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 国のコロナ補助金をめぐる大がかりな不正疑惑。不正グループはピラミッド型となっていますが、その頂点に立つとされる組織を直撃しました。裏に潜んで利益を吸い上げる組織の実態に迫ります。

 私たちが新たに入手した不正グループの動画。メンバー向けに金の分配を説明している。

不正グループの動画
 「自分の周りも集めてくれた人にはお金を渡していこうと思って、きょうはその分配を説明したいと思います」

 国からだまし取った補助金の大部分が「サポート」と呼ばれる組織に上納されるという。

不正グループの動画
 「サポートが絶対必要なので、○○さんというネットワークのリーダーなんですけど」

 不正グループは、このサポートと呼ばれる人たちが上に立つピラミッド構造になっている。その下には運営役や実行役がいる。

 今回、予算100億円のコロナ対策補助金「デジタル化応援隊事業」が彼らの標的となった。リモートワークを導入したい個人事業主などがIT専門家からコンサルを受ければ、そのコンサル費用を最大30万円まで補助するものだ。

 不正グループは実行役として偽の個人事業主役と偽のコンサルタント役をSNSで募集、リモートで面会させる。そして、短時間に何度も着替えて写真を撮り、数日にわたりリモートで長時間コンサルを受けたように偽装工作。補助金をだまし取る。

 私たちは、不正請求の手口が事細かに書かれた文書を関係者から入手した。いわば「不正受給マニュアル」。なかには、こんな文章がある。

不正グループのマニュアル
 「コピー&ペーストOK。テレワーク導入の基本から教えてください」

 この文章から不正に気付いた人がいる。不正とは全く関係なく、デジタル化応援隊事業に正当に参加し、コンサルを行っていたIT専門家だ。

不正に気付いたIT専門家
 「どういう相談があるか毎日チェックしていると、ある日だけ30件ぐらいばっと来た」

 ある日、コンサルを受けたいという個人事業主の登録が一気に増えたという。その個人事業主たちの「相談内容」が一言一句同じだったのだ。

不正に気付いたIT専門家
 「30件の案件が全部一字一句同じ内容」

村瀬健介キャスター
 「一言一句みんな揃っているということですか」

不正に気付いたIT専門家
 「30件全部、相談内容が『テレワーク導入の基本から教えてください』の文言」

 その文言は、あのマニュアルとぴたりと一致した。

不正グループのマニュアル
 「テレワーク導入の基本から教えてください」

 このマニュアルには解説動画まで用意されている。

不正マニュアルの解説動画
 「この画面で実際に作業していきます。ご参考にしてください。では、さっそく始めていきます」

 女性は不正の発覚を防ぐための注意点を挙げる。

指南役の女性
 「この中の一つの文をコピーすれば十分です。できれば、少し文を変えていただくとありがたいです。同じ相談内容がいっぱいになると不自然になってしまうので」

 マニュアルの一部には都内にある会社名が記されていた。取材を進めると、この会社こそ、マニュアルを提供し、ピラミッド構造の上に立つ「サポート組織」だとわかった。裏に潜んで利益を吸い上げる不正グループの幹部を直撃する。

村瀬キャスター
 「このマンションの中に、このマニュアルを提供している会社があります。これから直接訪ねていきます。よし、行くよ」

村瀬キャスター
 「ごめんください」

村瀬キャスター
 「登記簿上はここに本社が登記されているんですが、全く人の気配がしません」

 会社代表の男性の携帯に電話をかけた。

村瀬キャスター
 「もしもし」

 電話に出たのは女性。

村瀬キャスター
 「(代表者)の携帯電話ですか」

女性
 「今いないんですけれども、ご用件お伺いしてもよろしいですか」

村瀬キャスター
 「デジタル化応援隊のことで伺いたい」

女性
 「それでしたら担当者は私です」

村瀬キャスター
 「(担当者)さんですか?」

女性
 「はい、そうです」

 聞き覚えのある声・・・あの解説動画の女性だ。

村瀬キャスター
 「不正請求では」

女性
 「不正などは私どもは推奨は全くしていなくて」

村瀬キャスター
 「マニュアルはご自身で作っているのでは」

女性
 「何個か作っているのと、何を指しているのか、ちょっとわかりかねるのですが」

村瀬キャスター
 「ご自身が説明している動画も見ている」

女性
 「そうなんですね」

村瀬キャスター
 「不正だとわかっているのでは」

女性
 「(動画を)送っていただいていいですか。私がお話させていただくような義務はないかと思いますので」

 電話は一方的に切られた。

 国は不正請求への対策として申請手続きを厳格化し、不正は事実上行えなくなった。

 その直後の8月上旬。

村瀬キャスター
 「来た来た。もしもし・・・」

 不正グループが新たな勧誘を始めた。

不正グループの勧誘役
 「(デジタル化応援隊事業が)なくなってはいないが、作業が多くて割に合わなくなってしまって、我々のグループは撤退しようかなと。代替案としてほぼ同じ条件でもっと単価の高いものが案内できるので、今回の補助金の案件をご紹介している」

 デジタル化応援隊事業とは別の補助金をだまし取る計画だ。また個人事業主役になるよう誘われた。

村瀬キャスター
 「事業はやっていないし、やる予定もないが」

不正グループの勧誘役
 「大丈夫です。何かをしている体で、それに沿ったモノを作る感じになりますね」

村瀬キャスター
 「事業やっている体で」

不正グループの勧誘役
 「そうです。まったく同じ状況で」