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 幾度もの感染拡大を迎えた新型コロナウイルス感染症がようやく落ち着きを見せ始めた10月、筆者は東北地方を回りながら仕事をするワーケーションの旅に出ることにした。きっかけは、青森県が実施するテレワーク体験モニターに応募したことだ。この体験モニター自体は青森県への往復交通費と指定されたコワーキングスペースの利用料が無料になるほか、指定された宿泊施設であれば宿泊費も無料になるという内容だ(すでに申し込みは終了している)。

 基本的には1つの拠点を対象としたモニターではあるものの、せっかくの機会なので、東北地方を巡りながら北上して青森県を目指そう、と考えたのが、今回のワーケーションの旅の経緯だ。

 筆者は、地方創生のプロジェクトを手掛ける一般社団法人Next Commons Lab(NCL)に業務委託で関わっており、NCLの拠点が東北にいくつもあることから、青森県を目指しつつ、それら拠点を回ることにした。具体的には、福島県南相馬市にある「小高パイオニアヴィレッジ」を訪問、次に岩手県遠野市の「Commons Space」を訪問し、本来の目的地である青森県では、体験モニターの対象である弘前市の「ワークスペース・シフト(SHIFT)」と、そこから徒歩1分以内にある「HIROSAKI ORANDO(弘前オランド)」を訪問するというルートだ。

福島県南相馬市の「小高パイオニアヴィレッジ」

岩手県遠野市の「Commons Space」

青森県弘前市の「ワークスペース・シフト(SHIFT)」

青森県弘前市の「HIROSAKI ORANDO(弘前オランド)」

 拠点間の移動時間は数時間単位で、かつ、ほぼ毎日のように場所を移動したため、1カ所に留まるリモートワークやワーケーションに比べると移動時間の比率が非常に高い。結果として睡眠や飲食の時間を除いた行動時間のかなりの時間を移動に費やすという、時間だけ見ると、あまり効率がよいとは言えない行程だった。

 かなり例外的な環境ではあるものの、今回は筆者のワーケーションの旅を振り返りながら、リモートワーク時代におけるワーケーションについて考えてみたい。

「移動に合わせて作業を分類すること」で移動中の仕事を効率化

 今回のワーケーションは前述の通り移動時間の比率が高いため、移動中にどんな仕事をするか、が一番の課題だった。移動時間を休息の時間と割り切ってしまえば不要な考えなのだが、今回ほど移動時間の割合が多いと、移動中に全く業務をしないと割り切るのは難しく、移動時間に何ができるのか事前にしっかり検討しておく必要がある。

 まずは移動中に行う作業を大きく3つに分類した。1つめはインターネットが不要なローカル作業、2つめはメールやSlackなど、ネットは必要だがそこまで通信速度が必要ない作業、そして3つめがWeb会議のようにネットが必要で、ある程度の通信速度や安定性が必要な作業だ。

 また、作業内容自体も、チャットやメールの返信などスマートフォンで済ませられるものか、資料作成のようにパソコンを開く必要があるかも、移動しながらの業務としては大きな違いだ。

 Web会議に関しては、移動しながらの参加は難しいと割り切った。東京都内ならいざ知らず、地方への移動中には通信速度以前にそもそも電波がつながらないエリアもあるし、つながったとしても通信速度が遅いと相手の声がまともに聞こえないこともある。

 一方、資料作成などインターネットを基本的に必要としない作業であれば、移動中でも作業は可能だ。移動中にも効率よく業務を進めたいのであれば、移動中の工程表を作ったうえで、どこでどの作業を行うのかもあらかじめ決めておく必要がある。

 筆者の場合、新幹線は車内インターネットがあるのでパソコンを使った方が効率がいい作業を中心に行い、在来線ではパソコンを広げられるかどうかの環境がつかめなかったため、スマートフォンでのSlackやメール送受信を中心に業務することにした。

 Web会議はコワーキングスペースなど、ネット接続が可能な場所に到着する時間を事前に計算に入れたうえで予定を組んだ。どうしても移動中になってしまうWeb会議についてはあらかじめ自分が移動中であることを申告し、基本的には音だけ聞いて参加するということを説明するようにした。

ワーケーションの旅で訪れた福島県南相馬市小高区のJR常磐線・小高駅前

「移動時間という締め切り」が作業を効率化

 こうして業務時間が細切れになってしまう移動中の業務は、一見すると作業効率が悪いように思えるが、筆者にとってはむしろこの細切れの作業が有効に作用することもあった。というのは、時間ごとにやるべき作業が時間割のように整理され、次の列車までに作業を終わらせないといけない、という締め切りが自動的に設定されるからだ。

 この列車に乗るまでにこの作業、次の駅に着くまでにこの作業、と、ネット環境と作業内容によって業務を割り振ることで、普段に比べると実際に作業に当てられる時間は圧倒的に少ないはずが、結果として普段と遜色ないくらい効率よく作業を進めることができた。また、「現地で美味しいものを食べたいから早く作業を終わらせたい」という下心も少なからず有効に作用した。

 もちろん移動が続くと体力も消耗するし、細切れの移動が続くと効率も悪くはなるため万人にお勧めできるものではないが、同じ場所で長時間作業に集中できる移動環境は、少なくとも筆者のように集中力が途切れやすいタイプには作業の効率を高める効果もあると感じた。

備品を充実させることで「自宅と変わらない作業環境」を再現

 移動を終えて現地に着いてからは、前述の通り、近隣のコワーキングスペースを活用。インターネットが安定してつながる、というだけで、移動中よりも遙かに効率のよい作業が可能だった。働くことを前提としたコワーキングスペースのため、通信速度も安定していて不安がない。

弘前市の「ワークスペース・シフト(SHIFT)」

カフェスタイルの「HIROSAKI ORANDO(弘前オランド)」

 今回は観光ではなく仕事がメインということもあり、コワーキングスペースでも効率が落ちないよう荷物も仕事用の道具をできるだけ持ち込んだこともあって、普段、自宅で作業するのとさほど効率の変わらない作業を実現できた。

 具体的にはUSB-Cで接続するモバイルディスプレイに加えて、PCのディスプレイを目の前の高さにできる折りたたみ型のPCスタンドを持参。スタンドに置くとPCのキーボードが直接入力しにくいこともあり、キータッチが好みなBluetoothキーボードとマウスを併用することで、Web会議など2画面が便利なシーンでも普段通りの業務が可能だった。

モバイルディスプレイで自宅の作業環境を再現。コワーキングスペースにディスプレイがある場合はそれも活用

 モバイルバッテリーも重要な存在だ。コワーキングスペースなど電源が確保できる場所ならいいが、移動の合間に入ったカフェなどで電源が確保できない場合も想定されるため、26800mAhの大容量バッテリーを携帯。45W出力でPCにも給電できるため日中はほぼ電源に困らず、宿で充電すればほぼ無制限。コンセントを持ち歩く感覚での移動が可能だった。

PCも充電できる大容量モバイルバッテリー

 電源周りでは細かいながら2口のコンセントと、コンセントの延長ケーブルも地味に役に立つ。新幹線やカフェなどで電源が1口しかない場合、他の人が使っている場合でも2口コンセントがあれば共有できる。また、電源はあるがアダプターが大きすぎて挿すことができない、という心配も、延長ケーブルがあれば不要だ。カフェなどのコンセントでアダプターが挿さらない、という経験を何度もしているだけに、あまり出番はないが持っていると心強い存在だ。

いざというときに活躍する2口のコンセントとコンセントの延長ケーブル

 こうした備品を携行したことで、作業環境については自宅にいるときとほぼ変わらない環境を再現できた。また、普段から筆者はWeb会議でバーチャル背景を利用しているため、ワーケーション中でもバーチャル背景を使えば相手が見る自分の映像もいつもと全く変わらない。

 荷物が多ければ多いほど荷物は重くなるものの、きちんとした装備があれば移動先でも普段と変わらない作業効率が実現できる。理屈では分かってはいたものの、5日間に渡るワーケーション期間でも普段と変わらない感覚で作業できたのは収穫だった。

「気分転換しながら作業効率も落とさない」ワーケーションの魅力

 コロナ禍の影響で、リモートワークという働き方は一定の認知を得て定着しつつある。一方、「オフィスと離れた場所で仕事する」という点ではワーケーションも同じではあるものの、長時間の移動が必要なうえ、平日にどこかへ出かける、ということが後ろめたかったり、常にレスポンスが必要とされる業務では、ワーケーションはリモートワークほど簡単にはできないかもしれない。

 しかし、実際に平日全てワーケーションで過ごしてみた筆者としては、ちょっとした旅行感覚で普段とは違う生活を楽しめる気分転換に加えて、事前に準備をしておけば作業効率もそこまで落とさず、旅行と仕事が両立できるという手応えを感じた。

 旅行中にまで仕事をするのはワーカホリックと言われるかもしれないが、旅行中に一切仕事をしないで済むよう完璧に準備するのはとても大変だ。それであれば、旅行中も多少仕事をする時間を用意しておき、残った時間で旅行を楽しむ、というスタイルのほうが個人的には性に合うし、完全にオフにするよりも仕事の効率も高められるのではないだろうか。

帰路に就く土曜日だけ、近くにある弘前城を観光

 また、今回は旅行というよりもただ移動しているだけの時間が多く、観光などの時間はほとんど取ることができなかったが、それでも気分転換という点でメリットは大きかった。人によるとは思うが、筆者のように環境が変わったり、適度な締め切りが設けられているほうが仕事が進むタイプは、ワーケーションも相性がいいように思う。

 最近では地方でも駅周辺にコワーキングスペースが見つかることも多いし、無料のWi-Fiスポットも充実している。今回の旅を経て、声を出す必要のあるWeb会議だけはある程度スケジュールを考えておく必要があるものの、パソコン1台あればどこでも仕事ができる環境になった、と改めて実感した。

 もちろん、筆者のように平日に旅行しながら仕事するような環境は当たり前ではなく、仕事の関係で平日は自由に動けないほうが一般的ではあるし、子どもが保育園や学校に通っている家庭では気軽にワーケーションするのも難しい。しかしながら、いつもの自宅作業から離れて気持ちをリフレッシュしつつ、業務によっては作業の効率もそこまで落とさずに済むワーケーションは、リモートワークが当たり前になりつつある今だからこそ現実味を帯びてきたように感じた旅行だった。

この連載について

ビジネスパーソンが仕事をする/できる場所が多様化しています。従来からの企業の自社オフィスやシェアオフィス/コワーキングスペースはもとより、コロナ禍で広まった在宅勤務(Work From Home)、ホテルやカラオケボックスのテレワークプラン、さらにはお寺や銭湯まで(!?)。連載「甲斐祐樹の Work From ____」では、そうしたざまざまな「Work From ○○」の事例や、実際にそこで仕事をしている人・企業の取り組みなどを、フリーランスライター・甲斐祐樹がレポートします。