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新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中、政府が?出口戦略?を模索している。

 9日には11月頃をめどに緊急事態宣言の対象地域などでもワクチン接種を条件に県をまたぐ移動を認めたり、イベント収容人数の上限引き上げや飲食店の酒類提供を緩和したりする案を、政府新型コロナ対策本部で決定する見込みだ。飲食店や観光業界は歓迎するが、医療現場の懸念は根強く、「タイミングを考えるべきだ」との声も上がる。

行楽シーズンまでに

「ようやくという思い。一刻も早く進めてほしい」。東京・新橋で和食料理店「花未月(はなみづき)」を営むオーナーの平松美保子さん(76)は、行動制限緩和の動きに期待を寄せる。

店では現在、酒類の提供はしておらず、午後6時半ごろには閉店する日が多い。補償も十分でなく「感染拡大を抑えるのはもちろん大事だが、そろそろ飲食店に関わる人たちの暮らしのことも同時に考えてもらわないと。こちらにも限度がある」と訴える。

神奈川県箱根町にある温泉旅館の担当者は「(行動制限が緩和されれば)今の状況からは好転すると思う」と歓迎する。お盆時期は例年満室だが、今年は空室も出た。「従業員のワクチン接種などの対策を引き続き行いながら、お客さんを増やせるよう割り切る段階だと思う」

宿泊人数の上限を定員の60〜70%とする感染防止対策をとっている栃木県那須町の温泉旅館「山快(さんかい)」の阿久津千陽(ちあき)社長(50)も「秋の行楽シーズンに向けて、今より状況が改善してくれればありがたい」と話す。ただ、「感染が収まったとはいえず、一気にコロナ流行前の営業体制に戻すのは考えられない」と、慎重な姿勢ものぞかせた。

気緩めるメッセージ

一方、昭和大学病院(東京都品川区)の相良博典院長は、行動制限緩和案の提示を「感染が収束しきれていない現状では時期尚早ではないか」と訴える。

さらに「新たな変異株も検出される中、ワクチン接種後の抗体がどこまで続いているかは分からない。接種によって安全が百パーセント担保されているわけではない」と指摘。現時点で緩和案を示すことは「皆さんに『もう、危機意識を持たなくてもいい』という間違ったメッセージを発信することにつながるのではないか」と懸念する。

池袋大谷クリニックの大谷義夫院長も「このタイミングで酒類提供などの提案をすること自体が、国民が気を緩めるメッセージになる」と危惧する。

同病院には先週、「肺が真っ白で、酸素飽和度が80%しかない状態」の20代男性が来院。来院してきてすぐに倒れる人もいるなど、厳しい状況が続く。「ワクチンがある程度打ち終わり、医療崩壊の現状が解消してから(規制緩和を)考えてほしい。治療薬が出てくるとみられる年末年始には希望が見えてくる」とした上で「その時に規制緩和のメッセージを公表するのでも遅くない」と語った。

接種6割超えなら

行動制限の緩和について、東京医科大の濱田篤郎特任教授は「接種者が6割を超え、7月中旬に行動規制を緩和した英国が前例となる」と指摘する。英国では1日当たりの感染者は数万人と日本に似た状況が続いているが、ワクチンの効果で重症化や死亡が抑えられている。

「もちろん接種後にも感染の可能性はあり、追加接種も必要となるだろうが、重症化しにくくなることで新型コロナの『インフルエンザ化』と呼べる状況が生まれる。感染対策を徹底しながらも、社会生活の再開は必要だ」と話した。