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8月17日に東京・なかのZERO小ホール、8月20日に大阪・東大阪市文化創造館での夏公演を控える、12歳~19歳の少女たちによるレビューカンパニー「少女歌劇団ミモザーヌ」。

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そしてバンダイナムコアーツとDeNAのタッグによる新スマホゲームプロジェクト。2021年内リリース予定のシンフォニックRPG『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』。

“歌劇”“ゲーム”―決して結びつくことのない、このふたつのプロジェクトは、とある人物が中心となっている点で共通しています。その人物の名は広井王子氏。そう、これまで『サクラ大戦』や『天外魔境』シリーズなどの原作を手掛け、特に前者タイトルで歌劇とゲームの融合を図ってきたとして著名なマルチクリエイターです。

そんな広井氏に、「少女歌劇団ミモザーヌ」が属する吉本興業の計らいによりインタビューする機会を得ましたので、前半は“歌劇”、後半は“ゲーム”について伺ったその模様をお届けしましょう。

総合演出を務める「少女歌劇団ミモザーヌ」―その誕生秘話とは?

――本日はよろしくお願いします。まずは2020年12月のデビューから半年が過ぎた「少女歌劇団ミモザーヌ」について、創設に至るきっかけを教えてください。

たしか2018年頃だったかな。それまで大阪をはじめ、西日本側の芸能について全くわかっていなかったので、上方落語などをちょっと勉強しようかなと思ったんですよね。それで知り合いに「いい人がいるから紹介するよ」と言われ、お会いしたのが大崎洋会長でした(笑)。

いきなりラスボス!もっと手前から会わせてよ!なんて思いつつ(笑)。僕が『サクラ大戦』を手掛けてきたことから、「そのリアル版は面白いかもしれない」「少女歌劇団はどうか?」という話にまで発展したんです。少女歌劇団と名乗る以上は11才~19才で構成しないと!……と現在の形に至りました。

いざメンバーを集めた後は「どうレッスンするか?」を考えていくうちに、“レッスンメソッド”を確立せねばならないとなりまして、アメリカやイギリスの教本を読んだり、本場のレッスンを経験している知り合いに尋ねたり、といったことにも取り組んでいます。

――若いメンバーで構成される「少女歌劇団」を選ばれた意図とは?

というのも、かつて60団体くらい存在していた「少女歌劇団」は、戦後になって消えてしまったんです。宝塚歌劇の創設当初の名は「宝塚少女歌劇団」で、かつて存在したSKD(松竹歌劇団)も「松竹少女歌劇団」でした。それらが“少女”を取ってしまったのはビジネスにならないから。少女である期間はあまりに短いので成り立たないんですね。

つまり戦後を生きる我々は「少女歌劇団」を見たことがない。当然僕も知らないので、それをもう一度作り直そうと思ったんです。少女が持っている純粋さというのは、日本が古来から「巫女」などで神秘性を感じてきたもの。大人もかつてはそうだったはずなんですよ。でもどうしても錆び付いちゃうから、少女たちへの応援を通して、その錆を落としてもらいましょうよと。

――そんなメンバー達と作品を作り上げていくなかで、広井さん個人として刺激は受けましたか?

とにかく彼女たちは“まっすぐ”なんです。僕らもかつては、仲間内で「映画作ろう!」と集まり、それにはギャランティなんて無くて、ああでもないこうでもないと話し合って……そうだったじゃないですか。それが仕事になり、色んなしがらみができ、マーケティング的な視点も必要となるなどで“最初の想い”というのは変化してしまう。

でも子どもたちは「その場にいたいか/いたくないか」の判断だけで何にでもトライするんです。僕は、レッスンをしている過程でこんな感覚を味わいましたね。「教えられているのはコッチじゃん!」って。そんな思いで2年間をかけて準備してきました。

――そんな入念な準備を経て、8月17日に東京公演を控える「Romance~恋するように~」にかける想いをお聞かせください。

しっかりとレッスンは重ねてきましたし、着実にそれぞれのスキルも上がっていますが、リモートの弊害でグループレッスンがなかなかできなかったので、残り一ヶ月を切っていると考えるとドキドキしていますね。でも、きっとできると信じています。

立ち上がったばかりの2018年頃は、「Welcome! sing sing sing」という曲をインプットするのに4日かかっていました。今は4時間もあればできてしまうくらいに進歩しているんですよね。今回お披露目する演目は計20曲、そのうち新曲が13曲もあるんですけども。

――20曲とは、かなりのボリュームですね……!ところで、広井さんはこのミモザーヌを含め、幅広い活動をされてきましたが、それら創作の原風景はどのようなものでしょうか。

やっぱり「家族」ですかね。母親は歌舞伎が好きでしたし、父はとにかく洋画が好きで、色んな作品を観に連れて行ってくれました。叔母はSKDの一期生だったので、楽屋には顔パスで入れましたね。小さい頃は、そんな形で目にした映画や舞台を一生観ていたいと思っていました。こんな面白いものを見逃す手はないと。今も365日ずっと観ています。それこそ Netflixを視聴すれば、歌舞伎やミュージカルも見に行きますし、もう時間が足りないですよね(笑)。

――そんななかで、どういった基準で視聴するコンテンツを選ばれているのでしょう?または、どう時間をやりくりされているのでしょうか?

僕は仕事の時間を絞っていますね。仕事は生活のためにしょうがないからやっています(笑)。例えば、打ち合わせの合間にも、飛び入りで舞台などを見に行ったりしますし、過去には会場に『サクラ大戦』関連で照明技師を担当されていた人がいて、「広井さんは入れてあげますよ!」と便宜を図ってくれたんですが、既に当日券を買っちゃっていた。なんてこともありましたね(笑)。とにかく作品を観るのが楽しくて楽しくてしょうがないんですよ。

――まさに“本能の赴くまま”ですね(笑)。倍速でコンテンツを観るなど、コンテンツの消費が早いユーザーが増えていると言える現在ですが、広井さんは正反対に感じます。

そんなに生き急いでもしょうがないですよ(笑)。というより僕は、観る映画のストーリーは意識していないんです。どんな映画のプロットも一種のパターンが決まっていてほとんど一緒だから、それに注目してもしょうがない。大事なのはキャラクターなんです。恐らくですが、倍速で映画を観る人はストーリーを知りたいんですよ。

例えば、とあるシーンに対して「この娘は何故、こんなにも悩んでるんだろう」と思考が働いたとします。それはカットとカットの細かな繋がりによって結実されているんです。僕はそういうものを見逃さないように観ていますね。それと、良い役者は眉毛一本動かすだけで、感情の変化を表現するんです。そんな小さな描写に涙がワーッとこぼれてしまう。

――勉強になります……!

実際に見たものと記録されたものが違う“舞台”は一回しか見られないのに対して、“映画”は繰り返し鑑賞できる、そういう意味では日記のようなものなんですよ。「この映画は当時、立ち見で鑑賞したんだ」なんてことをね、映画観る瞬間に思い出すんです。どの作品を見ても鮮明に。

つまり、僕が観た映画は僕のものなんですよ。そんな思いにふけるだけで1日が過ぎてしまう。それが映画の好きなところなんです。対して舞台は一期一会。「また見たいな」と思っても、思い出の舞台はもうやっていません。だからこそ、そんな映画や舞台を観るために仕事は最低限です。なるべく火曜、水曜、木曜日しか仕事しません。とはいえ今はミモザーヌの公演が控えているので、スケジュールはかなりギチギチになっていますね。

――広井さんといえば『サクラ大戦』の印象が強いファンも少なくありません。そして同作とミモザーヌの共通点であるのが「歌劇団」ですよね。

先ほど叔母がSKDに所属していたと話しましたが、実は血の繋がりは無いんですよ。そんな家庭の複雑さがありつつも、僕はその叔母が大好きでした。僕の小さな手を取って、ボックスステップの動きを教えてくれて……。4歳ぐらいの頃だったかと思うんですけど、そのステップを教えてくれた場所、畳の感触はいまだに覚えています。彼女の影響で歌劇団が好きになったのですが、自分が作る立場になるとは考えもしなかったですね。

それと母親が、終戦時……当時彼女が17歳だった頃の思い出を話してくれたことがあったんです。空襲に見舞われるなかでも、「好きな人がいたのよ」って。戦争下であっても空襲下であっても恋は生まれる。どんな辛い状況でも、人は人に恋をする。それにレビューが加わって『サクラ大戦』が生まれました。たしか昔もそういう表現をしたことがあるんですけど、あのときの『サクラ大戦』はあきらかに僕にしか描けない私小説だったと思います。

メディアミックスプロジェクト『takt op.(タクトオーパス)』では“原作”を担当

――貴重なお話をありがとうございます。続いては『takt op.』について、発表まで4年がかかった本プロジェクトが立ち上がった経緯を教えていただけますか?

まずは知り合い経由で、DeNAさんが新しい企画を欲しがっていると聞いたんです。実際に話を伺うと「広井さんとやりたい」となり、それから僕が「音楽をやりたい」となりまして(笑)。「音楽をキャラクターにする」という内容に決めてから、企画書を完成させるまでに約一年かかりましたね。

というのも、“この音楽をキャラクターにするとはこういうことだ”というキチンとした理由付けに時間がかかったんです。というのも音楽というのは、“数学”のように理論が決まっていて……。

――音楽は数学……ですか?

そうです。音楽には曖昧なニュアンスが一切ありません。形がハッキリしていて、演奏家はその通りに演奏しなければならないんです。その上で指揮者が関わることにより、解釈が無限に広がります。エンタメの原点とも言えますね。例えばシェイクスピアの舞台も同じで、台本に書かれてる内容は一緒なはずなのですが、演出と演じる人によって受け取り手に届くものは変わる。本作のキャラクターも、“指揮者とのふれあいによって変わるようなもの”にしたかったんです。

「宇宙が音楽を奏でており、それがこの世の調和をもたらしている」……そう言ったのはピタゴラスですが、「調和」というのは「ハーモニー」のこと。僕は実は、現代は調和が乱れ始めていると思っています。こういう時にこそ音楽が必要なんです。綺羅星の如き音楽が!

過去には世界恐慌は起きた時、その中心であったニューヨーク市は色んな公共事業を打ち切りました。でもニューヨーク・フィルハーモニック(ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団)は残したんです。その理由は、“街角で演奏し、市民たちの心の調和を保って、もう一度立ち上がろう”と。そのくらい音楽はパワーを持っているんですね。言い換えれば音楽は「心の調和の方程式」なんです。

そして、その方程式が記されているのがスコアで、その解釈にみんなで取り組んだんですよ。有名なクラシックの専門家からも協力いただき、キャラクターを作っていきました。「こんな演奏もありますよ」「じゃあ『運命』も、もっとこんな形であってもいいね」みたいなことをしたから、とても時間がかかりました。

――そんな“クラシック”をモチーフに作品作りをされるのは、いま広井さんがおっしゃったような“現代に対する想い”が主たる理由なのでしょうか?

それもありますが、たくさんのクラシック音楽を、皆が一度は耳にしていますよね。それこそ運動会をはじめとする色んな催し事で。ところがタイトル名が出てくる人は多くありません。それらにキャラクターを付けることで、子どもにも大人にも認知してほしいと思ったんですよね。

「これは『くるみ割り人形』だね」「それは『月光』だね」と言えるようになったら、すごく楽しいはずなんです。何が楽しいって世界中の人に通じるから。「月光」も「運命」も、同じスコアが世界中で知られているんです。そんな共通言語をもっと知ってほしいという目的もあります。

――そんな共通言語であるクラシック楽曲のなかで、敢えて広井さんが選ぶ“好きな一曲”について教えていただけますか?

1947年、フルトヴェングラー指揮のベルリン・フィル「ベートーヴェン/交響曲第5番『運命』」。一曲と言われればこれですね。ナチスに協力した汚名を着せられて演奏に参加できなかった、フルト・ベングラーのベルリン・フィル、復帰第一作なんです。それを自分達が愛したベルリンの地でやるんです。だからこそ……スコアが乱れているんです!

いつもはスコア通りの冷静な指揮をしているフルト・ベングラーが、これは本当に乱れていて……泣けてしまう。これだけを聞いたら「アレ?」って思ってしまうかもしれませんが、フルトヴェングラーの曲を聴いてきていれば、歴史的名盤だと認識できます。

―― すごく興味深いですね……!そんな楽曲、楽譜の力を宿した少女たちが本作には多数登場します。通称「ムジカート」とはどのような存在なのでしょうか?

名称自体は「ミュージック」から「ムジカート」にしただけで、重要な意味を持たせているわけではありません。細かい設定についてもまだ言えないですね。クラシックの楽曲の数だけ「ムジカート」は存在しています。

――ということはつまり、現在発表されている以外の楽曲をモチーフとする「ムジカート」が登場する可能性もあると。

その通りです。いずれはユーザーから希望を募るような企画も実施したいですね。さらに言うと、ものすごくヒットしたらクラシック以外の領域もピックアップすることになるかもしれません。企画段階で「ジャズを入れたいよね」「ジャズがOKならポップスも……」「日本のクラシックはやらないのか」といった話も出ましたし、長く運営が続けばそういうことも可能になると思います(笑)。

――本作にはキャラクターデザインに、人気イラストレーターのLAMさん。脚本に高羽彩さんと個性豊かなスタッフがクレジットされています。各人のインプレッションについても教えていただけますか?

まずLAMさんはネットなどで活躍を拝見していまして。初めてみた時は、ポージングのかっこよさなどにドキッとしたんですよね。そして北林プロデューサーに「彼、どうかな」って。一方で高羽さんはプロデューサー側から提案を受けました。劇作家さんなので心情描写が上手くて、「ここでガチャが必要だからこうして欲しい」という運営目線の要望に対して、「そうすると心情が合わなくなる」とすごく正しい指摘をしてくれるんです。

そして、そういうやり取りが起こると、スタッフみんなが「期間を変えよう」「別のアプローチに変えよう」「そこへに繋がるエピソードを入れよう」と考えてくれて……そんなことを果てしなくやってきましたね。

――それはすごいことですね。一般的な運営型タイトルの場合は、イベントやガチャに合わせてシナリオを変えたいものだと思いますが……ユーザー、クリエイター目線でスタッフみんなが考えるというのは素晴らしい体制だと思います。

北林プロデューサーをはじめ、ディレクターやシナリオライターなど10数人が現在関わっているんですが、毎週水曜日の会議で全員集まってシナリオについて話し合うんです。「魔の水曜日」なんて富んでいましたけど(笑)。ひどい時なんか6~7稿に脚本にさらに直しが入ることもあるなか、よくついてきてくれたと思います。『サクラ大戦』制作の初めの頃を思い出しましたね。

「この作品はシナリオ重視だ!」と、油井総合プロデューサーも北林プロデューサーも覚悟をしていたのではないでしょうか。大変若いチームなんですが、67歳になった僕を重要なポジションに据えてくれて、本当にスタッフの方々には感謝しています。僕、不安になって何回も聞いちゃいましたもん。「まだ役に立つ、俺?」って(笑)。それをみんなが支えてくれたし、すごくありがたかったです。だから全力で自分が持てるだけの力を出そうと思いました。だから、設定された締め切りは常に守り続けましたね。

――凄く密度のある3年間だったんですね。ところで本プロジェクトは、“メディアミックス”と発表されていますが、アニメとゲームはどのようにリンクするのでしょうか?

あ、それ聞いて欲しかった!(笑)。今だから言うぞ俺は!(笑)。ゲーム制作の依頼だったので、ゲーム前提で作っていたわけですよね。そしたらある日、急に「広井さんちょっと残ってもらえますか」と言われまして。そしたら「実はアニメ化をしようと思っていまして……」と。

当然、「馬鹿野郎!(笑)。これをどんな風にアニメ化するんだ!まだ作ってる最中じゃないか」となったんですが、「アニメは“エピソード0”として、アニメ化しませんか?」と。「馬鹿野郎!」って(笑)。

――つまりアニメはゲームの前日譚なんですね(笑)。

はい。なので主人公は一緒です。アニメ(エピソード0)で眠りにつき、ゲームで目覚めます。眠りについた理由については、ゲームをプレイすれば分かります。アニメからゲームはピッタリ繋がりますが、ゲームからアニメへと入る場合は、“回想”として見ることになりそうです。ちなみに、アニメの制作に入ると決まったらさらに忙しくなって、水曜日だけじゃなく木曜日も会議することになっちゃいました。馬鹿野郎!(笑)。ただ、アニメ制作をMAPPAさんにお願いすると決まった時は安心しましたね。知り合いのスタッフも何人かいますし。

――そんな裏話まで(笑)。詳しくお聞かせいただきありがとうございました。それでは最後に、読者へメッセージをお願いします。

まずは「少女歌劇団ミモザーヌ」の舞台を観にきていただきたいなと思います。齢16の子がセンターに立つ『サクラ大戦』のリアル版なんですから。これから毎年毎年新メンバーが入ってきて、世代交代しながら10年20年と続いていければいいなと思いますね。ある意味では今回が“初公演”なんです。お客さんにとって、初公演を観るというのは“発見”です。お客さんに「ミモザーヌ」を見つけていただきたい。

そして音楽の多様性にも注目いただきたいですね。ジャズからロックまで何でも入れています。そんな音楽の中で、子ども達が本気で歌ったり踊ったりするんです。アクロバットまでしますから、本当にすごいですよ。体幹を鍛えているから全員が腹筋割れています。スポーツなどと違ってエンタメには、そのような形で子どもたちの本気が見られる演目が少ないので、ぜひ最後まで目撃してください。


・「少女歌劇団ミモザーヌ」公式サイト
https://showjokagekidan.com/

・『takt op.(タクトオーパス)』公式サイト
https://takt-op.jp/