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Netflixで全世界同時配信がスタートした映画『浅草キッド』。本作は、劇団ひとりさんが学生時代に感銘を受けたというビートたけしの同名自叙伝を基に映像化したもので、下積み時代からやがて才能を開花させていくビートたけし役を柳楽優弥さん、そのたけしに芸を教えた浅草の伝説の芸人・深見千三郎を大泉洋さんが務め、豪華なW主演で話題を集めている。劇場からテレビへと主戦場を移行していった時代の芸人たちの悲喜こもごもを描いたこの作品。その魅力を3人にたっぷりと語ってもらった。

 

大泉洋●おおいずみ・よう…1973年4月3日生まれ。北海道出身。B型。大学時代に演劇ユニットTEAM NACSを結成。2004年に東京に進出し、人気が全国区に。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演。主な代表作に映画『探偵はBARにいる』シリーズ、『騙し絵の牙』、大河ドラマ『真田丸』など。
柳楽優弥●やぎら・ゆうや…1990年3月26日生まれ。東京都出身。A型。2004年、是枝裕和監督作品『誰も知らない』で主演を務め、デビュー。現在、主演ドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』(TBS系)が放送中。主な代表作に映画『太陽の子』『HOKUSAI』『ターコイズの空の下で』など。
劇団ひとり●げきだん・ひとり…1977年2月2日生まれ。千葉県出身。A型。お笑い芸人、俳優、作家、映画監督とマルチに活躍。レギュラー番組に『ゴッドタン〜The God Tongue 神の舌〜』『たけしのその時カメラは回っていた』『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』など。

 

【大泉洋&柳楽優弥&劇団ひとり撮りおろしカット】








 

物まねにならないことを意識して撮影へ

 

──最初に、今回ビートたけしさんの自叙伝『浅草キッド』を映画化しようと思われた経緯から教えていただけますか?

 

ひとり 経緯なんてものはなく、シンプルに僕が映画化したかったからです。それに尽きます(笑)。中学生の時に初めて原作を読んで衝撃を受けたんですよね。だからといって、僕が撮る理由なんて1つもないですし、今このタイミングで映画化する理由だってないんです。でも、どうしても自分で映画にしたかったし、他の方に先に撮られたら悔やんでも悔やみきれないだろうなと思って、それで7年前から少しずつ動き始めていました。

 

大泉 オファーがあった時は、「これはぜひ!」と思いましたよ。僕は子供の頃からお笑い番組ばかりを見て育ってきましたからね。今回の物語の舞台になっているのが1970年代後半くらいで、それこそ、その後の漫才ブームや『オレたちひょうきん族』などでたけしさんの芸をずっと見てましたから。……ひとりさんは僕よりも少しだけ年下なんだっけ?

 

ひとり 僕は今年44です。

 

大泉 そうだよね。僕が48だから、ほんの少しだけ僕はひとりさんより早く当時のお笑いを見ていたことになるんだけど、あの頃って、テレビにいろんなお笑い芸人さんが登場してきた本当に面白い時代なんです。今作はその前日譚的な物語ですから、なんとしてでも出演したいとマネージャーに伝えたのを覚えています。

 

柳楽 僕はさすがにリアルタイムでは見ていないんですが、昔の浅草の映像や資料を見るたびに、好きな世界観だなって思ってました。街並みもそうですが、服装や髪形がオシャレで。それに、この作品で描かれているのは師弟愛で。僕には大泉さんが演じた深見(千三郎)師匠のような方がいないので、うらやましさや憧れを感じました。深見さんって、言葉遣いがとにかくキツいんです(笑)。でも、そこには強い愛情が感じられる。それがすごくかっこいいなって。

 

ひとり 当時の芸人さんたちって、本当にかっこいいんですよね。ただ、大泉さんがおっしゃったように、この映画の頃は少しずつテレビが主体になっていき、逆に浅草の活気が薄れていった時代でもある。僕らが思い浮かべる昭和の華やかな浅草のイメージとはちょっとずれていて。実は、7年前に大泉さん主演で映画『青天の霹靂』を撮って、それも同じ時代の浅草が舞台でしたけど、高田文夫先生から「おまえは70年代後半の浅草をちょっと華やかに描きすぎだ」と言われたことがあったんです。ですから、今回は過度に派手さを出す演出は控えるようにしましたね。

 

 

──たけしさんはもちろん、東八郎さんや萩本欽一さんにも大きな影響を与えた深見師匠など、この作品には伝説の芸人が数多く登場します。こうした方々を描くにあたって苦労されたことはありましたか?

 

大泉 深見さんはほとんど資料が残っていないんです。その意味では、どこか開き直って監督と一緒に考えていける自由さがありましたね。

 

ひとり そうですね。写真を見ると深見師匠は強面なので、大泉さんには似ていないんです。でも、だからこそ大泉さんが作り出す深見師匠ってどんな人物になるんだろうという興味が僕の中にもありました。

 

大泉 大変だったのは間違いなく柳楽くんですよ。今も第一線で活躍されている芸人、それも世界のたけしさんを演じるわけですから。僕ら役者からするとゾッとする難しさなんですよね。何よりも怖いのが、観た人に「柳楽くんのたけしさんの物まねはきつかったね」って言われることだと思うんです。そのつもりはなくても、物まねとして印象に残ってしまうことほど、役者にとって辛いものはないですから。

 

柳楽 実際に“物まねにならないように”というのは強く意識しました。松村邦洋さんにお願いをして、たけしさんの喋り方や癖などを教えてもらっていたんですが……。

 

ひとり でも、撮影直前になって「やっぱり、それは忘れてくれ」って僕からお願いをして(笑)。

 

柳楽 ビックリしました(笑)。ただ、僕としても最初から“たけしさんを演じるんだ”ということをあえて考えないようにしていたんです。現場ではとにかく劇団監督の演出に誠意を持って応えていくということだけを心がけていたので、撮影中にプレッシャーを感じることもほとんどなかったです。むしろ、撮り終わってからのほうが、“どんな印象をもたれるんだろう”とドキドキしていましたね(笑)。

 

 

ひとり監督のよくわからない演出で相当揉めました(笑)

 

──映画の中ではたけしさんや深見師匠が芸を披露するシーンも登場しますが、それがとてもリアルで、映画だということを忘れるぐらい見入ってしまいました。

 

大泉 深見さんの資料がほとんどないというお話をしましたが、わずかに残っていたのがコントをしている音声だったんです。その時の喋り方がたけしさんそっくりなんですよね。もちろん、たけしさんがそれだけ影響を受けたということですが、それもあって、コントのシーンは僕が子供の頃に見ていたたけしさんのコントをイメージしながら演じたところもありますね。

 

柳楽 僕は漫才の掛け合いが大変でした。ツービートって会話のテンポがすごく速いんです。でもそこは、ビートきよしさんを演じてくださったナイツの土屋(伸之)さんがいろんなアイデアを出してくださって、すごく助けていただきました。

 

ひとり お2人はタップダンスも大変だったと思いますよ。吹き替えなしで実際にやってもらいたかったので、忙しいなか、練習のためにスケジュールを割いてくださって。

 

──見事な動きでしたが、やはり苦労されたんでしょうか?

 

大泉・柳楽 …………(沈黙)。

 

柳楽 簡単に言葉に出せないくらい大変でしたね(笑)。

 

大泉 (笑)。2人とも違った大変さがありましたよね。柳楽くんはタップのシーンが長かったので、相当練習が必要だったでしょうし、僕は僕で、深見師匠がたけしさんにタップの芸を伝えていくというのは、この映画の大事な要素でもあるので、師匠っぽい熟練した動きを見せないといけませんでしたから。にもかかわらずですよ、驚くことに撮影後の映像チェックを見たら、僕の足元が映ってないことがあったんですよ!(笑)

 

全員 はははははは!

 

大泉 タップを踏んでるのに、映ってるのは僕の顔ばかりで。監督に問い詰めたら、「これ、僕が編み出した新しい撮影の手法なんです」とかわけの分からないことを言いだして(笑)。そこは相当揉めましたね(笑)。

 

ひとり だって、そうしたら大泉さんが実際にタップを踏んでることがバレちゃうじゃないですか。

 

大泉 いいんだよ、そこはバレたって!

 

──映画ではしっかりと足元も映っていたので、実際にタップを踏んでいるということが分かりました。

 

ひとり でしょう?

 

大泉 いやいやいや。“でしょう?”じゃないでしょ(苦笑)。

 

 

あの当時の、人としてちょっと不器用な感じも見ていてかっこいい

 

──(笑)。では少し質問を変えて、当時の芸人にはあって、今はないものって何だと思いますか?

 

大泉 そうですねぇ……時代の流れがあるから仕方がないんでしょうけど、やはり過激な笑いがなくなってきてますよね。きっと、新しい笑いの手法や手数はどんどん増えてきて、面白さも増していると思うんです。ただ、規制が入り、表現できることが減ってきた。そこは少し残念に思いますね。だって、それこそたけしさんがやっていた『(ビートたけしの)お笑いウルトラクイズ』のような、死ぬほど腹を抱えて笑っていたものが、今はもう見れなくなってしまいましたから。

 

柳楽 時代の移り変わりと言ってしまえばそれまでですけど、確かに残念ですよね。でも一方で、今回の映画がNetflixでいきなり世界中に配信されるように、作品を発表する場所や環境は時代によってどんどん変わってきていますし、それに伴って表現できることも変化していくと思うんです。そうした移り変わりが、まさに劇場からテレビの時代に移っていった当時の浅草に重なって見えて。そうやって、時代や文化は回りながら変化していくんだなと思うと面白いですよね。

 

ひとり それと、なんといっても当時の芸人さんって、とんでもない人がたくさんいたと思うんです。深見師匠もそうだし、そのイズムを引き継いだたけしさんもそうで。しかも、それぞれに美学がある。“芸人はこうじゃないといけない”“こういう笑いの取り方をしなくちゃいけない”っていう美学が。その美学は薄れてきてるように感じます。僕も含めてですけど。

 

柳楽 トレイラーでも使われていましたけど、深見師匠がたけしさんに言う、「笑われるんじゃねえぞ! 笑わせるんだよ」という言葉はかっこいいですよね。すごく印象深いシーンです。

 

ひとり そうしたこだわりを持っている人たちって、もしかしたら生き方としては下手なのかもしれない。でも、自分の美学に反することは絶対にしないっていう姿に僕はしびれるんです。

 

大泉 あの当時の、人としてちょっと不器用な感じも見ていてかっこいいなぁって思いますしね。

 

ひとり そうなんです。実はそこもこだわったところで。不器用ならではの色っぽさってあるじゃないですか。あの頃の芸人さんのそうした部分が大好きで。例えば、後半の深見師匠とタケシのタクシーの別れ際の会話とかたまんないんです(笑)。正直、僕はああいった不器用なやりとりがしたくてこの世界に入ったと言ってもいいぐらいで。僕はお笑いももちろん好きですが、お笑い芸人も大好きなんです。そうした僕の愛がこの映画には詰まっているんです。

 

──なるほど。ちなみに、皆さんとって深見師匠のような、“今の自分を作った”と思える方っていらっしゃいますか?

 

柳楽 師匠とは少し違うかもしれませんが、初めて舞台に立つ機会を与えてくださった演出家の蜷川幸雄さんです。それまで映像作品にしか出たことがなかったんですが、舞台での演技の仕方をイチから厳しく教えてくださって。より演技の楽しさと厳しさを知ることができたので、本当に感謝しています。

 

大泉 僕にも師匠みたいな人は基本的にいないんですが、強いてあげるなら、柳楽くんと同じで舞台関係の方ですね。僕は大学時代に演劇と出会い、TEAM NACSとして活動しつつ、地元の「劇団イナダ組」という社会人劇団の舞台にも出させてもらっていたんです。そこの代表の稲田博さんには舞台の立ち方を教えていただきました。ただ、深見師匠のようにとってもダメなおじさんで(笑)。僕らの公演を観に来て、いかにも師匠っぽくアンケートに一行だけ書いてくださったことがあるんです。《役者の汗が足りない》って。でも、よく見ると“汗”が“汁”になっていたりして(笑)。

 

全員 はははははは!

 

大泉 そんな男なんです(笑)。でも、本当に多くのことを学びましたね。

 

ひとり 僕は『ゴッドタン』という番組で出会った演出の佐久間宣行さんですね。師匠というより、感覚的にはお兄ちゃんなんですけど(笑)。それまでも僕はいろんなバラエティ番組に出させてもらってましたが、佐久間さんは全く違う番組の作り方をされていて、それまで自分が一度も開けたことがないような引き出しをたくさん開けてくださいました。時には、いくら引き出しを開けても空っぽというパターンもありましたけど(笑)、あの番組に出会っていなければ、きっと今とは芸風も随分違ったんじゃないかなって思うので、すごく感謝していますね。

 

──では最後に、GetNavi webということで、最近購入したお気に入りのアイテムを教えていただけますか?

 

大泉 お、これはタイムリーな質問ですね! いいのがありますよ。実際には僕ではなく妻が買ったものなんですが、ピストル型のマッサージ機が我が家にありまして。これが本当に素晴らしい! アタッチメントの種類もたくさんあって、どれもすごく気持ちいいんです。今、大河ドラマ(『鎌倉殿の13人』)を撮っているんですが、時代劇なので板の間に裸足で座ることが多く、足がすごく痛くて。いつも現場に持っていっては休憩時間にマッサージしています。もう、ほとんど僕が一人で使っちゃってるんですけど、「これは本当にいい買い物だ!」と毎日妻を讃えています(笑)。

 

ひとり 僕はJINSが出している「JINS MEME」という眼鏡を最近購入しました。瞬きの回数や頭の傾き具合とかを計測して、自分がどれだけ物事に集中しているかをデータで可視化する眼鏡なんです。

 

大泉 へぇ〜、そんなのがあるの!? 結果はどうだったの?

 

ひとり 驚くほど集中してなかったです(笑)。まぁ、集中しているかどうかぐらいは自分で判断しろって話なんですけどね(笑)。柳楽くんは何か買った?

 

柳楽 エプソムソルトっていう入浴剤をよく使ってます。ミネラルとマグネシウムを体の皮膚から摂取するような感じのもので。それを使って毎日お風呂に入ってますね。

 

【Netflix映画『浅草キッド』シーン写真】









Netflix映画『浅草キッド』

Netflixで全国独占配信中

 

出演:大泉 洋 柳楽優弥 門脇 麦 土屋伸之 鈴木保奈美
監督・脚本:劇団ひとり
原作:ビートたけし「浅草キッド」

Netflix映画「浅草キッド」公式サイト

 

(撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ
ヘアメイク/白石義人(ima.)(大泉)、佐鳥麻子(柳楽)、mi-co(MIXX JUICE)(劇団)
スタイリング/勝見宜人(Koa Hole)(大泉)、長瀬哲朗(UM)(柳楽)、星野和美(MIXX JUICE)(劇団)
衣装協力/RAINMAKER、ZUCCa(A-net Inc.))