現代では、意欲と実行力があれば若くても第一線で活躍できる場が増えている。このTIPSを寄稿してくれた、かずや氏もそのひとり。オリジナル作品の見事な出来映えが目に止まり、バーチャルヒューマン事業を展開するAwwのデジタルアーティストに招き入れられた。今回は、短い時間でクオリティを高めるBlenderテクニックを紹介してくれた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 278(2021年10月号)からの転載となります。
TEXT_かずや
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
YouTubeをきっかけにBlenderの虜になった17歳
筆者は、Tom Studio(とむ氏)のYouTube動画をきっかけに3DCGを始め、それ以降ほぼ毎日Blenderを触るようになり、現在ではデジタルアーティストを生業にするに至った、まだCG歴10ヶ月の17歳。表現の面では、Ian Hubert 氏(www.youtube.com/c/mrdodobird)の作品に多大なる影響を受けている。本記事で解説するオリジナルの2作品『Visitor』『Dragon Skyscraper』も氏への憧憬がそこかしこに散りばめられている。
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かずや/Kazuya
宮城県出身、17歳。株式会社Aww デジタルアーティスト。Suishow株式会社 CVO(Chief Virtual Officer)。
@adana_xxx
経験は浅いながらも、現在CG制作で心がけていることは、手の抜きどころを見極め、スピード感のある作業をし、モチベーションを維持することである。マイブームは、街の電柱やアンテナ、ヒューズボックスなどの写真を撮りながら散歩すること。友人と歩いていると、変な場所で急に止まって撮影し始めてしまい、引かれることが多いので、最近はひとりで外に出向くことが増えた。撮ってきた写真をリファレンスにして、Blenderで3DCG化するのが何よりの楽しみとなっている。また、YouTubeの活動にも力を入れており、初心者~中級者向けのチュートリアル動画などを投稿している。そのほか、新作をつくる工程のライブ配信も高頻度で行なっている。将来的な目標は、個人でCG制作をしながら自分ひとりで稼ぎ、暮らしていくことだ。
オリジナル作品『Visitor』では、シンプルなオブジェクトを多数組み合わせて複雑なSF構造物をつくる方法や、スマホを使った3Dスキャン、フォトリアルな表現のためのカメラワークと被写界深度表現、可視光や塵による空間表現などを解説した。ひとつひとつの要素に分けていくとそれほど複雑なものではない。メイキングはYouTubeやBOOTHでも公開している。一方『Dragon Skyscraper』では、作品の世界観を引き立てるレイアウトとライティングの方法、情報量の増やし方、効率的にリアルに見せるコツなどについて解説している。
<1>オリジナル作品『Visitor』メイキング
荘厳で絶対的な力を感じる異世界からの訪問者
今回のメインテーマは「異世界からの訪問者」で、生命体が死滅した森に突如として出現するサークルというようなコンセプトで制作した。何もないところから突如出現する「訪問者」、立ち向かったところで絶対に勝てなさそうな荘厳な見た目をねらい、Geometry Nodesでできる限り物量を増やしている。特にこだわったのは、放射マテリアルのオブジェクトや、ワイヤーフレームのオブジェクトを使って構造や見た目を複雑化すること。ひとつひとつは単純な構造のオブジェクトだが、物量を増やして複雑なものに見せられるところは面白い。
単純な構造のオブジェクトは物量を増やすことで複雑に
▲メインテーマとなるサークルは、トーラスにGeometry Nodesをアサインし、3種類のオブジェクトをランダムなスケールで生成させている
▲トーラス自体のスケールをアニメーションさせるとサークルの大きさを調節できるが、それではGeometry Nodesで生成したオブジェクトのスケールも同時に変化してしまう。そこでシェイプキーを使用してオブジェクトのスケールには影響を与えずにトーラスを出現させた【画像】。また、それに応じてGeometry Nodeの密度を調節して、何もないところから突然現れる「訪問者」を表現した
生命感の希薄な樹木は3Dスキャンをベースにスカルプト
▲本作の背景のテーマは枯れきった森。生命体が存在しない環境を表現したかったため、枯葉の多い秋に近所の山に出向き、枯れた樹木をiPadの3dScannerAppでスキャン。データはそのままでは使えないので、不正ポリゴンを削除し、スカルプトで細かい形を整えた。さらに、木が朽ちて風化したような形状を再現したかったため、あえて真ん中より上の部分のポリゴンを削除し、幹を削った
フォトリアルな描写を目指し被写界深度にこだわる
▲本作では神秘的な雰囲気をもたせつつも、フォトリアルな描写にしたかったため、カメラワークや被写界深度には特にこだわった。そのため、本物のカメラのように被写体を捉えるときに出るボケを再現し、f値にアニメーションを付けた。さらに絞り羽根を6枚に設定し、ボケたときに綺麗な六角形ができるようにしている
ゴッドレイで神秘的な空間に仕上げる
▲本作のシーンには、全体を包むように立方体にボリュームをかけた。そして、ところどころランダムに穴を開けた平面を作成し……
▲スポットライトで照らすことで、ゴッドレイを表現している【画像】。コンポジットでゴッドレイを表現する手法もあるが、今回はビューポート上で位置を調節する必要があったため、物理的な表現を採用した
空中に舞う塵でリアリティと異世界観を増幅
▲空間演出としては、ゴッドレイに加えて空中に舞う塵も制作。パーティクルシステムを用いて直方体に六角形のオブジェクトを散りばめ【上】、直方体ごとアニメーションで動かすことによって、塵が舞っている様子を表現した【下】
▲【上】はテクスチャや空間演出を外したもの、【下】は全てを適用したもの
なお、YouTubeでは元動画を公開しており、さらにこのシーンのblendファイルをBOOTHで無料公開している。誰でもダウンロードできるのでぜひ
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<2>オリジナル作品『Dragon Skyscraper』メイキング
<2>オリジナル作品『Dragon Skyscraper』メイキング
ネオンサインが描き出す特異な街の表情
本作のコンセプトは、「多数のネオンサインが織り成す空間」。筆者はネオンサインがすごく好きで、ネオンの柔らかい光が照らす街の表情に強く惹かれる。それが本作制作のきっかけとなった。
作品内で中心的位置を占める大きなドラゴンのネオンサインは、前述のIan Hubert氏に対するリスペクトから制作したものだ。彼の作品にもドラゴンとラーメンのネオンサインが登場しており、あまり目立ってこそいないが、非常に魅力的に感じている。
制作期間はおよそ1週間と短い。その理由は、半数以上のオブジェクトは別作品で制作したものを流用し、組み合わせてつくり上げたためだ。本作は、筆者の過去作と比較的世界観がよく似ていたため、オブジェクトをある程度使い回しても違和感なく表現できると判断し、効率的にレイアウトを行なった。
twitter.com/adana_xxx/status/1427374715778174982
派手なネオンで描き出す独特な世界観
▲本作では、ネオンサインをはじめとする派手な色の広告を多用しながらも、作品の世界観を乱さないことを重視した。目に飛び込んでくる大きなドラゴンのネオンはパスを用いて制作
▲最終的には、ネオン管ひとつひとつの両端を後ろに押し出すことで、設置部分とのつながりを再現している。また、ネオンの近くにはヒューズボックスが配置されているといった必要十分なリアリティも追求。大きな縦長の柱に沿ってドラゴンのネオンを配置し、アーチに沿ってネオンの看板を湾曲させたりと、街の中にこうしたサインが溶け込むように表現やレイアウトを工夫した
俯瞰で見せるダイナミックなレイアウト
▲本作のシーンは、大きく吹き抜けた空間全体を俯瞰で見下ろすような画角になっている
▲そのため、作品として縦方向の表現を強調するために、ドラゴンのネオンが吹き抜けから上へダイナミックに昇っていくよう、最も目立つ位置に配置。さらに、上から下へと伸びる何本もの太い柱を中心に通路や橋をかけ、建造物を構築した【画像】。なお、最下層はつくらず無限にこの摩天楼が続いていくように表現するのも良いと思ったが、水面に映り込むネオンの光が美しかったため、あえて地表には水を張り、ながれを切った
ネオンを引き立たせるライティング
▲シーンには街灯も多数配置されているが、あくまでメインはネオンサイン。街灯の光は主張しすぎないように弱めにしている。また、ネオンが配置されているのは下階層よりもライトが少ない上階層とすることで、ネオンの柔らかな光をより際立たせることにした。さらに、人工的な光と太陽の光の明暗差と、それがもたらすシーンの印象の変化が生み出すシーン全体のコントラストについて、しつこいほど調整を行なっている。太陽光はサンライトを使うとねらった場所を照らしにくいため、あえてスポットライトを選び、かなり高いW数で下階層のみを照らしている
効率的なオブジェクト操作で情報量を増やす
▲本作では情報量をできる限り増やすことで、作品を観る人にインパクトを与えることをねらいとした。それを表現するにあたり、効率的に情報量を増やす必要があったため、Ian Hubert氏の作品を参考に万能なオブジェクトを1つ作成し、そのオブジェクトをスケールしたり、見せる角度を変えることで、新しいオブジェクトを作成する工程を大幅に削減している
▲このオブジェクトは上部が格子状あるいは尖った形状で、向きやスケールを変えても違和感なく使用できた。シーン内で実は50個近く配置されているが【画像】、少し見ただけでは同じオブジェクトが露骨に配置されているように見えないはずだ
▲また、網状の構造物も手軽に情報量を増やせるアイテム。今回制作した柵などは、平面をループカットし、ところどころ頂点和ベベルを適用、ワイヤーフレームモディファイアーを入れることで素早く作成した
見えないところはつくらない
▲筆者がシーン制作で最も重要視していることは、「見えないところはつくらない」こと。反射などで映り込む場合を除き、見えていない部分を必要以上につくり込まずに効率化している。本作では建物は正面しか見えないことがほとんどだったため、正面から撮った建物の写真を使って、柱や窓枠などに沿って押し出したオブジェクト【画像】を用意
▲また、本作とは別の作例では、背景に使用されている建物はほぼハリボテか、透過画像のアルファ抜きでつくった
画像テクスチャで素早く確かな表現に
▲現実の物体等を3DCGで表現する際には、画像テクスチャを使うのが最も楽で素早く、またある程度のクオリティを担保できる方法だ。本作では最下層の水以外の全てのマテリアルについて、画像テクスチャをベースにしている。室外機やヒューズボックスもそのように制作した
▲ほとんどの場合、画像テクスチャから粗さとノーマルに対して、それぞれカラーランプやバンプを通してノードをつないでいる。また、テクスチャの色味がシーンに合わない場合は、色相/彩度や、RGBカーブなどのカラー系のノードを使って色味を合わせている