8月中旬、北方領土の国後島から、約20キロ離れた対岸の北海道標津町に渡ってきたロシア人男性。海を泳いできたとされ、北海道警標津署に保護された後、札幌出入国在留管理局(札幌市)に収容された。現在は難民認定を申請し、ロシア以外の国で暮らすことを求めている。男性がこのほど朝日新聞の取材に応じ、海を渡った理由や方法を明かした。ウェットスーツを着てシャチにおびえながら泳いできたといい、島を出た動機について「プーチン政権はもう嫌だ。全体主義の傾向が強まるロシアから逃れたかった」と説明した。
23時間かけ根室海峡を越える
男性は、ロシア西部ウドムルド共和国イジェフスク出身のバース=フェニクス・ノカルド氏(38)。今月8、9日、朝日新聞記者の取材に応じた。
札幌出入国在留管理局の面会室でガラス越しに会ったノカルド氏は、眼鏡をかけ、黒いTシャツに青い服を羽織っていた。上陸してから20日以上を管理局で過ごしているが、体調は悪くない様子だった。
ノカルド氏によると、8月18日午前5時ごろ、国後島の最南端からウェットスーツを着用して根室海峡に泳ぎ出した。荷物などはドライバッグに入れ、着替えは持っていた。
「太平洋に向かう潮の流れの中、水は冷たく、寒かった」。夜になると何も見えなくなり、雨も降った。「シャチも怖かった。母親のことを思い浮かべ、もう会えなくなるのか、と思った」
19日午前4時ごろ、約24キロ離れた対岸の北海道標津町にたどり着いた。約23時間もの間、泳ぎ続けていたことになる。
岸に上がり、疲れ果てていたのでしばらく休んだ後、着替えて歩き出した。「何か食べたり、飲んだりしたくて、コンビニに買いに行った」。その後、北海道警中標津署に保護され、札幌出入国在留管理局へ移された。
なぜ国後島を離れたのか。ノカルド氏は、プーチン大統領の長期政権が続くロシアから逃れたかったとし、「国外に出るのに必要な国際パスポートを盗まれたため、こうして日本に向かうしか選択肢がなかった」という。
在札幌ロシア総領事館からは3回ほど面会の申し出があったが、「すべて断った。何を話したいのかわからない」と語った。
ノカルド氏は国後島に来る前…