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Pivot Bioは肥料を作るが、直接作り上げるのではない。同社によって改良した微生物が土壌に添加され、窒素を生成する。本来ならトラックで運ばれてそこに投棄されるような土壌が有益性を持つことになる。バイオテックを利用したこのアプローチは、農家の費用と時間を節減し、最終的には環境への負担の軽減にもつながり得る。この巨大な機会に投資家たちは、同社の最新の資金調達ラウンドを通じて4億3000万ドル(約473億6000万円)を投入した。

窒素は作物が生育するために必要な栄養素の1つである。農家が今日のペースの成長を維持するには、肥料を土に撒いて混合することが不可欠だ。しかしある側面において、何世代も前に先人たちが行っていたことが今でも続けられている。

「肥料は農業を変革し、前世紀において多大な成果を生み出しました。しかし、肥料は作物に栄養を与える完璧な方法とはいえません」とPivot BioのCEO兼共同創業者であるKarsten Temme(カルステン・テンメ)氏は語る。同氏は、何千エーカー、まして1万エーカーをも超える農地に肥料を散布することは、大量の人員、重機、貴重な時間を必要とする、機械的かつ物流上の大きな課題を含んでいるという単純な事実を指摘した。

いうまでもなく、大雨によって大量の肥料が吸収・利用される前に失われてしまうリスクや、肥料を施す過程で発生する温室効果ガスの多大な影響も懸念される(微生物学的アプローチは環境に対して相当に優れているようだ)。

もっとも、このアプローチを採用する根本的な意図は、土壌中に生息し、自然に窒素を産出する微生物の働きを模倣することにある。植物とこれらの微生物は何百万年も前から相互に関係しているが、単純に、小さな微生物では十分な産出に至らない。Pivot Bioが10年以上前にスタートしたときの洞察は、いくつかの微調整によりこの自然の窒素循環を強化できるというものだった。

「微生物に取り組むべき道があることを、私たちは確信していました」とテンメ氏は語っている。「元々根系の一部として存在する微生物に、肥料を感知するとエネルギーを蓄えるために窒素を生成しないというフィードバックループがあることを知っていました。その微生物に含まれる、窒素を生成する遺伝子の能力が、休眠状態になっていたのです。私たちが唯一行ったことは、それを覚醒させる作業でした」。

IndigoやAgBiomeのような、農業に特化した他のバイオテクノロジー企業も、植物の「マイクロバイオーム」、つまり特定の植物の近くに生息する生命体の改変や管理に着目している。改変されたマイクロバイオームは、有害生物に対して耐性を発揮したり、病害を減少させるなど、さまざまな利点をもたらし得る。

画像クレジット:Pivot Bio

これは、生きた発酵剤としての働きが広く利用されている、おなじみのイースト菌のようなものだ。イースト菌は、砂糖を消費し、ガスを発生させるように培養された微生物で、発生したガスの作用で生地の中に空気のポケットが作られる。同社が手がける微生物も同じように、植物から分泌される糖を継続的に消費し、窒素を排出するという作用により直接的に関わる改変が加えられている。そして土壌に固形肥料を加える必要性を大幅に減らす速度で、それを行うことができる。

「従来使われてきた何トンもの物理的な素材を、パン職人が使うイースト菌のように手になじむ粉末に圧縮したのです」とテンメ氏はいう(厳密には、この製品は液体として使われる)。「農家の経営が一気に楽なものへと変わっていくでしょう。トラクターに乗って肥料を畑に撒く時間から解放されます。種を植えるときに私たちの製品を加えればいいのです。そして、春に豪雨が襲っても、すべてを洗い流さないという確信を得ることができます。世界的な視点で言えば、肥料の約半分は流されてしまうのですが、微生物ならその心配はありません」。

そうした状況でも、微生物は土の中に静かに潜み、1エーカー(約4047平方メートル)あたり最大40ポンド(約453.6グラム)の割合で窒素を排出する。これは非常に古めかしい測定方法ではあるものの(1平方センチメートルあたりのグラム数でもよいのではと思う)、農業に時折見られる時代錯誤的な傾向に沿うものではあるかもしれない。作物や環境によっては、肥料を一切使わなくても十分な場合もあれば、半分以下という場合もある。

微生物によってもたらされるその割合がどのようなものであっても、同社の製品を採用することが魅力的なものであるのは確かなようだ。Pivot Bioは2021年に収益を3倍にしているからだ。なぜ2021年の半ばに過ぎないのにこれほど確実な結果が得られるのか不思議に思うかもしれないが、同社は現在、北半球の農家にしか販売しておらず、この製品は作付け時期の早い時期に適用されているため、2021年の売上はすでに終了していることになる。2020年の売上の3倍になることが確実視されている。

作物が収穫されると微生物は死滅するので、生態系への恒久的な変化とはならない。そして来年、農家がさらに多くのものを求めてきたときには、微生物はさらに改良されているかもしれない。窒素生成のために遺伝子のスイッチを切り替えるということにとどまらず、糖から窒素への酵素的経路の改善、微生物が休止状態からプロセスを開始すると決定するしきい値の調整も可能である。最新製品であるProven 40は前述のような生産性を備えているが、さらなる改良が計画されており、戦術変更に手間をかける価値があるかどうか決めかねている潜在顧客を引き付けることを同社は目指している。

経常収益と成長のポテンシャル(同社の現在の推定によると、総市場2000億ドル[約22兆円]の約4分の1に対応可能だという)は、DCVCとTemasekが主導した今回の巨大なDラウンドにつながった。同社のプレスリリースには、間違いなく極めて慎重に検討された秩序で、その他に存在する十数社の投資家の名前も記されている。

テンメ氏は、今回の資金をプラットフォームの深化と拡大、また同社の製品を試して魅力を感じているように思われる農家との関係強化に充てる予定だと述べている。同社の微生物は今のところ、トウモロコシ、小麦、米に特化されたものだ。もちろんこれらは多くの農業分野をカバーしているが、合理化され、強化された窒素循環の恩恵を受ける産業分野は他にもたくさん存在する。そしてそのことは、テンメ氏と共同創業者であるAlvin Tamsir(アルビン・タムシール)氏が15年前に大学院で抱いていたビジョンの強力な裏付けとなることは間違いないと同氏は話す。その発言には、同じようなポジションに今いる、そうしたことに価値があるのだろうかと考えている人たちに向けて、同社の実証が糧となって欲しいという願いが込められているようだ。

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画像クレジット:Pivot Bio

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)