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「会社ぐるみで…やばいことしたな」HIS子会社がGoToを不正利用の疑い【調査報道23時】

大手旅行会社HISの子会社が、GoToトラベルを不正に利用していた疑いが浮上しました。調べていくと、背景には、東京オリンピックが…。会社の社長と役員を直撃しました。

■「名前を勝手に使った?」社長や役員を直撃

私たちは、その会社の社長と役員に、同時に直撃を試みた。不正に関与したのではないか。事実を聞きたかった。

記者:
「勝手に社員の名前を使われてGoToの申請されたこと。どう思っていますか」

社長:
「GoToの申請はうちはしていません」

記者:
「社長すみません、GoToは国民の税金からですよね」

記者:
「社員に謝っていますよね」

役員:
「あの、すみません、正式にコメントは会社から出していますので」

その会社は、旅行会社「ミキ・ツーリスト」。大手旅行会社HISの子会社だ。国民の税金が原資であるGoToトラベルの給付金を、不正に受け取っていた疑いがある。

■「身に覚えのない69連泊」

全ては、GoToトラベル事務局からある夫婦に届いた1通の手紙から始まった。

男性:
「(去年)10月20日から12月28日までの69連泊」

都内のホテルに「69連泊しなかったか」と確認を求める手紙だったが、夫婦はそのホテルの名前すら知らない。夫がホテルに電話すると…。

ホテルの担当者:
「お待たせしました。確認が取れまして、確かに●●●様で入られていました。お間違いないですか」

男性:
「あの、実は私と妻、この期間の69泊、実際には宿泊したことがないんです」

ホテルの担当者:
「あ、左様でございますか」

泊ってもいないホテルに、長期連泊したとされ、GoToトラベルの給付金が、無断で申請されていたのだ。

69連泊の確認を求められた男性:
「気持ち悪い」

誰が、何のために…。私たちが調べていくと、名前を勝手に使われたケースはほかにも相次いでいた。

■ミキ・ツーリスト役員が社員にあてたメール「勝手に個人情報を…」

その1人、Aさんから、情報提供窓口「TBSインサイダーズ」に、核心を突く情報が寄せられた。

「役員が勝手に社員の個人情報を使用して取引先のホテルの客室を押さえるという事案があり…」

Aさんは、大手旅行会社HISの子会社「ミキ・ツーリスト」に勤めていた。そのミキ・ツーリストに「勝手に名前を使われた」と言うのだ。Aさんに電話をかける。

ミキ・ツーリストに勤めていた男性:
「いろいろとあって個人情報を第三者(ホテル)に提出してしまったと(聞いた)」

さらに私たちは、Aさんの話を裏付けるメールを入手した。ミキ・ツーリストの幹部が社員にあてたメールだ。

ミキ・ツーリストの役員が社員にあてたメール:
「従業員の氏名と自宅住所の情報を、本人の同意を得ることなく無断で利用、ホテル側に提供した」

ミキ・ツーリストは、社員80人の個人情報を使い、東京都内のホテルに、去年、1部屋4人で20部屋、60泊の宿泊を契約していた。80人のうち60人については、勝手に名前を使っていたという。

GoToトラベルキャンペーンでは、クーポン券と給付金あわせて、宿泊料金の最大半額分が国=税金から補助される。

補助をGoTo事務局に申請するのは、旅行会社やホテル。クーポン券は、旅行会社やホテルを通じて、宿泊者本人に渡され、給付金は、旅行会社やホテルに、国から直接支払われる。上限は、クーポンとあわせて1人1泊2万円だ。

メールによると、社員80人×60泊分、つまり4800泊分が予約されたという。実態のない宿泊に、多額の税金が費やされた可能性がある。

一体なぜ…。メールには、その背景も書かれていた。それは…東京オリンピック。

■売れ残りはGoToで穴埋め「役員一同悩んだ末に…」

ミキ・ツーリストの役員が社員にあてたメール:
「東京大会2020開催日程に合わせ、訪日需要を見込んでホテルの客室を一定量仕入れていた」

ミキ・ツーリストは、2020年の東京五輪に向けてホテルの客室を押さえていた。しかし新型コロナで五輪の開催は延期となり、大量の売れ残りが生じた。そこでホテルのトップと話し合った結果…。

ミキ・ツーリストの役員が社員にあてたメール:
「ミキ・ツーリストにとっては、売れ残った分(=損失)は、GoTo適用による還付金で実質減額が叶うことから、買取契約書面の締結を行った」
「役員一同悩んだ末に、個人情報を本人に無断でホテル側を通じてGoTo事務局に提出した」

社員へのメールで明らかにされたカラクリ…。五輪需要を期待して押さえた部屋が売れ残り、その損失をGoTo利用で穴埋めしようとした。その際に社員の名前を勝手に使ったというのだ。その話を聞いて、ミキ・ツーリストに勤めていたAさんは。

ミキ・ツーリストに勤めていたAさん:
「会社ぐるみですよ。やばいことをしたなと。不正受給なんじゃないかなと正直思いました」

■記者の直撃に社長や役員は…

私たちは、ミキ・ツーリストに取材を申し込んだ。すると…

ミキ・ツーリストからの回答:
「従業員とその関係者の新型コロナウイルス感染防止等の安全対策、福利厚生、宿泊型研修の実施等を目的として、ホテルの客室を利用する予定でした」

と、社員へのメールの主旨とは、異なる答えが返ってきた。私たちは、役員、そして社長に、直接話を聞くことにした。

「ピンポン」

執行役員の櫻井氏。

記者:
「GoToトラベルの件でお伺いしたかったんですけど」

櫻井執行役員:
「私の方から直接お答えすることはできませんので、会社の方から書面でも回答させていただいているので、そちらの方でよろしくお願いします」

そして、取締役執行役員の今野氏は…。

記者:
「メールを社員に送られていますよね」

今野取締役執行役員:
「・・・・・・」

記者:
「社員に謝っていますよね」

今野取締役執行役員:
「あの、すみません、正式にコメントは会社から出していますので」

記者:
「でも税金ですよね」

今野取締役執行役員:
「はい?」

記者:
「税金ですよね、給付金って」

今野取締役執行役員:
「すみません、お答えできないんです」

社長の檀原徹典氏にも話を聞いた。

記者:
「インタビューを会社の方にも送らせて頂いて、お答え頂けないかと思いまして」

檀原社長:
「カメラやめていただけますか」

記者:
「このメールについてみていただけますか?これ御社の幹部が社員の方に送ったものだと思いますが、これ間違いないですか?」

檀原社長:
「間違いありませんけど…」

社長は、幹部が社員に送ったメールの存在を認めた。東京五輪が延期になって出た損失を埋めるために、社員の名でGoToを利用したことを明かした、あのメールだ。しかし…。

記者:
「勝手に社員の名前を使われて、GoToの申請されたことをどう思っていますか」

檀原社長:
「GoToの申請はうちはしていません」

記者:
「ホテル側ですか」

檀原社長:
「はい」

GoToの給付金を申請したのは、ホテルを運営する会社だという。

記者:
「すみません、社長、社長、お答えください。社長、すみません。GoToは国民の税金ですよね?社員の方にご説明をされていますけれども、国民にはどうご説明されるんですか?社長」

檀原社長:
「・・・」

その後、私たちがミキ・ツーリストに詳細な説明を求めると、「宿泊利用を前提としており、不正利用の意図はない」と回答。詳細を答えるには時間がかかるとした。また、ホテルの運営会社も、「弊社ではあくまでも宿泊利用を原則とするご予約を頂いており、不正利用の意図はない」と答えた。

■HISが調査委員会設置「厳正に対処する」

そしてミキ・ツーリストの親会社・HISは9日夜。「ミキ・ツーリストより、GoToトラベル事業に係る取引の中に宿泊の実態がない取引、すなわち同事業の受給対象とならない取引が存在した」と発表し、調査委員会を設置したことを明かした。取材に対し、「調査委員会の報告を踏まえ、厳正に対処させていただきます」としている。