漫画やアニメなどで見かけることのある、「汝」という漢字の意味を知っていますか? 「汝」は、今では「お前」などの、自分より下の立場の相手に使われていますが、かつては神の名につけられていたとされています。ここでは、「汝」の使い方や類語について紹介していきます。
【目次】
・「汝」とは?
・「汝」のことわざ・名言をチェック
・「汝」の類語には、どのようなものがある?
・最後に
「汝」とは?
皆さんは、「汝」という漢字の意味はご存知ですか? 現代ではあまり馴染みのない言葉でもありますよね。日常会話より、文学や漫画・アニメなどで使われることが多い言葉です。まずは、基本的な言葉の意味や由来を解説します。
「汝」の読み方には複数ある
「汝」という漢字の読み方は複数あります。主に、「なんじ」「いまし」「うぬ」「しゃ」「じょ」などが挙げられます。
「汝」の意味
「汝」を辞書で調べてみると、「二人称の人代名詞、相手を卑しめていう語、おまえ」という意味になります。
「なんじ」は、(なむちの音変化)二人称の人代名詞。対等または、それ以下の人に用いられる。「汝」の訓読み。
「いまし」は、親しみの気持ちで相手をさす語で、「そなた、おまえ」の意味。「汝」の訓読み。
「うぬ」は、相手をののしっていう語。「おの」の音変化ともいい、意味は「きさま」。
「しゃ」は、相手を卑しめていう語。「きさま、おまえ」。
「じょ」は、二人称の人代名詞。「なんじ」。「汝」の音読み。
「汝」の由来
「汝(なんじ)」は、元々「汝貴(なむち)」という言葉でした。「な」は、目下の人や親しい人に向けた二人称代名詞。「むち」は、「尊い者」の意味で、古くは神の名につけられていました。読み方は、「なむち」から「なむぢ」、そして「なんじ」と変化したとされています。
当初は尊敬の意味を含んでいたと考えられますが、のちに対等か、それ以下の立場の人に対して使われるようになりました。
「汝」という漢字は、「水」を表す「氵(さんずい)」と、「女」で成り立ちます。古くは、中国の河南省の嵩県(すうけん)から淮水(わいすい)に流れる、「汝水(じょすい)」という川の名前だったといわれています。
「汝」のことわざ・名言をチェック
「汝」という漢字の意味や成り立ちは理解できましたか? 次は「汝」と使う、ことわざや名言を紹介します。
1:「汝の隣人を愛せよ」
『新約聖書 マタイ伝』に見られる、“イエス・キリスト”の言葉です。「あなた自身と同じように、あなたの隣にいる人のことも愛しなさい」という意味合いの込められた言葉です。英語では、「Love your neighbor as yourself」といいます。
2:「汝の隣人を愛せよ、されど垣根を取り除くなかれ」
ヨーロッパのことわざです。「周囲の人を愛し大切にすることと同時に、礼儀を重んじなければいけない。なれなれしくなりすぎて、不和を招かないように気をつけなさい」という意味のある言葉です。人付き合いのコツを示したことわざですね。英語では、「Love your neighbor, yet pull not down your fence」といいます。
3:「汝自身を知れ」
「自分が無知であることを自覚せよ」という意味の言葉。ギリシャのアポロン神殿の柱に刻まれていた言葉であるといわれています。元々は「自分の分をわきまえよ」という、処世の格言として解釈されていました。しかし、のちに古代ギリシアの哲学者“ソクラテス”が、「自分の無知を自覚し、魂を育成することが大切だ」と解釈したといわれています。「汝自らを知れ」ともいいます。
4:「艱難汝を玉にす」
「艱難汝を玉にす」は、<かんなんなんじをたまにす>と読みます。「人は困難に直面し、苦しみ悩みながら克服していくことで、立派な人間になっていく」という意味のことわざです。
「艱難」は、「困難、難儀」という意味。苦労をしている人や、目標に向かって頑張っている人などを元気付けたり、励ましたりする時に使います。西洋のことわざである、「逆境は人をかしこくする」を意訳したものとされています。
例文:「確かに今は苦労をしているけれど、艱難汝を玉にすとも言うよ。もう少し頑張ってみたらどうかな?」
5:「汝の敵を愛せよ」
『新約聖書 マタイ伝』に出てくる、“イエス・キリスト”の言葉です。「神が神に敵する者までも愛するように、あなたも敵となる人のことを愛しなさい」という意味です。自分に対して悪意を抱いている相手や、迫害してくるような人にこそ、慈愛の心を持って接しなさいと説いています。英語では、「Love your enemies」といいます。
例文:「相手を憎み続けることはよくない、汝の敵を愛せよという言葉があるだろう」
「汝」の類語には、どのようなものがある?
「汝」の類語には、どのようなものがあるのでしょうか? 似た意味を持つ言葉を3つ紹介します。
1:あなた
「あなた」は、対等な立場の人や目上の方に用いる三人称。より丁寧な表現では、「あちらのかた」「あのかた」ともいいます。また、妻が夫に対して、軽い敬称や親しみをこめて言う時にも使われます。
例文:「あなた、今日のお帰りは何時ですか?」
また、二つ目の意味として、「向こう」「あちら」など、離れた場所や方向をさす時にも用いられます。
例文:「山のあなたの空高くに太陽が見えた」
2:貴様
「貴様(きさま)」は、「おまえ」という意味の二人称。主に男性が親しい対等の立場の人や、目下の相手に対して使う言葉です。また、相手を罵る時などに使われます。強い意味のある言葉なので、実際に会話の中で使うことは少ないでしょう。現代では、アニメや漫画に使われることが多いですよね。
例文:「貴様の顔なんか二度と見たくない」「貴様などに負けるものか」
3:お宅
「お宅(おたく)」は、「あなた、あなたの所」を指す言葉です。また、相手の家の敬称としても使われることがあります。主に目上の方や、対等な立場の相手などに用いる表現です。
例文:「先生のお宅にうかがう」「お宅は子供が多いから、きっと賑やかでしょうね」
また、「お宅はどちらへお勤めですか?」など、相手の夫を敬っていう場合や、「お宅の景気はどうですか?」など、相手の勤めている会社や団体などの敬称としても用いられます。
最後に
今回は、「汝」の意味や由来、有名なことわざや類語を解説しました。「汝」は、今では「お前」など、自分より下の立場の相手に使われる言葉。しかし、漢字の成り立ちを振り返ると、かつては「なむち」と呼ばれ、神様の名前にもつながりがあったとされていることには驚きましたね。この機会に、日本語の語彙力アップや歴史に関する豆知識のひとつとして、覚えてみてはいかがでしょうか?
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