自民党と公明党の政権が長期化する一方で、野党の側では選挙協力や積極的/消極的な候補者調整が議論のテーマもしくは紛争の種となってきた。以下、これらをまとめて「野党共闘」と表現する。
与党の状況がどうであれ、野党共闘の成否は選挙結果を大きく左右する。しかし、政局的な争いによくあるように、この野党共闘の効果について適切な理解をもとに論じられることは少ない。そこで今回と次回では、この野党共闘の効果についてどのように確認すればよいのか、データを示しながら論じてみたい。
○勝○敗と数えるだけでは野党共闘の成果を測れない
新聞などでは、政党の選挙における何らかの戦略の成否を示すのに○勝○敗というような集計結果を示すことが多い。しかし、このような単純な集計値は、物事を適切に理解する際にかえって邪魔になることもある。
たとえば毎日新聞は、2019年参院選における野党共闘を<多弱野党、共闘限界 1人区10勝22敗、前回下回る>という見出しの記事で総括している。もちろん、勝率3割の球団を褒めたたえたりしないのと同様に、これを素晴らしい戦果だと吹聴して回る必要はない。しかし、与党が圧倒的に強いはずの農村県を中心とした1人区での結果だと踏まえて見れば、「限界」は総括とはならない。
この点について筆者はすでにブログで論じているのではしょるが、東京、神奈川など多くの複数定数区は野党が勝利した1人区よりも野党の比例代表得票率が高いため、これら複数定数区が複数の1人区だったら、あるいは衆院選だったら、これらの地域の多くで野党側が勝利していたと考えられる。自民党が歴史的に1人区で圧倒的に強いことも踏まえれば、「限界」というよりは展望が開ける勝敗と言えるのである。<野党の候補者調整の意義と課題――2019年参院選の分析から>
立憲民主党候補が勝利したのは野党共闘の効果ではなくもともと強かったから?
それでは、次のような勝敗はどうだろうか。表1は、2017年衆院選で立憲民主党の候補が出馬した選挙区について共産党候補が出馬したかどうかでグループ分けし、各党の獲得議席を確認したものである。共産党候補が出馬した選挙区で立憲民主党候補は、0勝21敗と惨憺(さんたん)たる成績である。一方、共産党候補が出馬しなかった選挙区では18勝25敗と、負け越してはいるが善戦したと言える勝敗である。
この表は、立憲民主党と共産党が選挙区を棲(す)み分ければ野党が数多くの選挙区で勝利し、両党が競合すれば自民党に全く太刀打ちできないのだと解釈できそうである。野党共闘の支持者からすると、きっと喜ばしい「証拠」だろう。
しかし、この表は純粋に野党共闘の成果を示したものとは言えない。なぜなら、この表の傾向は共産党の候補擁立戦略によって生じている部分もあるためである。
2017年衆院選で共産党は、立憲民主党が勝てそうな選挙区では積極的に自党の候補者を降ろし、大敗しそうな選挙区では自党の候補を無理に降ろさないという候補擁立戦略を採用した。したがって、共産党候補出馬区と不出馬区の立憲民主党の勝率0.0%と41.9%は、共産党候補の出馬、不出馬以前に、立憲民主党のその選挙区での強さという別の要因によって生じている部分も大きいと考えられる。
言い直すと、21の共産党候補出馬選挙区で立憲民主党候補の勝利が皆無なのは、もともと立憲民主党候補に勝つ見込みのない選挙区の集まりだからであって、共産党候補と競合したためとは言い切れず、共産党候補不出馬選挙区で立憲民主党候補の勝率が高いのは、もともと勝つ可能性が高かった選挙区が多く含まれているためであり、共産党が候補を降ろしたおかげとは言い切れないのである。
この表1は共産党候補の出馬/不出馬が立憲民主党候補の勝敗や勝率の違いを生み出したように見えたが、実際には立憲民主党のその選挙区での強さが介在して生じている部分もあると考えられる。このように観察された二つの要素の間の相関関係が、第3の要素により生み出されている場合、統計学の用語で「偽の相関関係」(あるいは疑似相関、見せかけの相関など)と表現する。また、第3の要素のことを「交絡因子」と呼ぶ。図1は、この関係を簡単に整理したものである。
新聞などのマスメディアのデータ分析では、この○勝○敗形式のような「わかりやすい」表現を好むために、偽の相関をつかんで結果的に過大/過小な、あるいは正しくない議論を展開しているようなことがよくある。ともかく表1には、立憲民主…