ASUSがWi-Fi 6対応ルーターの新製品「RT-AX86S」を発表した。
この製品は、最大4804MbpsのWi-Fi 6と1000BASE-TのLANを搭載。スペック的には「中堅」といえるクラスの製品だ。
もっと上には、トライバンド対応だったり、2.5GBASE-T対応だったりという高速モデルがあるが、そうした「一段上」のスペックまでは不要だが、しっかりした製品が欲しい、といったニーズにこたえる製品といえる。
では、そんな「RT-AX86S」にはどんなポイントがあり、どんな人におすすめできる製品なのかを考えていきたい
なお、先に言ってしまうと、ポイントは「基本的に高性能なこと」と「多機能なUSBポート」だと思っている。特に後者はクラウドストレージを自作できたり、予備回線への自動切り替えをできたりと、なかなか興味深い機能を持っている。
Wi-Fi 6の最大4804Mbpsに対応、2.5GBASE-T非搭載が選択のポイントか
最初に「RT-AX86S」のスペックを確認していく。
Wi-Fi 6の速度は、5GHz帯は現状では最大となる4804Mbps。2.4GHz帯は861Mbps。
そのほかのスペックのポイントは、1000BASE-TのLANを搭載すること(WAN/LANあわせて5ポート)や、USBポートが2つあり、そのうち1つはUSB 3.2 Gen1に対応していることなどだ。CPUはデュアルコア(1.8GHz)でメモリ容量は512MB。
同社独自のメッシュ機能である「AiMesh」にも対応し、AiProtection、Game Boostなどの独自機能も利用可能だ。
RT-AX86S スペック
実売価格(税込) | 2万7000円前後 |
CPU | デュアルコア、1.8GHz |
メモリ | 512MB |
Wi-Fi規格 | Wi-Fi 6 |
最大速度(2.4GHz帯) | 861Mbps |
最大速度(5GHz帯) | 4804Mbps |
ストリーム数 | 4×4(2.4GHz帯は3×3) |
WAN | 1000BASE-T×1 |
LAN | 1000BASE-T×4 |
USB | USB 3.2 Gen1×1、USB 2.0×1 |
なお、Wi-Fi 6で4804Mbpsに対応する同社の他製品には「RT-AX82U」や「TUF-AX5400」などがある。これらとの比較では、USB端子の数や2.4GHz帯のストリーム数で勝り、本体を縦置きできる点も特徴となる。
ブラックで統一されたい外観で縦置きが魅力
外観は全体がブラックで統一され、正面下部に赤いワンポイントが入っている。デザインは同社のルーターでよく見られる、3Dポリゴンのような近未来的な外装だ。ただ、凹凸はそれほど大きくなく、色味の統一もあり自己主張は控えめ。
縦置き型のおかげで設置面積を取らないので、同じく縦置き型のONUなどと合わせて使う場合には便利だろう。アンテナは、角度を変えれば高さはある程度下げられるものの、直立させると高さは約32㎝になる。
遠距離でもリンクが切れずに安定通信
次にiperf3を使ってWi-Fi接続の通信速度をテストする。子機は160MHzの帯域幅に対応したノートPCで、最大リンク速度は2402Mbps。通信相手は1000BASE-Tで有線接続されたPCだ。
同室内での近距離通信のほか、筆者宅である3LDKのマンションで、通路側の部屋に本機、ベランダ側の部屋の端にPCを置いて通信した。間に3枚の木製扉があり、筆者宅にあるNURO光のホームゲートウェイ「HG8045Q」だと、5GHz帯のリンクが途切れる距離だ。
上り | 下り | |
近距離 | 803.7 | 934.7 |
遠距離 | 36.6 | 36.4 |
※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載
近距離では下りがとても安定しており、速度的にも満足のいく結果だ。上りは若干速度のバラツキが見えるものの、10回の試行で最低でも765Mbpsとなっており、実用上では気にならないだろう。
遠距離では上り下りともに30Mbps前後となっている。データを見ると、いずれも値は安定しており、通信やリンクの途切れは全く見られなかった。他製品のデータと比べて高速なわけではないが、接続の安定性はかなり高い部類。ウェブブラウジングなどの一般用途でストレスがないのはもちろん、ゲームでも安定した通信が得られるのは安心感がある。
クラウドストレージや「予備回線」を実現できる!高機能なUSBポート
本機の特徴には、USBポートが2つ用意されていることも挙げられる。Wi-FiルーターにはUSBポートが用意されているものが結構あるのだが、使ったことがないという方も多いだろう。本機のUSBポートで何ができるのか、一通り試してみたい。
なお、USBの機能に関しては、スマートフォン用の「ASUS Router」アプリでは設定項目が少なく、ウェブブラウザーから本機のログインして設定する方がいい。ウェブブラウザーの設定画面では、「USBアプリケーション」というタブに関連機能がまとめられている。
具体的に用意されている機能は下記の通り。順に説明していこう。
- AiDisk(インターネットストレージ機能)
- サーバーセンター(各種ネットワークストレージ機能)
- ネットワークプリンターサーバー
- 3G/4G(USBモデム機能)
- Time Machine(MacOS用)
- ダウンロードマスター(PCを介さないファイルダウンローダー)
サーバーセンター(各種ネットワークストレージ機能)
「サーバーセンター」は、USBストレージをLAN内でネットワークストレージとして活用するもので、いくつかの機能がある。まず「メディアサーバー」では、iTunesサーバー機能とUPnPサーバー機能が用意されている。UPnP対応デバイスと組み合わせて、マルチメディアサーバーとして活用できる。
次の「Samba共有/Cloud Disk」では、ファイル共有機能を設定できる。デバイス名とワークグループを設定すれば、Windowsのファイル共有と同じような使い方ができ、簡易なNASとして機能する。フォルダーごとに読み込み、書き込みの権限を設定する機能も用意されている。
最後の「FTP共有」に関しては、「AiDisk」で設定したのと同じFTPサーバー機能。WAN側からのアクセスや匿名(anonymous)でのアクセスの可否、TLSサポート、最大同時接続数、文字コード、さらにフォルダーごとの読み書き権限と、FTPサーバーでやりたいことは一通りできるようになっている。
ネットワークプリンターサーバー
「ネットワークプリンターサーバー」は文字通り、USBポートに接続したプリンターをネットワークプリンターとして稼働させるもの。
接続方法がUSB接続などしかなく、ネットワーク機能を持たないプリンターでも、本機のUSBポートに接続することでネットワークプリンターとして使えるようになる。
3G/4G(USBモデム機能)
「3G/4G(USBモデム機能)」は、USBモデムやAndroidスマートフォンを接続し、インターネット回線として使用するもの。
本機とスマートフォンをUSB接続し、設定画面で「デバイスの選択」の項目で「Androidスマートフォン」を選び、スマートフォン側でUSBテザリングを有効化すれば、本機の通信をスマートフォン経由にして行える。
そして興味深いのが、本機がデュアルWAN機能を備えることだ。これは、「WANの通信が一定時間切れたらセカンダリ回線に切り替えられる」というもので、PCなどのWi-Fi設定を変えずにモバイル回線をバックアップの予備回線として利用できる。
「家庭のネット環境を安定させたい」という人は多いと思うが、そうした人には気になる機能といえるだろう。
Time Machine(MacOS用)
「Time Machine(MacOS用)」は、macOS用のバックアップストレージとして使う機能。先に紹介したSamba共有でもTime Machineは実現できるが、こちらではTime Machine用に使用する容量に制限を付けられる。
ダウンロードマスター
「ダウンロードマスター」は、PCを介さずにファイルをダウンロードできる機能。設定画面からファイルのURLを指定すると、そのファイルをUSBポートに接続したストレージにダウンロードする。使用できるURLは、HTTPやFTPのほか、eMuleやTorrentなどのP2Pネットワークにも対応する。
ダウンロードに時間がかかる大きなファイルをダウンロードする際に、PCを起動したまま放置するのは、発熱や騒音、省エネ等の観点で気になるという人もいるだろう。この機能を使えば、本機とUSBポートに接続したストレージがあれば、PCの電源を落としている状態でもダウンロードが進められる。
ダウンロード前に何らかの認証が入るURLは使えないという問題はあるものの、数時間以上かかるような大容量ファイルのダウンロードには重宝する。
USB 3.0とUSB 2.0に接続したストレージの速度差をテスト
USBポートの機能的な説明は以上だが、追加でもう1つテストをしておく。本機には2つのUSBポートがあるが、一方はUSB 3.0、もう一方はUSB 2.0と違いがある。そこで各USBポートにUSBストレージを接続し、実際の速度の違いを調べてみた。
テストに使用したのは、USB 3.0接続のSATAクレードルに64GBのSSDを装着したもの。本機のSambaによるディスク共有でゲストアクセス有効(パスワードなし)とし、USB 3.0ポートとUSB 2.0ポートにそれぞれ接続したものと、PCに直接接続したものを、「CrystalDiskMark」を用いて測定した。本機とPCの間はWi-Fi 6(最大2402Mbps)で接続した。
結果を見ると、USB 3.0ポートに接続した場合でシーケンシャルリードが約110MB/s、USB 2.0ポートに接続すると約40MB/sとなった。PC直挿しで約270MB/sとなっていることを思うと、USB 3.0ポートに接続している時にはもう少し速度が出て欲しくはあるが、有線LANの1000BASE-Tの限界値に匹敵する速度が実測で出ているなら十分。オンラインストレージとしては満足いく結果だ。
以上のように、本機のUSBポートではさまざまな機能が使える。実際の活用方法としては、USB 3.0ポートはHDDやSSDなど高速なストレージを接続するのがいい。AiDiskでなんちゃってクラウドストレージを作るのもいいし、安価な外付けHDDを家庭内向けのNASとして活用するのもいいだろう。
USB 2.0ポートはプリンターを接続し、ネットワークプリンターを用意するのがよさそうだ。昨今のテレワークで、自宅でプリンターを使う機会が増えた人も多いはず。ネットワーク機能を持たないプリンターでも、本機にUSB接続すればネットワークプリンターにでき、家族が誰でも好きな時に使えるようにできる。あるいは低速でも構わない前提で、追加のストレージを使うのも可能だ。
ちなみにUSBメモリなどのリムーバブルメディアでも試してみたところ、うまく機能しないことがあった。筆者の64GB USBメモリの場合、exFATでフォーマット済みのものはうまくいかず、本機でHFSフォーマットするとなぜかアクセスできた(その後、NTFSで再フォーマットしても使えた)。もしUSBストレージを接続してもうまく動かない時には、本機からフォーマットをかけてみるといいかもしれない。
現行最速「4804Mbps」のWi-Fi 6を安価に導入したいならおすすめ
以上、本機の性能と機能をみてきたが、本機の魅力は、やはり「4804MbpsのWi-Fi 6によるしっかりした基本性能」と「ASUSならではの多機能さ」にあるといえる。
また、その際のポイントになるのは、同社ならではの多機能なUSBポートが2つあること。
もしUSBポートが1ポートしかなければ、USBストレージなりプリンターなりを1つ接続して終わりになってしまうが、本機であれば2つのデバイスを接続し、2つの機能を併用できる。ネットワークストレージにせよ、予備回線にせよ、ネットワークプリンターにせよ、このテレワーク時代には間違いなく重宝する機能だ。
ほかにも、ASUS製のWi-Fiルーターではおなじみのゲーミングやセキュリティなどの多彩な機能も搭載している。
この製品のポイントは、しっかりした性能をおさえつつ、ASUSならではの「多機能さ」を備えているという点だろう。ローエンドモデルで満足できなくなったら、ぜひ、こうしたモデルを検討してみてほしい。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)