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〜玉袋筋太郎の万事往来
第13回 盆栽職人・小林國雄氏

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第13回目のゲストは、4度の内閣総理大臣賞を始め数多くの受賞歴がある世界的な盆栽職人の小林國雄氏。長年にわたって国内外の後進を育成しながら、春花園盆栽美術館を運営、さらに世界30か国以上で講演を行うなど、盆栽の普及活動に努める氏から飛び出す金言の数々に玉ちゃんも感服!

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

金儲けの手段として盆栽を始めた

玉袋 今や盆栽は世界的なものですよね。

 

小林 そうですね。私は講演で約30か国、200回以上は海外に行ってるかな。

 

玉袋 海外で最初に盆栽の火が付いた国はどこなんですか?

 

小林 アメリカだね。40年ぐらい前かな。諸説ありますが、盆栽というのは約1300年前に中国で生まれて、約800年前に日本に入ってきて、日本人の感性によって今の盆栽の形が確立されたんです。

 

玉袋 根っこは中国ですか。

 

小林 でも最初は盆栽というよりも鉢植えだよね。日本人の非常に高い美意識で、鉢植えから盆栽に変わっていった訳だね。でも今は日本よりも世界の盆栽のほうがすごいんだよ。

 

玉袋 えー!?

 

小林 日本のほうがダメになったの。

 

玉袋 それは盆栽人口の減少が問題ですか?

 

小林 それも大きいね。盆栽協会というのがあるんですけど、昔は会員が5万人いたのに、今は3000人しかいないんだもん。

 

玉袋 5万人から3000人はビックリですね。もちろん高齢化もあると思いますけど、そのほかにも盆栽人口が減った原因はあるんですか?

 

小林 住宅事情だね。

 

玉袋 そうか!

 

小林 盆栽は庭に置くものだからね。今はマンションや団地に住んでいる人が多いから、ベランダぐらいしかないでしょう。最近はベランダも消防法で置けなくなっているしね。今一番、盆栽が盛んなのはベトナム。あとはフィリピン、シンガポール、インドネシアなど経済が伸びている国は、盆栽も伸びています。アメリカも日本と同じく衰退しているんですよ。経済が伸び切っちゃうとダメなんだね。

 

玉袋 盆栽を見れば国の経済が分かるんだ。

 

小林 そういう面もあるね。盆栽は心の余裕が必要ですから。1000円からでも楽しめるけど、本格的な盆栽は高価なものだしね。うちなんか7年前から『芸能人格付けチェック』(テレビ朝日系)で、「1億円の盆栽」なんてキャッチコピーで紹介されていますけど、それぐらい価値の高い盆栽もあるんです。

 

――今はコロナ禍で減ったと思いますが、以前はどれぐらい海外のお客さんが春花園盆栽美術館にお見えになっていたんですか?

 

小林 年間3万5000人ほどでした。東京に来たら寄りたい場所のナンバー1が明治神宮、2番目が皇居、3番目がスカイツリー、4番目が浅草、うちが5番目なんです。

 

――ベスト5に入っているんですか!

 

小林 それぐらい日本人よりも外国人に人気があるんです。過去にはレオナルド・ディカプリオやキャメロン・ディアスも来ましたよ。

 

玉袋 今や寿司、てんぷら、芸者よりも盆栽なんですね。そもそも親方は、どうして盆栽を始めたんですか?

 

小林 儲かるから始めたんです。金儲けの手段ですよ。もともと親父が100円200円の草花を売っていたんだけど、それだと駄菓子と一緒で幾ら数を売ってもお金にならない。だったら1個10万円以上の盆栽を売ったほうがお金になるし利益率も高い。それで盆栽を始めた訳。

 

玉袋 冒頭から生臭い話ですね(笑)。

 

小林 私は孫にも言っているんだけど、「儲からないと盆栽はやらない」と。儲かる、楽しい、夢がある、だから盆栽はいいんだ。

 

玉袋 そこまで直球で言われると気持ちいいね。俺なんかのイメージだと、「盆栽は年寄りのもの」だけど、あれは『サザエさん』が悪いんですよ。カツオが空き地で野球をやってると、絶対に年寄りの盆栽を割るんだから。それでいうと『オバケのQ太郎』も同罪だな。

 

小林 そうそう(笑)。波平さんがやっていたから、盆栽は年寄りのものって悪いイメージが付いちゃったんです。うちには4年前にポーランドから来た弟子がいるんだけど、なぜ彼が盆栽を始めたかと言うと、映画『ベスト・キッド』を観て、空手の先生が趣味で盆栽をやっていたから。

 

玉袋 ミヤギ(宮城成義)がやってたね。

 

小林 普通は『ベスト・キッド』を観たら空手を始めるのに、彼は盆栽にハマったの。

 

――外国人から見ると、盆栽は神秘的でしょうね。

 

小林 盆栽って何と聞かれたら、「命の尊厳」ですよ。そこに命がある芸術です。私たちが生まれる前から、生きている木だからね。

 

玉袋 盆栽は日本人が得意としている小さくしていく技術が詰まっていますしね。

 

小林 そう、凝縮しているんだよね。それと簡略ね。引き算。余計な枝をなくして、線と空間を切り取っていく。あと盆栽に大切なのは個性、調和、品位、この3つ。日本人はわび・さび、もののあはれを重んじるからね。

 

玉袋 盆栽道だ。茶道にしても、華道にしても、すべてに道がありますからね。そう考えると、日本の道ってすごいですね。どうして日本の若者が気付かずに、海外の若者が盆栽の魅力に気付いたんだろう。もったいないよ。こんなにすごい世界が身近にあるにも関わらず、なんでスマホいじってんの? って。言ってみりゃ、盆栽は永遠に続くディアゴスティーニだよ。

 

小林 この世界は制約が多いんですよ。水をかけないと盆栽は枯れちゃうんだ。1週間で枯れちゃうから、出張や旅行に行けない。

 

玉袋 こういう表現は親方に悪いかもしれないけど、ぬか床と一緒ですね。

 

小林 〇〇(※国民的アイドルグループのメンバー)が一時、盆栽にハマったんだけど、全部枯らしちゃってさ。それっきりアウト。

 

玉袋 俺も盆栽をいただいたことがあって、「よーし!」と思って育てたけど枯らしてしまいました……。

 

小林 水だな。だいたい枯れる原因は水切れ。植物ってのは水と太陽の光と温度が大切。盆栽の場合は鉢の中に入っちゃっているから、愛情がなければ3日で死んじゃう。でも愛情を込めて育ててあげれば、どんどん良くなるんです。

 

玉袋 枯れた盆栽に「悪かった! 許してくれ」と謝りましたね。我ながら、そのときの落ち込みようったらなかったですよ。

 

小林 私なんてお金にしたら1億円以上は枯らしているから。

 

――今でも枯らすことはあるんですか?

 

小林 プロだって枯らしますよ。盆栽にだって病気があるから。あそこの壁に飾ってある写真は過去に枯らした木なんだけど、樹齢500年ぐらいで、当時3000万円で買ったんです。3年ぐらい病気で苦しんでいたんだけど、治しきれずに枯れちゃった。

 

玉袋 木にも闘病生活があるんですね。

 

小林 あの木を枯らしたとき、私は頭を丸めて、高野山の一番偉いお坊さんに供養してもらったんです。

 

玉袋 深い愛情ですね!

 

小林 私は毎日15時間ぐらい盆栽に関わっているんだけど、夢も盆栽の夢しか見ないから。たとえば屋久島にある縄文杉の根っこを切る夢とか、国宝の「松林図」を見ながら「木の根っこが違う」と作者の長谷川等伯とケンカする夢とか、うちの若い衆を𠮟りつけたら報復として池の中に私の手がけた高い盆栽をドボンと落される夢とか、とにかく頭の中が盆栽しかないんだ。それぐらい盆栽は楽しいんです。

 

今はお金も名誉もいらない。ただ好きな木を作りたい段階

――盆栽って時間と共に変化しますよね。

 

小林 3年でまるっきり形が変わるね。自分の手で怖いぐらい形を変えることもできるし。私は木を成長させて、一番いいところを引き出してあげながら形を変えるのが仕事。いい形にして、キレイにすれば当然高く売れる。だから100万円を儲けるのは簡単なんだよね。その代わり100万円を損するのも簡単。簡単に枯れるから、あっという間に終わっちゃう。

(著書を開きながら)この木は成功した例だけど、骨を抜いて、皮だけにして、鉄のパイプを入れて、麻縄でテーピングをして、ぎゅーっと3か月かけて曲げるの。この木も樹齢500年は経ってるね。もともと、この木はお客さんの所有物で、それを私が育てたの。あとで「2000万円で買った木だった」と聞いて、最初に値段を聞いてたら絶対にやってなかった(笑)。この木なんかはオークションで300万円で買って、それを育てて、「いずれ1000万円の値が付くよ」って400万円でお客さんに売ったんです。そしたら売って1週間で枯れちゃって、しょうがないから400万円は返金しましたよ。

 

玉袋 えー!? 返金するんですか。

 

小林 そりゃそうですよ。私が自信過剰でいじりすぎちゃって枯らしたんだから。

 

玉袋 すげー世界だ……。

 

小林 枯らすのは年中です。私の人生は全部失敗。(※たまたま横にいた奥様を見ながら)失敗しなかったのは女房選びだけ。だから今があるんだ。

 

玉袋 大当たりだね。でも奥様の手入れもしないといけないでしょう(笑)。

 

奥様 手入れが足りないのよ(笑)。

 

小林 敷地内に寮があって、それぞれ一部屋ずつ6畳間を弟子に割り当てているんです。そこに多いときは十人以上の弟子が住み込みでいて、朝昼晩メシの用意をしてくれるんだから女房には感謝してますよ。

 

玉袋 一つ屋根の下で同じ釜の飯を食って職人を育てるって訳だ。

 

小林 そう。技術を学ぶのはもちろん、美意識、人間性、全てを教えているね。

 

――現在、お弟子さんは何人いらっしゃるんですか?

 

小林 今は中国人、台湾人、ポーランド人と外国人が3人、日本人が2人の計5人。こないだ日本人が1人独立しました。

 

玉袋 それってのは親方が「お前そろそろ独立しないか?」って声をかけるんですか。

 

小林 いやいや。弟子のほうから「独立したい」って言うから、じゃあ、「うちのお客さんを5人あげる」と。お客さんのところに行って、針金をかけたり、植え替えたり、盆栽の手入れをしてあげれば、手間賃として1日3万円はもらえるんです。

 

玉袋 メンテナンスだ。

 

小林 一番弟子なんかは、中国に行けば1日5万円はもらえるんだから。私で10万円。

 

玉袋 一人前になるには、どれぐらいの年数がかかるんですか?

 

小林 最低10年だろうな。こないだ独立した弟子は9年だったかな。ただ、うちは5年間やって、1年御礼奉公をして、それで年季が空ける弟子が多いですね。

 

――途中で辞めていく人もいるんですか?

 

小林 そりゃあいますよ。ほとんど辞めちゃうよね。私の場合、盆栽は名人だけど、弟子を育てるのは下手。独立した数は110人ぐらいいて、世界で活躍している弟子もいるけど、同じぐらい破門にした弟子もいますから(笑)。独立しても食べていけずに辞めていく子もいるし、厳しい世界ですよ。

 

玉袋 親方は修業時代ってあったんですか?

 

小林 私は28歳でこの道に入ったから独学。さっきも言ったとおり親父が花屋さんで、そこからのスタートだったから遅かったの。普通は高校を卒業して18歳でこの道に入るのが多いんだよね。それが8割方。最初は金儲けで始めて、やっていくうちに面白くなってハマっていったんだ。今はお金も名誉もいらない、ただ好きな木を作りたい段階かな。

 

玉袋 すげー!

 

小林 昨年は文化庁長官賞表彰を受賞したけど、自分としては興味がないの。

 

玉袋 すごい方とお話をさせていただいて光栄です!

 

小林 すごくもなんともないよ。子どもに言わせれば、ただのスケベ親父だから(笑)。でも私が本当に盆栽の深さを分かるのに50年かかった。50年かけて、ようやく盆栽の魅力が見えてきたんです。

 

玉袋 50年か……。たとえば若い人なんかは、前衛的な盆栽だったりするんですか?

 

小林 それはいるよ。パフォーマンスだけすごいのがいるけど、本物じゃなきゃ残らない。線香花火と一緒だよ。芸能界も同じでしょう?

 

玉袋 すごい道だなぁ。

 

小林 50年やって、やっと本物が見えてきた。ただ本物過ぎちゃうと売れないんだ。商売にはならない。売るものは簡単。誰が見てもキレイだなっていうのが売れるの。でも今の私はキレイなだけじゃ面白くない。味のある盆栽を作りたいんです。最後は味ですよ。

 

玉袋 売れないんじゃなく、「俺の盆栽は売らない!」じゃないんですか?

 

小林 いやいや、売りたいけど売れないんだ(笑)。私の盆栽は「暴れている」印象だから理解できないんでしょうね。キレイに整っているほうが分かりやすいから。でも盆栽に大事なのは個性。その次に大事なのが調和。個性が強すぎると嫌味になる、個性を抑えるのが調和。それと最後は品性がないとダメ。

 

玉袋 その3つと綱引きをしなきゃいけないんですもんね。若いと個性に引っ張られるのも分かるわ。3つの三角形の真ん中にズバッとくるまでに50年だ。深いね。

 

脈々と息づく日本の文化を海外に伝える心の外交

玉袋 木を育てるには土も重要ですよね。

 

小林 そうだね。水はけがいいとか、水持ちがいいとか。砂利を多くするとか、植物によって土を変えるの。

 

玉袋 土作りも無限って感じがしますけど……。

 

小林 実は土を作るのはそんなに難しくない。自生地の土を使えばいいんだから。この木が、どこで生まれたかを見つけること。それが一番。山の高いところで生まれた植物は、あまり水が好きじゃない。ゴヨウマツがそうで、霧の中にあって、あまり太陽の光が当たらないところで育つ。逆にクロマツは海辺にあるから水が大好き。同じ松でも、まるっきり正反対。もちろん沖縄で生まれたか、北海道で生まれたかでも全然違うしね。北海道で生まれた木なんかだと、今は地球温暖化の影響もあって、東京で育てると枯らしやすいね。私も去年、北海道産の350万円の木を枯らしちゃったから。

 

――地球温暖化問題が取りざたされる前と今では育て方も違うってことですか。

 

小林 全然違いますね。

 

玉袋 幾らメディアや評論家が「CO2削減!」なんて言っても、親方みたいなお仕事の方が発する言葉のほうが切実だね。

 

小林 アロエなんて昔から「医者いらず」と言われて、この辺でも昔から栽培されているけど、昔はビニールハウスで育てないと溶けちゃったんだ。今は街路樹で育てても溶けないからね。それだけ地球が暖かくなっているんだね。

 

玉袋 どんな地球温暖化のニュースよりも言葉が届きました!

 

小林 生き物を扱っているので自然から教わることも多いんですよ。

 

玉袋 盆栽も魚とか野菜みたいに旬ってあるんですか?

 

小林 ありますよ。日本の一番の魅力は四季があること。それを植物が教えてくれるの。今の時期だと柿の実がなっているじゃない。それを見ると秋だなって感じがするでしょう。春は花、秋は紅葉。私が出した本でも四季で盆栽を分けているからね。盆栽の魅力は季節といっても過言じゃない。こないだドバイの石油王が来て、内閣総理大臣賞を受賞した木を1000万円で買っていったんです。そのときにドバイの気温を聞いたら、夏は50℃以上になるって言うんだ。北海道で採れた木だったから、「枯れちゃうから無理だ」って言ったら、温度を下げる温室を作るから、どうしても売ってくれと。さすが金持ちだよね(笑)。

 

玉袋 盆栽外交ができそうだね。

 

小林 中国からアリババのジャック・マーが来たときも1000万円で木を売ったんだけど、1000万元と報道されたから、現地では1億円と勘違いしているみたい。

 

玉袋 観光名所に来ても見て終わりだけど、盆栽は買って帰れるんだからね。薄れゆく四季を教えるのに、こんなにいい教科書はないですよ。

 

小林 すぐそこに小学校があるんだけど、私は40年間、サツキの差し芽のやり方を教えてあげてるんです。なぜかというと子どもたちに命を教えたいから。サツキは枯れやすいって親御さんの声もあるんだけど、枯れるからいいんだと。それによって、そこに命があると分かるんですよね。

 

玉袋 そこで命の尊さに気付くと。

 

小林 今はマンションや団地でも犬や猫が飼えないじゃない。それに昔だったらおじいさん、おばあさんが同居しているのが当たり前だったから、死が身近にあったんですよね。

 

玉袋 なおかつコロナ禍で人間関係が疎遠になっちゃっていますしね。生があるから死もある。生と死が隣り合わせってことを親方は教えているんですね。

 

小林 形があるものは壊れてしまうからね。最近の私の盆栽も、死の部分が多くなっているんです。肉が削げて、骨がむき出しになって白骨化した木を使って表現することで、そこに生命力が生まれるんだよね。

 

玉袋 昔の作風は違ったんですか?

 

小林 昔は私もキレイな盆栽を作ってました。ところが年を取って変わったんだよね。変わったのは美意識と余裕の両方だろうな。

 

玉袋 親方は、これまで脈々と息づいてきた日本の文化を、違う国にも伝える「心の外交」を行っているんだなぁ。こうして話を聞いて思ったのは、普通は親方のステージまで行くと、お金や木を枯らした話はしないよ。権威のある人って、ついついかっこつけちゃうじゃないですか。だからこそ親方の言葉は生きているんだよな。今後は、どんな将来像を描いているんですか?

 

小林 やっぱり弟子の育成です。これをどう伝承するのか。「盆栽道」という道を作ることが私の役割ですね。

 

 

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階 )

<出演・連載>

TBSラジオ「たまむすび」
TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」