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気軽に実行可能になった一気見は中毒症状があるかもしれない
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現在、映画やドラマが月額で見放題というストリーミングサービスに加入していない人は稀でしょう。

そして、こうしたサービスへの加入をきっかけに、気になっていたシリーズ作品の「一気見」をした人は多いのではないでしょうか?

こうした人々の視聴スタイルの変化から、最近懸念されているのが「一気見」の依存症問題です。

ひょっとしたら、すでにあなたはシリーズ一気見の依存症になっているかもしれません。

今回は、この問題について少し考えてみましょう。

目次

  • そもそも依存症とはなんなのか?
  • 一気見依存症の特徴とは?

そもそも依存症とはなんなのか?

生活に支障をきたしても抜け出せない依存症とはなんなのか?
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依存症は、さまざまな局面で耳にする機会が増えてきた言葉です。

古くは「アルコール依存症」や「薬物依存症」というものがありますが、最近では「ゲーム依存症」なんて言葉も耳にします。

多くの人は、依存症という単語を聞いた時、非常に多くの時間をその行為に費やしていて離れられない人を想像します。

しかし、依存症とは単純にそれに費やす時間の過多だけを問題にしているわけではありません

依存症の条件には、「あなたの人生の別の側面に悪影響を与えていること」が重要な要素となります。

たとえばスマホのゲームに夢中になりすぎて、生活に必要なお金まで課金に回してしまい、借金で首が回らない。

仕事中なのにゲームのネット対戦に没頭してしまい、仕事が進まずクビになってしまった。

もし本当にこんな人たちがいるとしたら、それは依存症と言って良いかもしれません。

依存症は、人間関係や仕事など、その人の人生に重要な側面を損なわせ、離れていると心理的・生理的な禁断症状が出るという部分が重要なのです。

ただ、依存症を医学が公式に病気として認めるには、かなり多くの証拠が必要となります

そして今、依存症の研究者たちが新たな問題として懸念しているのが、ストリーミングサービスの普及で手軽になった「一気見」という行為です。

ドラマやアニメの「一気見」は、記録媒体を直接購入したり、レンタルビデオ店などで借りたりしなければならなかった時代には、ちょっと敷居の高い行為でした。

レンタルビデオ店を利用していた時代は、一気見はまだハードルが高かった
Credit:Wikipedia

しかし、現在は「Netflix」のようなサービスに加入していれば、今すぐにでも実行できてしまいます。

「一気見」は、アメリカでは「binge-watch」と呼ばれ、これは2013年にオックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー(いわゆる流行語大賞)にノミネートされるほど、一般的なものになっています。

(ちなみにこの年の大賞は最終的に「selfie(自撮り)」が獲得しました)

新型コロナウイルスの流行などもあり、シリーズ一気見にハマっている人はかなり多くなっているでしょう。

そのため、研究者は一気見の依存症になっている人が、すでに存在するのではないかと疑っているのです。

しかし、さきほども述べた通り、単にドラマや映画、アニメの視聴時間が大きく増加したからといって、それで依存症だと言うことはできません。

では、一気見の依存症とはどういうものなのでしょうか?

一気見依存症の特徴とは?

ノッティンガム・トレント大学(Nottingham Trent University:NTU)で、長年、依存症について研究してきたマーク・グリフィス(Mark Griffiths)教授は、依存症状については、次の6つの中核的要素があると話します。

  1. 一気見することが、人生の中でもっとも重要なことになり、考え方や行動の中心になっている。そのことで頭がいっぱいになり、食事やトイレなど基本的な欲求さえ無視してしまう。(過剰な突出性:Salience)
  2. 気分転換の方法として一気見が重要になっている。たとえ落ち込んでいても一気見すると気分が良くなる(気分変容:Mood modification)
  3. 一気見することを優先しすぎて、仕事や人間関係、勉強に支障が出ている。改善したいけどやめられない(葛藤:Conflict)
  4. 日を追うごとに、一気見に費やす時間が増加している。自分が思っていた以上にたくさん時間を費やしてしまっている(耐性:Tolerance)
  5. 一気見ができないと、イライラして不安定になる(離脱:Withdrawal )
  6. ヤバいと思って決心し、一気見をやめてみるが、再び一気見をすると、結局以前の生活サイクルに戻ってしまう。やめるどころかますますハマってしまう(再発:Relapse)

これは一気見に限らず、依存症の基本的な要素ですが、これらがすべて当てはまった場合、その人は一気見の依存症と言えるかもしれません

もし、これらのうちいくつかは当てはまらないという場合、グリフィス教授は「問題はあるかもしれないが、私の基準では依存症に分類しない」と語っています。

ただ、当てはまったとしても、一気見依存症というものは、現在精神医学マニュアル(DSM)で公式に認められている病気ではありません

そのため、現在のところ、医者が一気見から離れられない人を、「一気見依存症」と診断することはありません。

(これはセックス依存症や仕事依存症なども同様で、DSMでは公式の病気として認定はされていません。タイガー・ウッズのセックス依存症報道は有名ですが、あれもメディアが勝手にそう呼んでいただけです)

現在一気見依存症という病気は公式に存在はしていない
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そのため、一気見に執着してしまう現象が依存症に当たるかどうかの研究は、現在進められている最中です。

最近ではポーランドの研究チームが、645人の若年層(成人)を対象に調査を行い、1回の視聴で複数のエピソードを見ることがあると答えた人たちに潜む要因を明らかにしようと調査を行いました。

そこでは「シリーズ物を見るために、仕事を放棄したことがどれくらいあるか?」「シリーズをまとめて見られないときに、どれくらいの苛立ちや悲しみを感じるか」「一気見のためにどれくらい睡眠時間を削ったことがあるか」といった質問を行いました。

参加者は、この質問に対して「1(まったくない)」から「6(いつもある)」という6段階評価で回答し、一定基準以上のスコアを出した場合、問題のある乱視聴の状態だと判断されました。

他のスケールを使った調査では、衝動が制御できない度合い、計画性の欠如、目の前の問題や孤独から逃れるために一気見に走る、といった要因も問題のある視聴の予測因子になることがわかったといいます。

またこの研究者たちは、以前の研究で、問題のある一気見行動には、不安やうつ症状が有意な関連を持つことも報告しています。

こうした一気見に関する問題は複数報告されていて、台湾で行われた研究では、うつ病や社会的交流への不安、孤独感が関連して起きていると報告しています。

一気見にそこまで固執する人が、どの程度いるのかはわかりませんが、一気見の部分をソーシャルゲームやアイドル、V-Tuberへの投げ銭問題に置き換えると該当しそうな人はたくさんいそうな予感がします。

疑わしい場合でも依存症を公式に病気と認定するには、多くの証拠が必要になります。

研究者や医療者側が、時代が生んだ新しい依存症の人たちを、きちんとサポートしてくれるようになるには時間がかかるのです

そのためもし、自分がこれは依存症に当てはまっててヤバいかも、と危険を感じた場合は、早めにその行為から離れて、自身の衝動を制御できるよう努めた方がいいかもしれません。

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参考文献

An Actual ‘Addiction’ to Binge-Watching TV Could Be More Real Than You Think
https://www.sciencealert.com/being-actually-addicted-to-binge-watching-tv-could-be-more-real-than-you-think

元論文

Impulsivity and Difficulties in Emotional Regulation as Predictors of Binge-Watching Behaviours
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyt.2021.743870/full