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 日本オラクルは、コロナ禍でのキャリアに対する意識の変化や、AIの活用に関する調査を実施。これによると、67%の人が私生活に行き詰まりを感じており、将来に不安を感じている人が28%、かつてないほどの孤独を感じているという人が28%に達していることが明らかになった。

 これは、オラクルが、Workplace Intelligenceと共同で、世界13カ国(米国、英国、UAE、フランス、オランダ、ドイツ、ブラジル、インド、日本、中国、韓国、シンガポール、オーストラリア)の1万4639人の従業員、マネージャー、人事部門リーダー、経営層を対象として実施している「AI@Work」の調査のなかから、日本における調査結果を公表したもので、今年で3回目となる。日本では約1000人が調査対象となっている。調査は2021年7~8月に実施した。

回答者の3分の2がパンデミックによりマイナスの影響を受けたと回答

 日本オラクルでは、「日本の調査結果では、パンデミックにより1年以上にわたって行動が制限され、不安定な状態が続いたため、多くの従業員が不安を抱き、孤独感などを感じている。だが、自分の将来を見つめ直す機会を得たことで、自身のキャリア開発に対して前向きであることも明らかになった」としている。

 2020年は、67%の人が、マイナスの影響を受けたと回答。そのうち、なんとか生活を維持していくことに集中したとの回答が25%となったほか、経済的に困窮した人が24%、メンタルヘルスが悪化した人が24%、かつてないほどの孤独を感じた人が15%、実生活からの疎外感が13%、仕事に対する意欲の減退が11%となった。

 だが、この調査では裏を返せば、3分の1となる33%の人が、マイナスの影響は生じなかったと回答していると言える。

マイナスの影響の原因

 また、この1年で、多くの人が、考え方を変えることを余儀なくされた実態も浮き彫りになった。

 86%の人が「この1年で自分の人生について振り返ることがあった」と回答。78%の人は、「パンデミック以降、自分にとっての成功の意味が変わった」と回答した。また、67%の人が「私生活に行き詰まりを感じている」と回答し、61%の人が「仕事での閉塞感が私生活にも悪い影響を与えた」と回答した。

 その一方で、64%の人は「変化を起こす準備ができている」と回答したという。だが、71%の人は「変化を起こす上で、大きな障害に直面している」と回答し、77%の労働者は「雇用主による支援に満足していない」と回答したという。

 日本の調査結果を分析した慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授は、「キャリアチェンジへの意欲はあるが、同時に大きな課題にも直面していることがわかる」と指摘。「昨年の調査では、メンタルヘルスのサポートが重視されていたが、今年の調査では、キャリア全体、人生全体をサポートするといった観点にまで広がっている。コロナ禍が長期化した影響が出ている」とした。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏

生活環境が「成功」の意味を変えているが、変化への対応には困難も

 これらの調査結果を少し深掘りしてみる。

 自分にとっての成功の意味はなにかという質問に対しては、「ワークライフバランスの実現」が最も多く30%となり、同じく「メンタルヘルネスを維持すること」が30%となったほか、「可能な限りお金を稼ぐ」が26%、「働く場所や時間に柔軟性がある働き方」が24%、「職場での成功より、家庭での成功のほうが重要」とした人も23%に達した。

 コロナ禍での生活環境の変化が、成功の意味を大きく変え、コロナ禍での体験が意識を変えたことがわかる。ちなみに、「自分にとっての成功の意味は変わらない」との回答は22%に留まった。

 仕事での行き詰まりでは、「キャリアアップの機会がなかった」、「周囲で起きていることに圧倒され、これ以上の変化を望まなかった」、「どのようにキャリアを進めればよいかわからなかった」、「適切なスキル不足で新たな機会を逃してしまった」、「リモートワークの環境で新しい仕事を始めることが不安だった」などが上位を占め、環境の変化が仕事やキャリア形成にも大きく影響を与えていることがわかった。

 また、生活への影響では、「ストレスや不安の増加」が33%、「私生活で行き詰まりを感じるようになった」が22%、「私生活への関心の低下」が22%となっている。

 一方で、変化を起こす準備ができている人が約3分の2を占めるものの、7割の人が変化を起こす上で、大きな障害に直面しており、その理由としては、「経済的に困窮している」、「何から始めればよいのかわからない」、「自分のスキルをどのように説明したらよいかわからない」、「自分に適したキャリア選択がわからない」などが上位を占め、新たな時代において、どう対応したらいいのかがわからない人が多い状況が明らかになった。

 とはいえ、岩本特任教授は「日本よりもテレワークの利用が進展している国の方が、ネガティブな結果が出ている。その点では、日本はまだましであると見ることができる」とも指摘している。

職場のAI活用、日本は最下位。今後の道のりは?

 調査結果では、日本の企業におけるAI活用についてもまとめている。

 これによると、職場で AI を活用している日本企業は 31 %に留まり、調査開始以来、 3 年連続で調査対象国のなかで最下位になったという。

 「47%の企業は職場での AI 活用の議論すらできていないという実態も明らかになった。事業部門のデジタル化は進んでいても、間接部門のデジタル化が遅れていることが背景にある」(慶應義塾大学大学院の岩本任教授)と指摘した。

 だが、その一方で、従業員側では、スキル形成やキャリアアップのためにAIなどのテクノロジーを活用することを望んでいる。

 調査によると、75%の人が自身の将来設計をするためにテクノロジーを活用したいと回答。68%の人は、AIによるレコメンドに基づいて仕事に変化を起こしたいと回答。また、72%の人が、AIは人間の担当者よりも、キャリアアップを効率的に支援できると期待している。そして、90%の人が、自身の所属する会社は従業員のニーズにもっと耳を傾ける必要があるとし、42%の人は、AIなどの高度なテクノロジーを利用してキャリアアップをサポートしてくれる会社に留まる可能性が高いと回答した。

 テクノロジーにサポートしてほしいものとしては、「新しいスキルを習得する方法の提案」、「自分に開発が必要なスキルの特定」、「キャリア目標達成に向けた具体的な次のステップの提示」が上位を占めた。だが、「自分の将来をテクノロジーに左右されたくない」という人が25%と、4分の1を占めている。

 また、キャリアサボートにおいて、人よりもAIに頼りたいことでは、「先入観のないレコメンドの提供」が40%を占めたほか、「現在の自分のスキルや目標に合ったリソースの提供」が28%、「現在の自分のスキルに合う新しい仕事を見つけること」が26%、「キャリアに関する質問にすぐに答えてもらえること」が24%を占めた。

 岩本特任教授は、「新型コロナウイルスによるワークスタイルの変化は、日本企業の従業員の生活にも影響を与え、自身の人生やキャリアをより深く考え始めている。その一方で、従業員がキャリアを考える上で、人よりもテクノロジーに期待する傾向が高く、日本企業は、キャリア開発の領域でも、海外企業に比べて大きく遅れているテクノロジーの導入や活用を強化することが重要になる」と提言した。