられる自分の話っていうのは、確実に遠い自分のことのほうが多くて。

S:求められている自分がひとり歩きして、本当の自分がそれを傍観しているという謎の現象…。それが、現状を覆さないと自分が自分でいられなくなる、という葛藤と関係していますか?

SK:自分じゃない自分の話を、自分以外の人がしている感覚って、精神的によくないんです。でも、そう思う自分に少し自己嫌悪も感じる。申し訳ないなというか…。

S:SNSでSKY-HIさんの話をする人たちだって、別に悪気あるわけじゃいですしね。

SK:そうなんです。その人たちに悪気あるわけじゃないんだけど、どうしようもなく…、それに傷ついてしまう自分に自己嫌悪で、さらに傷つく… という負のスパイラルで。そういう中で、音楽をつくること以外に逃げ道がなかったという感じです。

S:そうか…。求められる自分を全うしたい気持ちもあるけれど、自分を守るためにも立ち上がらざるを得なかった。会社の中にいても、そういう状況ってきっとあると思います。やっぱり、最終的に自分に嘘はつけないですからね。

<Vol.2へ続きます>

【Information】3年ぶりのオリジナルアルバム『八面六臂』が好評発売中!

シングルとしてリリースされた『Mr. Psycho』『仕合わせ』『To The First』『Dive To World』のほか、s**t kingz(シットキングス)やMichael Kaneko、ちゃんみななど多彩な客演陣が参加した楽曲を収録。SKY-HI自身が一緒に音楽をつくりたいと思う相手とともに、音楽で遊び尽くした一枚。/¥3,300(CD)、¥8,800(CD+DVD、CD+Blu-ray)avex trax

【サッシャさん衣装】
コート¥484,000・シャツ¥253,000・ストール¥95,700(イザイア ナポリ 東京ミッドタウン〈イザイア〉) デニムパンツ¥14,080(ベルベルジン〈リーバイス〉) 靴¥66,000(パラブーツ青山〈パラブーツ〉)

【協力社リスト】
イザイア ナポリ 東京ミッドタウン:03-6447-0624
ベルベルジン:03-3401-4666
パラブーツ青山:03-5766-6688

撮影/岡本 俊(まきうらオフィス) スタイリスト/安本侑史(SKY-HIさん分)、久保コウヘイ(サッシャさん分) ヘア&メイク/眞弓秀明(SKY-HIさん分)、渋谷謙太郎(SUNVALLEY/サッシャさん分) 構成/宮田典子(HATSU)