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2020年11月、イギリス政府は、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を終わらせ、ゼロエミッションカー(二酸化炭素や排気ガス、環境汚染物質を排出しないクルマ)に切り替える計画を発表しました。充電スポットの拡充や、多くの人がより安く購入できるような多額の投資を行っていくとのことでしたが、その発表から1年が経とうとしている現在、「この政策では環境問題を解決できないのではないか?」という懐疑的な意見が出てきています。コロナ禍で自動車産業が直面した予想外の問題も合わせて、ゼロエミッションカーへの移行の難しさについて現地からレポートします。

↑街中の通りにも目立つ路上駐車(イギリスの地方都市郊外)

 

イギリス政府の考え

まずは、イギリス政府が念頭に置いているロードマップを見てみましょう。これは2段階に分けられます。

 

【ステップ①】2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を終了する。

【ステップ②】2035年までにすべての新車をゼロエミッションカーにする。2030年から2035年の間は、ゼロエミッションかつ長距離の走行が可能なプラグインハイブリッド車やフルハイブリッド車の販売は認められるようですが、具体的には政府と自動車業界との今後の協議で決められるとのこと。

 

計画の一部では、電気自動車の充電スポットを増やすために約13億ポンドを投入し、家庭をはじめ、主要道路や高速道路でより簡便に充電できることを目指しています。すでにイギリス政府は、14万以上の住宅用充電ポイントと、9000以上の企業スタッフ向け充電スポットの設置を援助しました。現在では、自治体や民間と協力した1万9000を超える公共充電スポットのネットワーク開発も支援しています。

 

さらに、イギリス政府はゼロまたは超低排出ガス車の購入を援助するために、約5億8200万ポンドの助成金を投じ、購入促進につなげる考え。2020年12月からはゼロエミッションカー専用のグリーンナンバープレートを導入しており、ゼロエミッションカーの社会的認知度を高めています。なお、グリーンナンバー車には安価な料金で駐車場を利用できるなどのメリットがあります。

↑イギリス政府は莫大な資金を投入して、充電スポットの拡大を図るが……

 

まさかの半導体不足

しかし、自動車業界はコロナ禍で予想外の事態に直面しました。それは現代のクルマに必須の部品である半導体の不足です。

 

コロナ禍で新車製造の工場を一時ストップし、売り上げの落ち込みを見込んだ自動車各社は、部品のオーダーを減らしました。半導体の工場は、リモートワークの普及などでIT機器の需要が急速に拡大したため、オーダーが減った自動車向け部品製造部門をIT機器部品製造に切り替えました。

 

一方で、ロックダウン(都市封鎖)といった各国の感染対策はサプライチェーンにも大きく影響。中国から北米向けの海上輸出が激増する一方で、港や工場などの現場で働く人々の動きが制限されたため、コンテナが北米の大陸内で停滞。その結果、慢性的なコンテナ不足が起こり、世界中を結ぶロジスティクスは長期的な混乱状態に陥りました。

 

半導体は、開発から資源調達、製造、納品まで、円滑なサプライチェーンが欠かせません。しかし、コロナ禍によりヒトの動きが制限されているため、自動車業界は先の見通しを立てることが難しく、IT業界と部品供給を巡り争うという状況になりました。そこに、日本国内の半導体工場で火災が起きるなどの事故が重なり、結果的に自動車業界は半導体不足になり、各自動車メーカーで新車販売が遅れることになってしまったのです。

 

半導体の工場が再開してからも、急激な需要回復に部品の調達が追い付かず、例えば、ジャガー・ランドローバーは新車の納車が1年ほど遅れる見込みだと発表しています。今回の半導体不足は、電気自動車に必要な電池やバッテリーと同じように、IT部品の安定的な調達も不可欠であることを改めて浮き彫りにしました。

 

さらに、影響は中古車市場にも及んでいます。ロックダウンで工場が閉鎖され、部品の供給も不足したことで新車の生産が滞ったため、多くの人が新車を購入できなくなりました。それでも、コロナ感染への不安からパーソナルスペースを求める人たちが増え続けているため、新車の代わりに中古車のニーズが急速に高まりました。しかし、これまで中古車を下取りして新車を購入していた人たちによる売り出しが減ったことから、中古車の供給量も不足。結果的に、中古車価格が急上昇しましたが、ディーラーは新車だけでなく、中古車の確保にも苦戦しているようです。

 

路駐がこれ以上増えていいのか?

↑増えすぎたクルマは家の前にも路上駐車している(ロンドン郊外)

 

このような暗い状況において、ゼロエミッションカーは自動車業界に明るい希望を与えているかもしれませんが、良いことばかりではありません。

 

最近のイギリスでは、「ゼロエミッションカーの購入補助などの販売促進政策は、単にクルマの数を増やすだけで、道路をさらに混雑させるのではないか?」という意見が出ています。中古車を含め、街中のクルマの数は増え続けており、路上駐車の増加が懸念されているのです。

 

イギリスには歴史のある家がたくさん残っており、クルマ社会が到来する前に建てられた古い家には駐車スペースがないため、家の前の道沿いに駐車します。路上駐車ができる場所が多いうえ、路上駐車は自動車購入時に車庫証明が不要。そのため、イギリスでは路上駐車がよく見られます。ところが、電気自動車の中には、従来のクルマより大きい車種があります。そこで「そんな電気自動車はこれまでと同じように路上駐車できるのか?」「そもそも駐車できるスペースはまだ残っているか?」と、 さまざまな議論がされていますが、ゼロエミッションカーの普及と合わせて、クルマの台数自体を減らしていく努力が必要なのは明らかです。

 

ゼロエミッションカーへの移行を加速させたら、イギリスはこのようなジレンマに陥りました。この問題は他国にも当てはまるでしょう。電気自動車にシフトするための道のりは、決して平坦ではなさそうです。

 

執筆/ukihaddy