先月25日に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の展開作業が8日、完了した。この史上最大の宇宙望遠鏡は、宇宙をめぐるあらゆる分野の研究に変革をもたらすツールとなることが期待されている。
ウェッブ宇宙望遠鏡は、折りたたまれた状態で2021年12月25日に打ち上げられた。その後2週間にわたり展開作業が進められ、今月5日にはテニスコート大のサンシールド(日除け)が展開された。8日に全長6.5メートルの黄金の主鏡が凹型に組み立てられ、焦点合わせの準備が整った。
一連の展開作業は滞りなく終了した。
ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測は、宇宙開発の歴史に残る業績になると期待されている。
メリーランド州ボルティモアにある宇宙望遠鏡科学研究所の管制官たちは、主鏡の2つの「翼」を90度回転させ、再配置作業を完了させた。
ウェッブ宇宙望遠鏡からの送信データによって、2枚目のサイドパネルが所定の位置に固定されたことがグリニッジ標準時(GMT)8日午後6時16分に確認された。
「我々はJWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)観測所の配備を完了した」と、宇宙望遠鏡科学研究所のミッション・オペレーション・マネージャーのカール・スター氏は発表した。
「本当に素晴らしい2週間だった」と、NASAウェッブ宇宙望遠鏡プログラム・マネージャーのビル・オックス氏は付け加えた。「数千人がJWSTにかかわることで、ここまでたどりつけた。このチームと関われて光栄だし、身の引き締まる思いだ。そのことをこれから毎日、みなさんに伝えていく」。
NASAのトーマス・ザーブチェン科学局長は管制官たちに、「我々は軌道上に宇宙望遠鏡を配備した。世界が今まで見たこともないような、素晴らしい宇宙望遠鏡を。皆さん、歴史に名を残した気分はいかがでしょうか?」と語った。
100倍の観測能力
ウェッブ宇宙望遠鏡は、これまで外宇宙を観測してきたハッブル宇宙望遠鏡の後継機。アメリカや欧州、カナダの宇宙当局が協力して開発し、先代と比べて100倍もの観測能力を持つという。
100億ドルをかけたウェッブ宇宙望遠鏡と、その優れた反射鏡を用いて、135億年以上前のビッグバンからわずか数億年後に起きた出来事を観測するのが狙い。
科学者たちは宇宙で最初に輝き出した「ファースト・スター(初代星)」を観測したいと考えている。
また、この望遠鏡の大きな「目」で地球から遠い惑星の大気を計測し、生命が暮らせる環境があるのかも調査する。
NASAのウェッブ宇宙望遠鏡開発チームを率いるリー・ファインバーグ氏は、「ウェッブ宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像に慣れている人さえ圧倒させる可能性を秘めている」と語った。
「ウェッブ宇宙望遠鏡は非常に高性能なので、どこを観察しても、ほとんどの場所で大きな意味で新境地を開拓することになる」と、ファインバーグ氏はBBCニュースに述べた。
今後の作業
ウェッブ宇宙望遠鏡を使って宇宙の観測ができるようになるには、まだ多くの作業が残っている。まずは望遠鏡自体を非常に冷たい状態にする必要がある。
この望遠鏡は赤外線を使って最初の銀河が生まれた遠方宇宙や最初の星を観測するが、望遠鏡自体が発する熱エネルギーで微弱信号が捉えにくくなる。
「我々が見たい、まさにそのものを消してしまうことになる。(遠方宇宙の観測は)燃える乾草の束の前で、火のついたマッチを探すようなものなので」と、ウェッブ宇宙望遠鏡の主任研究員の1人であるジリアン・ライト氏は語った。
そこで、巨大サンシールドで太陽光を遮り、望遠鏡を摂氏マイナス230度以下まで冷却する。
それだけの極寒状況でなければ、望遠鏡に搭載されている4つの科学機器は観測に必要な感度を得られない。
エンジニアたちは今後、機能や性能を確認していく。主鏡を構成する18枚の六角形セグメントすべてを調整し、1枚板の反射面として動作するようにしなくてはならない。
各セグメントの背面にはモーターがあり、上下に動かしたり横に倒したり、回転させたり、わずかに曲げて適切な歪曲を加えることができる。
こうした準備作業は今後5カ月ほどで完了する予定で、望遠鏡が撮影した画像が一般公開されるのは、早くて6月末になる見通し。
「ウェッブ宇宙望遠鏡は工学技術的に素晴らしいものだが、同時に美しさも兼ね備えている」と、NASAのファインバーグ氏は述べた。
「人がこの望遠鏡に近づいた時の、その表情を見るのが好きだった。人類がこれを作り出したのだという畏敬(いけい)の念が感じられて。大きさ、スケール、そして金メッキ。本当に気持ちを盛り上げてくれる」と、ファインバーグ氏はBBCニュースに述べた。
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