テレ朝が荒ぶっています。
- デルタ株急減少の原因仮説を国立遺伝学研究所らが発表
- nsp14の修復機能を阻害するAPOBEC酵素?というTV報道
- 論文無し、根拠不明、推論に疑問符がつくエラーカタストロフ仮説
- テレ朝は新型コロナウイルスワクチン接種の効果・日本政府・日本人の努力を否定したいか
デルタ株急減少の原因仮説を国立遺伝学研究所らが発表
2021/10/30 16:32 (JST)10/30 19:23 (JST)updated
新型コロナウイルスの流行「第5波」の収束には、流行を引き起こしたデルタ株でゲノム(全遺伝情報)の変異を修復する酵素が変化し、働きが落ちたことが影響した可能性があるとの研究結果を国立遺伝学研究所と新潟大のチームが30日までにまとめた。
8月下旬のピーク前にはほとんどのウイルスが酵素の変化したタイプに置き換わっていた。このウイルスではゲノム全体に変異が蓄積しており、同研究所の井ノ上逸朗教授は「修復が追いつかず死滅していったのではないか」と指摘する。
研究は10月に開かれた日本人類遺伝学会で発表した。
この酵素は「nsp14」。
新型コロナウイルスの流行「第5波」=デルタ株の感染者数が急減少した原因についての仮説を国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授らが発表したという10月30日の記事。
国立遺伝学研究所や新潟大のHPを見ても、現時点では論文は出ておらず、どうやら学会で発表した内容をそのまま報道したようです。
しかし、文面が体言止めになっているなど、何やら煽動的。
47Newsで取り上げられており、要するに全国の地方紙にも登場している。
ゲノム変異、修復困難で死滅? コロナ第5波収束の一因か https://t.co/d179BklGXV
— 47NEWS (@47news) 2021年10月30日
奇妙なことに、毎日新聞と中日新聞がより詳細を書いているが、文面が微妙に違う以外はパラグラフ毎に内容が酷似している。
第5波収束は「デルタ株のゲノム変異蓄積」 修復追いつかず死滅か | 毎日新聞
デルタ株、酵素変化で死滅? 「第5波」収束の一因か :中日新聞Web
nsp14の修復機能を阻害するAPOBEC酵素?というTV報道
本日11/2放送「全国で感染86人、第5波収束…酵素が原因か?」
なぜ、これ程感染者が減ったのでしょうか?
ウイルスは増殖する際、時々コピーミスが発生します。
『AAAA』という遺伝情報を持っているウイルスが、『AAAB』というコピーを作ってしまうことがあります。 pic.twitter.com/W637kmuKqT— 羽鳥慎一モーニングショー (@morningshow_tv) 2021年11月2日
11月に入るとnsp14の修復機能を阻害するAPOBEC酵素?というテレビ報道も始まります。テレビ朝日が力を入れているようで、朝と夜のワイドショーで取り上げた後に記事まで書いています。
【#第5波 収束の裏で何が?】
国立遺伝学研究所と新潟大学の分析では、#デルタ株 の感染が広がった結果、デルタ株に”ある異変”が起きウイルス自体が“死滅”していった可能性があるといいます
▼一体どういうことなのか。マンガでお伝えします#高島彩 #ニュースのあや@Station_sat #サタステ pic.twitter.com/nO3FleyLHw
— 報道ステーション+土日ステ (@hst_tvasahi) 2021年11月6日
テレ朝News デルタ株が死滅!?第5波収束の一因か? 11/6(土) 23:12配信
テレ朝Newsの記事では本文に重要な酵素の名前が書かれず画像にだけ書かれているという奇妙な状態ですが、TV番組の内容が前提にあるのが分かります。
- ウイルスがコピーを作る際にエラーが起こる
- エラーを修復する酵素がnsp14(※他にもあるが報道では簡略化)
- 体内にあるAPOBECという酵素には修復を邪魔する作用があるのではと仮説
- デルタ株は感染拡大するのでコピーミスも大量に起きるので勝手に死滅したのではという仮説
- 日本人を含む東アジアの人や、オセアニアの人は、APOBECの働きが活発
報道をまとめるとこういう話です。
しかし、かなりこの説を信じるには慎重になる必要があります。
論文無し、根拠不明、推論に疑問符がつくエラーカタストロフ仮説
結局これは「エラーカタストロフ仮説」の1つです(そこに人種特有の酵素という要素が混じっているだけ)。
nsp14については新型コロナウイルスの修復機能を持つものだということはあらかじめわかっていました。なので、共同通信の体言止め報道は意味不明。
APOBECは修復にも変異にも作用するのではという仮説が混在している。
前もツイートしたけど、変異ウイルスの遺伝子部分の解析と日本分布を報告した論文で、その変異部分がウイルスが自壊する遺伝子かもしれないというただの考察で、何の証明も実証も論文上されていない
メディアもただの医療者の思い込みを垂れ流すのは考えたほうがいいhttps://t.co/bqFLfLfZIf https://t.co/pBMJ5vBHBQ
— 血液内科医 中村 幸嗣 (@yukitsugu1963) 2021年11月7日
なにかと思ったらAPOBEC。
実験的にAPOBECをいじると、その細胞の中で増幅するウイルスの変異率が増えること自体は観察できる。APOBECの働きによって起こる変異が、ウイルスの増殖阻害に効いているという仮説を立てる人もいれば、変異を促す方向に効いているという仮説を立てる人もいる。→ https://t.co/8A6YD83cx6— Amamino Kurousagi (@Amamino_Kurousa) 2021年11月7日
さて、仮にテレ朝報道に現れた井ノ上逸朗教授の仮説が正しいとすれば、現在も1日数千人台の感染者(日本人口換算なら5000人)を出している韓国人はこの酵素が活発ではないということなんだろうか?
ニュージーランドなど他国でデルタ株の流行が止まらない中、日本でだけ第5波が急減少したのはどういう説明が付くでしょうか?
また、これが正しいとして、それは「第5波が急減少した理由」に過ぎず、他の株が入ってきたらまた流行が拡大することは否定されない訳です。そういう後ろ向きの分析ということ。
現時点では論文が出ていないので「科学的に反論」することは不可能ですが、一般からみた感じの印象では現時点では眉唾という扱いで良いでしょう。
本格的に反応するべきなのは論文が出てから。
多くの科学者はこの報道に疑問符を付けているが、科学的な姿勢の観点からは以下の指摘が妥当すると思います。
峰氏こそが科学的根拠の形成過程を分かっていない。彼が科学者としてやるべきことは、マスコミに噛みつくことではない。やるべきは、国立遺伝研からデータを取り寄せて、それを検討すること。その上で、疑念があれば科学的に批判すればよい。コロナ研究所起源説を疑う学者は、それを実践してきた。
— Hideki Kakeya, Dr.Eng. (@hkakeya) 2021年11月7日
テレ朝は新型コロナウイルスワクチン接種の効果・日本政府・日本人の努力を否定したいか
とはいえ、現時点でメディアが大々的に取り上げる意義があるものとも思えません。
仮に今回の感染急減少がエラーカタストロフだったとして、他の感染対策を講じない理由にはならず、他の株の流行には引き続き警戒しなきゃいけないので、我々一般人としては情報に振り回されて行動と思考を阻害されないようにしないといけない。
下手な考え休むに似たり、どころではなくて毒に似たり。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2021年11月7日
集団免疫による説明を否定したい人が取り上げるのがエラーカタストロフ仮説。
もちろん、日本でのデルタ株「急」減少がワクチン接種のみの効果であるということもかなり疑わしい(他の感染対策:マスク手洗いの徹底・人流抑制・入国規制などの複合要因の可能性)。
しかし、共同通信の報道ぶりやそれに乗っかったテレ朝の報道ぶりを見ていると、ワクチン接種の効果・日本政府・日本人の努力を否定したいがためにエラーカタストロフ仮説を流布したいかのようです。
そういう底意を感ぜざるを得ません。
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