イルカたちも「性の喜び」を知っているようです。
海中を泳ぐ優美な姿に似合わず、一部のイルカ(バンドウイルカ)は非常に活発な性行為を行います。
イルカたちの性行為は異性間だけでなく同性間でも頻繁に発生し、オス同士のカップルでは、お互いのペニスをアナルに入れたり、さらには背中の潮吹き穴(呼吸口)にもペニスを突っ込むことが知られています。
潮吹き穴は人間でいう鼻にあたる器官ですが、ホモセクシャルのイルカたちにとってはセクシーに感じられる穴のようです。
一方、メス同士のカップルは鼻先や手足のヒレ、背びれを使って互いのクリトリスを刺激し合います。
オス同士に比べると、まだ理解しやすいかもしれません。
ですがそもそもイルカのクリトリスについて、私たち人類はほぼ「無知」の状態にありました。
そこで今回、米国マウント・ホリヨーク大学(MHC)の研究者たちは、海岸に打ち上げられて死んだイルカを解剖して、クリトリスの秘密を探ることにしました。
研究内容の詳細は1月10日に『Current Biology』にて公開されています。
目次
- イルカも「性の喜び」を知るためのクリトリスを持っていた
- 発達したクリトリスは「交尾頻度」を増加させる
イルカも「性の喜び」を知るためのクリトリスを持っていた
これまでの研究でイルカたちは人間と同じように、”生殖を目的としない性行為”を行うことが知られていました。
これは一般に、個体間の絆を結ぶために行われていると考えられています。
そんな性に前向きなイルカたちですが、既存のイルカの生殖研究はペニスや子宮に集中しており、メスのクリトリス(陰核)に関してはほとんど調べられていませんでした。
イルカのクリトリスは膣の上部に配置されているため、妊娠や出産に焦点をあわせた研究では見過ごされがちだったのです。
そこでマウント・ホリヨーク大の研究者たちは、自然死したイルカ34匹からクリトリスを含む性器を採取し、詳細な分析を行うことにしました。
結果、イルカのクリトリスは人間と多くの点で類似することが判明します。
イルカのクリトリスは人間と同じように太い神経の束が集まっており、表面の皮膚は周囲と比べて3分の1の薄さしかありませんでした。
豊富な神経は敏感さと関連し、皮膚が薄ければ外部からの刺激をより強く神経に伝えられるようになります。
またクリトリスの内部には海綿体が存在し、血液の流入によって勃起できることが示されています。
勃起することで薄い皮膚が広げられ、肥大して物理的に硬くなることで刺激や振動を伝達しやすくなる効果があります。
さらにクリトリスの表面付近を調べたところ、人間と同様に接触・振動・圧力に対応して快楽を生じさせる神経網が構築されていることが判明しました。
これらの結果は、イルカたちはクリトリスを使って人間と同じような「性の喜び」を得ている可能性が高いことを示します。
加えて研究者によれば「イルカのクリトリスは非常に大きく思えた」とのこと。
実際、カップルとなる相手がいないメスイルカは、大きなクリトリスを海底の突起物にすりつける「自慰行為」を行うことが知られています。
しかしここで問題となるのは、なぜイルカたちはここまで発達したクリトリスを持つようになったかです。
クリトリスは性器の外部に位置しており、なくなったとしても、生殖能力そのものに影響を及ぼしません。
(※次ページではイルカのクリトリスの3Dスキャン映像(CG)が表示されます)
発達したクリトリスは「交尾頻度」を増加させる
なぜイルカは大きく敏感なクリトリスを獲得したのか?
この謎に対する答えを研究者たちは、交尾の頻度に求めました。
発達したクリトリスは、より大きな「性の喜び」を報酬として脳に与えることが可能になります。
そのためイルカたちは頻繁に交尾を繰り返し、種の繁栄に役立っていると考えられます。
あるいは、クリトリスは知恵をつけて賢くなった人間やイルカのような生命に、動物的な生殖行為をうながすための動機を提供しているのかもしれません。
研究者たちは今後、他の哺乳類のクリトリスを分析することで「性の喜び」が動物の行動に与える影響を調べていくとのこと。
なお本論文を発表し終えた現在、研究者たちは早速、アルパカのクリトリスを調べているようです。
もしかしたらクリトリスを通した「性の喜び」は、哺乳類全体で共通した概念なのかもしれません。
参考文献
Female dolphins have a clitoris much like humans’
“IT FUNCTIONS TO PROVIDE PLEASURE TO FEMALES.”
https://www.inverse.com/science/dolphin-clitoris
元論文
Evidence of a functional clitoris in dolphins
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(21)01544-X