ミツバチ「総員、決起せよ!」
アメリカ・カナダの最新研究により、ミツバチは、最強の天敵であるオオスズメバチに特化した「警報音」を持っていることが判明しました。
小型のスズメバチに対して発するよりも、明らかに音が鋭くて大きく、鳴りも激しいとのこと。
チームは、霊長類や鳥類が恐怖や危険を感じたときに放つ「パニックコール」に近い、と指摘しています。
ミツバチはこの警報音をきっかけに、コロニーの守りを固め、群れで応戦を開始するようです。
研究は、11月10日付けで学術誌『Royal Society Open Science』に掲載されました。
目次
- オオスズメバチの出現で、音の総量が7倍に増加
オオスズメバチの出現で、音の総量が7倍に増加
オオスズメバチは、ミツバチにとって最も凶悪な天敵です。
サイズや攻撃力に優るオオスズメバチは、頻繁にミツバチの巣を襲撃し、1匹ずつ殺して巣を乗っ取ります。
あるいは、巣を破壊してハチの子をさらい、自分たちの巣に持ち帰って子どものエサとします。
研究チームが今回の警報音を発見したのは、ベトナムの調査地で、スズメバチに対するアジアミツバチ(Apis cerana)の防御法を調べているときでした。
これまで知られていた音とは違っていたため、2013年8月から10月にかけて、3つの養蜂場にある巣箱の内外にビデオを設置し、録音を開始。
通常の活動時と、小型スズメバチ、オオスズメバチの襲撃時を撮影し、比較しました。
その結果、アジアミツバチは敵がいない状態でも、翅(はね)をブンブン鳴らしたり、胸や頭を巣箱にぶつけたりして、常に何らかの音を出していることが分かりました。(コミュニケーションの一環)
ところが、オオスズメバチが現れたときのみ、音が急激に鋭く、大きくなったのです。
こちらが、そのときの映像です。
モーターがうなるような激しい音であるのが分かります。
研究主任の一人で、ウェルズリー大学(Wellesley College・米)の生物学者、ヘザー・マッティラ(Heather Mattila)氏は、こう説明します。
「オオスズメバチが襲撃してきたとき、ミツバチの信号音は、短く不規則なパターンに変わり、周波数も急激に変化して、厳しい音になっていました。
こうした音が確認されたのは初めてであり、ミーアキャットやある種の鳥類が発するようなパニックコールに近似します」
約3万件の信号音を分析したところ、オオスズメバチが現れると、通常時に比べて、音が7倍に増えたとのことです。
「総員、決起せよ!」
さらに、この警報音は、オオスズメバチを発見した個体が最初に発し、そこからコロニー内の仲間にすばやく伝播していました。
それにより、警報音は、より大きく、より長く、より執拗なメッセージとなります。
こうして、コロニー内の働きバチが、巣箱の入り口付近に結集して防衛ラインを強め、オオスズメバチの襲撃に対抗し始めました。
まさに、「総員、決起せよ!」という感じです。
しかし、体格にも攻撃力にも劣るミツバチが、どうやってオオスズメバチに対抗するのでしょうか?
一つは、働きバチが集めてきた動物のフンを散布したり、巣箱に塗りつけることで追い払います。
ところが、オオスズメバチに巣箱への侵入を許してしまうこともあります。
その場合はどうするか。
働きバチの大群がいっせいに覆いかぶさり、翅の振動で熱を発生させ、オオスズメバチを殺すのです。
その代償として、内側にいるミツバチたちも一緒に死んでしまいます。
こちらが実際の様子です。【3分30秒あたりから。虫が苦手な方は、閲覧にご注意ください】
少し話がずれてしまいましたが、今回の研究は、ミツバチの発する信号音がいかに複雑であるかを示しています。
ミツバチは非常に賢い生き物であり、私たちは彼らのコミュニケーション能力の表面部分しか理解していません。
今後もミツバチの動向に注目が集まります。
参考文献
When Murder Hornets Attack, Bees Start Heartbreaking ‘Shrieks’ to Warn The Colony
https://www.sciencealert.com/scientists-describe-a-new-honeybee-signal-that-warns-the-colony-of-murder-hornets
Bees ‘shriek’ when attacked by giant cousins of ‘murder hornets’
https://www.livescience.com/bees-shriek-when-hornets-attack
元論文
Giant hornet (Vespa soror) attacks trigger frenetic antipredator signalling in honeybee (Apis cerana) colonies
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.211215