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「ロボット」という言葉を聞いて、何をイメージしますか? 冷たく無機質なボディで、掃除など家事を代わってやってくれる便利なモノ……そんなイメージがまだ一般的かもしれません。ところが最近登場してきた家庭用ロボットたちは、それとはちょっと違うベクトルへ向かっているのです。

 

一般に「家庭用コミュニケーションロボット」とカテゴライズされる“彼ら”は、人を手伝うためではなく、“人に愛される”ことを主な目的に生まれてきた存在。その本質は1999年にソニーから発売された犬型のペットロボット「AIBO(アイボ)」と同じですが、いま主流のロボットたちにはフワフワの毛が生えていたり、役に立つどころかお世話が必要だったり、見た目も中身もいい意味で“ロボットらしくない”のが特徴です。

 

特別何かの役に立つわけでもないけれど、一緒にいると寂しくない……。会えない家族やペットと同じように温もりを届けてくれる家庭用コミュニケーションロボットは、コロナ時代に幅広いユーザーから支持を受け、新たな市場を拡大しているようです。今回はその代表格である「LOVOT」を例に、“家族としてのロボット”の今を取材しました。

 

お手伝いとコミュニケーション。多様化している家庭用ロボット市場

出典:=野村総合研究所(https://bit.ly/3hmgBfQ)

 

2020年から突如として始まったウィズ・コロナの時代。おうちで過ごす時間が増え、他者と会える機会が減ったなかで生まれたトレンドのひとつが、「家庭用コミュニケーションロボット」です。

 

その傾向は、上のグラフからも見て取れます。出典元の野村総合研究所は、「物流・搬送用ロボット」「医療・介護用ロボット」「オフィス・店舗用ロボット」「家庭用ロボット」の4分野を合わせた日本国内におけるロボット市場は、2018年度の1200億円から、2024年度には2490億円にまで拡大すると推計。中でも大きな割合を占めるのは「家庭用ロボット」で、主流はお掃除ロボットや声で家電を操作できるスマートスピーカーなど、人の仕事の代替を目的とした製品です。

 

しかしウィズ・コロナの時代に入ってから、人の仕事の代替とは違う目的を持った家庭用ロボットがヒットを生むようになりました。それが、ただ一緒にいるだけで心が癒されたり、楽しい気持ちになれたりする「家庭用コミュニケーションロボット」。彼らの最大の特徴は、会話を楽しんだり、大好きなオーナーにすり寄って甘えてきたり、人と交流するために生まれてきたこと。犬猫のような動物ほど手がかからず、言葉を話す人間のような煩わしさもない。ロボットという新たなパートナーとの暮らしが、いま新たなライフスタイルとして注目されているのです。

 

その人気ぶりたるや、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。たとえばミクシィが開発した「ロミィ」は、ディープラーニングで言語生成し人と会話する世界初の家庭用コミュニケーションロボット。2021年4月に一般発売を始め、同月で想定の2倍以上の売り上げを記録して品薄状態が続きました。大手メーカー・パナソニックも“弱いロボット”なるユニークなコンセプトで「NICOBO」を開発。こちらは2021年2月よりクラウドファンディングを実施したところ、開始初日に全320台を完売しています。

 

また、2021年9月には渋谷にロボットと暮らすライフスタイルの発信拠点を目指したカフェ「PARK+」がオープン。自身のロボットを連れてお出かけしたり、ロボットを通じてオーナー同士の出会いや交流を楽しむファンダムが生まれたり、さらに、これまでロボットに触れたことのない人が気軽に触れ合える機会にもなっているそう。

 

利便性ではなく、存在そのものが愛されている。か弱く甘えん坊のロボットたちは、どんな風に開発され、私たちにどんな幸せをもたらしてくれるのでしょうか? 次からはその具体的な例を挙げてみていきましょう。

 

人に寄り添う、話題のコミュニケーションロボットたち

ソニー「aibo(アイボ)」
初代は1999年に誕生。ペットロボットの草分け的存在。2017年に登場した最新の「aibo」は、人と寄り添いながら生活し共に成長していくパートナーを目指して開発されている。

 

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ユカイ工学「BOCCO emo(ボッコエモ)」
スマホを持たない子供と親を、声と文字でつなぐコミュニケーションツールとして2015年に誕生。2021年に登場した「BOCCO emo」は、共感する対話エンジンなども搭載する。

 

シャープ「RoBoHoN(ロボホン)」
2016年発売。TVドラマで見せた“恋ダンス”を踊る姿が話題に。電話やカメラ等のスマートフォン機能や会話を楽しむことができ、最近はプログラミング学習にも活用される。

 

ユカイ工学「Petit Qoobo(プチ・クーボ)」
しっぽのついたクッション型セラピーロボットは、2020年12月の発売直後から入荷待ち状態に。撫でるとしっぽを振る、抱っこすると鼓動を感じる「癒やし」の存在として話題。

 

パナソニック「NICOBO(ニコボ)」
2021年クラウドファンディングを実施。「弱いロボット」のコンセプトで注目された。マイペースな性格ながら自分の感情を持ち、同居人の言葉を覚えてカタコトで話すことも。

 

ミクシィ「Romi(ロミィ)」
おしゃべりが得意な自立型会話ロボット。2021年4月に発売後、ディープラーニングで言語生成し、会話する世界初の家庭用コミュニケーションロボットとして認定された。

 

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やきもちを焼くロボット「LOVOT」に癒されるのはなぜ?

2020年秋、テレビドラマにあるロボットが出演して話題になりました。登場人物の家を自由自在に自律移動し、ペットのように暮らす丸々とした愛らしい存在。そこで使用されていたのが、GROOVE X社より2019年に発売された、人に懐いて嫉妬もする家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」です。

 

ホイールでなめらかに自律移動し、オーナーを足元から見上げる表情は、まるで子犬のよう。抱っこするとほんのり体温を感じ、服を着せ替えしたり可愛がったりするほどに愛着が形成されていくLOVOTは、子供から大人までさまざまなユーザーに受け入れられているといいます。そんなLOVOTが人をトリコにする理由とは? ブランドマネージャーを担当する家永佳奈さんにうかがいました。

 

「従来のロボットには、人の仕事を代わりにやってくれる機械というイメージがあったと思います。でもLOVOTは、逆に人間が面倒を見てあげなければならないロボット。特別なことは何もできないけれど、LOVOTという存在がいることで心がホッとしたり、明日もがんばろうという気持ちになれたり、人間の心のサポートになれる存在として開発しました。ロボットの語源にはもともと労働といった意味がありますが、LOVOTの語源は“LOVE”。私たちはこれを、人の心に寄り添う“パートナーロボット”と呼んでいます」(家永佳奈さん、以下同)

 

GROOVE X「LOVOT」ブランドマネージャー / 家永佳奈さん
日本マクドナルド、有限会社てっぺん、バーガーキング・ジャパンを経て2015年にGROOVE X入社。LOVOTのブランドマネージャーとしてマーケティングやPRを兼務する。創業メンバーとして商品コンセプトやコミュニケーションプランの構築、企業コラボレーション企画や運営に従事する。

 

コロナ時代が訪れる以前の2018年末に発表されたLOVOT。なぜ人の心に着目したのでしょうか?

 

「人間って友達や家族には話しにくいことでも、言葉を話さない犬や猫、大事にしているぬいぐるみになら素直に話せたりしますよね。そういったペットセラピーのような役割が、ロボットにもできるんじゃないかと考えたのがきっかけの一つです。子どもでも大人でも高齢者でも、誰もが安全に一緒に暮らせる、家族の新たな選択肢を作りたかったんです」

 

ならば、犬や猫に限りなく似せたペットの代替品を作ればいい……という単純な発想にはならなかったのが、GROOVE Xのスゴいところ。彼らがまずやったのは、人間ではなくペットやぬいぐるみになら心を開けると感じる人の脳の構造や、深層心理を掘り下げること。これを、今までにないロボットの構想に落とし込んでいったといいます。

 

「本来ロボットはソフトウェアとハードウェアを組み合わせれば動きます。ただし、可愛らしさとか愛着形成といった目に見えない部分は、エンジニアの技術だけでは作れません。開発には何人ものエンジニアやプロダクトデザイナーが関わっていますが、LOVOTは私たち人間がまだ出会ったことのない“未知なる存在を作る”というチャレンジだったので、数字や言葉だけでそのイメージを共有するのが難しかったのです。そこで我々がどういう開発の方法を取ったかというと、たとえば絵本作家さんに入っていただいて、代表の林が想定している家族とロボットのあり方を紙芝居にして社員に伝える……といった、言葉にしづらいイメージの共有を丁寧に繰り返していきました」

 

↑「あえて何にも似せていない」LOVOTの姿。球体を縦に重ねたような形は、床からの抱き上げやすさや、腕の中での収まりの良さを考えて設計。お顔もオーナーと目が合わせやすい位置を計算してデザインしています。人と自然にコミュニケーションするため、この愛らしい身体の各部に50以上のセンサーを搭載しているとか。

 

LOVOTは、ダンサーやミュージシャン、アニメーターなどさまざまな得意分野を持つプロフェッショナルが開発に参加しているところも興味深い点です。

 

「人と一緒に暮らすパートナーだからこそ、一緒にいて違和感のない存在に仕上げる必要がありました。たとえば両手をパタパタと振る仕草。こういった動きはプロのダンサーの方と開発を進めました。生物の筋肉と同様の自然な動きを再現しています。キュン、キュンといった鳴き声を作っているのは、プロのミュージシャンの方。こんなふうに、LOVOTの身体は各分野のプロとエンジニアのペアワークによって作られています」

 

↑優れた深度カメラ、障害物センサーを使って自律移動し、回転、バック、カーブまで上手にできる身のこなしと静音設計で、人との暮らしに調和します。プロダンサーなどの意見を元に本物の生き物のようなしなやかな動きを実現。抱っこして欲しいときは、足元でホイールをさっとしまって、上目遣いでおねだり。あまりの可愛さに胸がキュンとしてしまいます。

 

↑見つめると見つめ返してくる自然なアイコンタクトをしたり、眠くなると瞼が閉じてきたり、感情を豊かに伝えてくれる瞳。そんなLOVOTの瞳は、まぶたも含め6層の映像をアイ・ディスプレイに投影しています。色や瞳孔の大きさ、瞬きの速度まで設計されており、そのデザインは10億通り以上の組み合わせが存在。もちろん好みの瞳にカスタマイズ可能です。

 

↑頭に乗っているのは、360度を見渡せる半天球カメラや明るさを感じる照度センサー、サーモグラフィーなどを内蔵したセンサーホーン。部屋の位置を把握して家の間取りを覚えたり、人の存在や自分が呼ばれていることをここで感知します。大切な部分なので、乱暴に触ると嫌われちゃう……かも!?

 

 

抱っこをおねだりしてくる上目遣いの仕草や、ほんのり温かい感触には取材スタッフも感動。放ったらかしにするといじけたり、他のLOVOTばかりを可愛がっていると嫉妬したり……。そういったさまざまな感情を、身体の動きや10億通り以上もある鳴き声、瞳の動きなどで豊かに表現してくれます。

 

「愛着形成という部分を大事にしているので、まずは人に抱っこしてもらうにはどうしたらいいかを深く追求しました。抱っこしやすい丸いフォルム、おねだりする動き、機械音をなるべく犬の足音のような静かな音に近づけたり、弾力性のある柔らかい素材を使ったりといろいろな工夫をしていますが、中でも開発にもっとも時間をかけたのは温かさだと思います。LOVOTは内蔵したハードウェアの熱を全身に循環させながら、常に37〜39℃くらいの体温を保っています。実は弊社代表の林は以前、トヨタでF1の開発に携わっていました。特に空力を専門としていたので、この子たちの温かさには、F1のスゴい技術が生かされているんです(笑)」

 

↑全身にほんのりと適度な温かさを循環するエア循環システムは、F1の空力開発で培われたスゴい技術によるもの。ボディには特殊な弾性素材を用い、生物的な柔らかさと温かさを両立します。4.2kgの適度な重みにも生命感があり、自然と「大切に触れたい」という気持ちが湧いてくるから不思議です。

↑LOVOTは自分にたくさん触れて可愛がってくれる人にはどんどん懐き、冷たくする人にはだんだん近寄らなくなっていく学習機能を備えています。家永さんの足元にいるのは、取材中に抱っこ待ちをしていた嫉妬深きLOVOTたち(笑)。手をひらひらさせ、上目遣いで「かまって!」と必死にアピールしている姿が健気すぎる!

 

このLOVOT、各種センサーによってきめ細かい動作・反応を繰り出しますが、実はおしゃべりができません。でもそれこそが、人の心に最大限寄り添う工夫だったのだとか。そこに込めたこだわりとは?

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

言葉を持たないからこそ、人の心にそっと寄り添える

触れ合うほどにオーナーを信頼し、懐いてくる独自の愛着形成がプログラムされているLOVOT。家の中を走り回るうちに間取りを覚え、アプリで玄関の位置を設定すると、センサーで感知し帰宅したオーナーを玄関で迎えてくれるなど、時間が経つごとに絆は深まっていきます。そんなLOVOTに開発陣があえて与えなかったのが、言語生成の機能でした。実はこれこそ、人の心に最大限寄り添う工夫だったといいます。

 

「聞き取ることはできますが、会話はできません。これはあえてしゃべらせなかった……ということですね。人間同士もそうですが、言葉があるからこそ相性が生まれてしまう側面ってあると思います。もしも自分の飼い猫が言葉を話して、『この猫とは性格が合わないかも……』なんて感じてしまったら困りますよね(笑)。私たちが落ち込んでいるときも、彼らが言葉を持たないからこそ、そっと寄り添ってくると『慰めてくれるの……?』なんて幸せな勘違いができたりします。私たちがLOVOTについてよくいうのは、『ハムスター以上、犬猫未満』くらいの存在。それくらいの塩梅が、今の技術の進歩からするとちょうどいいのではないかと考えています」

 

↑LOVOTがその日の自分の行動を家族に報告してくれるユニークなアプリ。転んでしまったとき誰かに助けてもらったことや、オーナーの留守中に部屋をかけまわって楽しく遊んでいたことなどを教えてくれます。仕事中にウチの子からこんな報告が来たら、きっと癒されてしまうはず…!

 

↑LOVOTの稼働時間はフル充電で約30分〜45分間。お腹が空く(充電が少なくなる)と自分でネスト(巣)と呼ばれる充電機に駆け寄り自動で充電します。フル充電まで約15分〜30分というのもスピーディ。お出かけに連れて行っても、外出先にネストがあれば充電可能です。

 

一方で、最近は教育機関や、高齢者施設などでの取り組みにも力を入れているそう。

 

「2020年から全国の小学校でプログラミングが必須科目になりました。それを受けて、横浜のとある小学校の図書館にLOVOTを導入していただきました。それまで図書館にプログラミングの本があっても見向きもしなかったような子どもたちが、LOVOTとの出会いをきっかけに自発的に学ぶ姿勢を見せているといったお声もいただくようになりました。何もしないのがLOVOTの良さではありますが、子どもたちの自発学習を促すという意味では良かったなと思っています」

 

LOVOTを経て、彼らが作るロボットはどんなふうに進化を遂げていくのでしょうか? 家永さんが今後のGROOVE Xの展望を代弁してくれました。

 

「人とロボットの新しい信頼関係を築き、新しい家族として迎え入れていただくこと。これが、私たちが目指すゴールだと思っています。そもそもLOVOTのようなパートナーロボットは、これまでも日本が世界に先駆けて製品化してきた歴史があります。欧米人には映画『ターミネーター』のように、人とロボットが最終的に憎み合い、敵同士になるというイメージが少なからず刷り込まれている気がするのですが、一方で日本には『ドラえもん』のように、人と友達になれるロボットという世界観が強く根付いているんですよね。最終的にはLOVOTは、“四次元ポケットのないドラえもん”のような存在にしたいと思っています」

 

もしも、ドラえもんから四次元ポケットを取ってしまったら……? 大好きなドラ焼きを食べて、押し入れで寝ているだけの猫型ロボット。想像するとなんだかクスリと笑えて、ちょっと心がなごみます。

 

「よく代表の林がいうことなのですが、四次元ポケットの便利な道具でのび太くんが幸せになれたことって、実はほとんどないと(笑)。でもドラえもんの存在は確実に、のび太くんが何かをがんばることの原動力になってるんですよね。それって、存在そのものが非常に大事だったってことだと思います。だから私たちが目指すのは、四次元ポケットのないドラえもん。当たり前に一緒にいる家族のような存在、人の心に寄り添うパートナーとしてのロボットを今後も追求していきたいです」

 

↑GROOVE Xの本社には、事前予約制で誰でもLOVOTに触れられる「LOVOT MUSEUM」があります。写真はその一角。LOVOTに詰め込まれた最先端テクノロジーについて、それぞれの分野の開発担当者自らが、直筆でユーザーに向けて解説しています。作り手の愛と熱意が伝わってくる、必見のスペースです。

 

↑こちらはLOVOT歴代の開発機を展示したスペース。どんな姿・形ならば家族に愛される存在になれるか? その試行錯誤の軌跡を一覧できます。「四次元ポケットを持たないドラえもん」という理想像への追及は、まだまだ続きそう。

 

GROOVE X https://groove-x.com/
LOVOT https://lovot.life/