ノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラートフ氏(60)は、ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の創設者の1人で、通算24年にわたって編集長を務めています。
プーチン政権によるメディアの抑圧が強まる中にあっても、言論の自由を守る闘いを続けてきたことが高く評価されました。
ムラートフ氏は先月11日、受賞の決定後、日本のメディアとしては初めてNHKのインタビューに応じました。
この中でムラートフ氏は「この賞は私に授与されたものではない」と述べ、まずは命を奪われた同僚6人のジャーナリストにささげられるべきだと強調しました。
そのうちの1人、アンナ・ポリトコフスカヤさんは、2006年10月7日、モスクワ市内の自宅アパートで銃で撃たれて殺害されました。
ポリトコフスカヤさんは、ロシア南部でのチェチェン紛争を巡ってプーチン政権の責任を厳しく追及していました。
ノーベル平和賞の受賞が決まる前の日で、事件から15年の節目にあたることし10月7日、モスクワ市の新聞社内にあるポリトコフスカヤさんの部屋が追悼の意味を込めて公開されました。
ムラートフ氏は、当時のまま残されているパソコンや眼鏡など、本人が使っていた物を紹介しながら「われわれは闘い続ける。ここで悲しみに暮れている時間はない」と述べ、政権への批判精神を持ち続けた信念を受け継いでいく覚悟を新たにしていました。
一方ムラートフ氏は、ロシア国内で政権側になびかない、独立したメディアや人権団体への抑圧が強まっているのは悲劇的だとしたうえで「人権と民主主義という概念は現政権にとって進歩に不要な条件となってしまった。社会の権利を保護することなくして国は発展できるはずがない。市民が議論に加わらなければ残るのは暴力だけだ」と述べ、強い危機感を表していました。
そして31年前、ソビエト崩壊の前の年にノーベル平和賞を受賞し「ノーバヤ・ガゼータ」への支援も行ってきたゴルバチョフ元大統領のことばを引用しながら「平和賞の命題とは、人権の擁護と人類の進歩、それに戦争は許されない、ということだ」と述べ、平和を維持するためにも報道や言論の自由を守り、真実を伝えていく決意を改めて強調しました。