もっと詳しく

自動車業界と同様に、航空業界も電動化を目指している。だが、バッテリー駆動のパワーユニットで空を飛ぶことは、地上を走るよりも難しい。Wright(ライト)は、小型機以上の規模で電動化を実現しようとしているスタートアップ企業の1つで、その2メガワットのモーターは、第一世代の大型電動旅客機の動力源となる可能性がある。

電気自動車はすでに大きな成功を果たしているものの、自動車は飛行機と違って、自らの重量を空中に保つために十分な揚力を発生させる必要がないという利点がある。だが、電気旅客機の場合は、そもそも乗客を乗せて遠くまで飛ぶために必要なバッテリーの重量が、重くなり過ぎて空を飛べなくなるという根本的な問題があり、実現には至っていない。

この難問から逃れるためには、電力1ワットあたりにどれだけの推力を出せるかという効率性を高めることが重要だ。電池の質量を軽減させるための技術革新にはまだしばらく時間がかかるため、現状では素材や機体、そしてもちろん原動機など、他の方法で革新するしかない。従来のジェット機では、巨大で非常に重く、複雑な内燃機関が使われてきた。

一般的に、電気モーターは内燃エンジンよりも軽く、シンプルで、信頼性が高いと言われているが、飛行を可能にするためには、かなりの高効率を達成しなければならない。ジェット機が1秒間に1000ガロンの燃料を燃やしていたら、離陸に必要な燃料を保持していられないからだ。そこでWrightやH3xのような企業は、同じ量の蓄積エネルギーからより多くの推力を生み出せる電動機を作ろうとしているのだ。

関連記事:電動航空機の実現はH3Xの斬新な電動モーターで加速される

H3Xが、おそらくより早く飛行が実現できそうな小型機に焦点を合わせているのに対し、Wrightの創業者であるJeff Engler(ジェフ・エングラー)氏は、航空業界の二酸化炭素排出量を削減したいのであれば、商用旅客機に目を向けなければならないと説明し、同社では旅客機の製造を計画している。とはいえ、その社名に関わらず、同社は完全にゼロから旅客機を作らなければならないわけではない。

「私たちは、翼や胴体などの概念を再発明しているわけではありません。変わるのは、飛行機の推力を発生するものです」と、エングラー氏はいう。同氏は電気自動車を例に挙げ、エンジンがモーターに変わっても、自動車の大部分は、100年前と基本的に同じ機能を果たす部品で構成されていると説明する。とはいえ、新しい推進システムを飛行機に組み込むのは容易なことではない。

原動機は出力2メガワット、つまり2700馬力に相当するパワーを発生する電気モーターで、その効率は重量1キログラムあたり約10キロワットという計算になる。「電動航空機用に設計されたモーターの中では最もパワフルで、従来の2倍以上のパワーを発生し、しかも他社製品よりも大幅に軽量化されています」と、エングラー氏はいう。

この軽さは、永久磁石を使用したアプローチと「野心的な熱管理戦略」で、徹底的に設計を見直したことによるものだと、同氏は説明する。通常の航空機用途よりも高い電圧と、それに見合った絶縁システムにより、大型機の飛行に必要な出力と効率を実現したという。

画像クレジット:Wright

Wrightは自社のモーターを後付けで搭載できるように設計しているが、既存の機体メーカーと共同で独自の飛行機も開発している。その最初の機体は、軽量で効率的な推進装置と液体燃料エンジンの航続距離を組み合わせたハイブリッド電動機となるだろう。水素に頼れば複雑になるが、電気飛行への移行をより迅速に行うことができ、排出ガスと燃料の使用量を大幅に削減することができる。

複数のモーターをそれぞれの翼に取り付けることで、少なくとも2つの利点が得られる。1つ目は冗長性だ。巨大な原動機を2基搭載した飛行機は、1基が故障しても飛ぶことができるように設計されている。6基や8基の原動機を搭載していれば、1基が故障してもそれほど致命的ではなく、結果として飛行機は必要な原動機の2倍も搭載する必要がなくなる。2つ目の利点は、複数のモーターを個別にあるいは協調するように調整することによって、振動や乱流を抑えることができ、安定性向上と騒音低減が可能になるということだ。

現在、Wrightのモーターは海面位での施設内試験を行っているところだが、試験に合格したら(来年中の予定)、高度シミュレーション室で運転を行い、それから実際に4万フィートまで上昇する。これは長期的なプロジェクトだが、業界全体が一夜にして変わるわけではない。

エングラー氏は、Wrightに多額の資金、資材、専門知識を提供しているNASAや軍部の熱意とサポートを強調した。同社のモーターが新型の爆撃用ドローンに搭載されるかもしれないという話を筆者が持ち出すと、エングラー氏はその可能性には神経質にならざるを得ないが、彼が見てきた(そして目指している)ものは、防衛省が延々と行っている貨物や人員の輸送に近いものだと語った。軍は大量の汚染物質を排出しているが、それを変えたいと思っていることがわかったという。そして、毎年の燃料費を削減したいと思っているのだ。

「プロペラ機からジェット機に変わったときに、何がどう変わったかを考えてみてください」と、エングラーはいう。「それは飛行機の運用方法を再定義したのです。私たちの新しい推進技術は、航空業界全体の再構築を可能にします」。

関連記事
電動航空機用水素燃料電池システムの開発でHyPointとPiaseckiが提携
地方航空路線に最適な9人乗り電動航空機「P3」をPykaが披露
スウェーデンの電動航空機スタートアップHeart Aerospaceが200機を受注

画像クレジット:Wright

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)