各企業の働き方が変わり、リモートワークが必然となったコロナ禍。この大きな変化によって、新たな仕事の悩みや不安、課題もさまざまあると耳にします。WEB業界の著名企業は、どのようにリモートワークに適応していったのでしょう?
今回は2020年11月にオフィスを廃止し、全社フルリモート体制となった株式会社CINRAのみなさんにお話を伺いました!
この記事で得られる学び
- オフィスがなくても、業務に大きな支障はなし!困りごとを解決するサービスは豊富
- フルリモートの「コミュニケーション」問題は制度やシステムを変えることが有効
- 1.「脱オフィス」で実現した、一人ひとりが輝くためのニューノーマルな働き方
- 2.登壇者紹介
- 3.セッション
- 4.質問コーナー
- 5.まとめ
1.「脱オフィス」で実現した、一人ひとりが輝くためのニューノーマルな働き方
2020年11月からオフィスを廃止し、フルリモート体制となった株式会社CINRAは、実はコロナ以前の2017年からすでに「フリー出社制度」というものを実施していました。脱オフィスを実現した今、どのような働き方が実現し、社員それぞれにどんな変化が起きたのでしょうか?
オフィス廃止遂行の担当者と、オフィスが無い現場で働くクリエイターにご登壇いただき、脱オフィスによって成し得る「より良い働き方」について考えていきます。
自分たちらしい働き方を模索し続けたCINRAが見つけたもの――その先にある「より良い働き方」とは?
2.登壇者紹介
施井 史氏
Central Office Unit ユニットリーダー
2019年9月に入社し、経営の「守り」を担当する。
フルリモート化プロジェクトの責任者を担当。
現在は、総務、労務、経理、社内人事、業務効率/改善/サポートを担っている
セントラルオフィスユニットのユニットリーダーを務める。
上野 由誠氏
アートディレクター/デザイナー
美術大学で建築を専攻したのち、デザイナーとして広告会社に入社。
約150サイトの構築・運用、デザイン制作に従事。
1年間のフリー期間を経て、2017年にCINRAにジョイン。
コーポレートブランディングや国内大手結婚式場の大規模改修案件、スポーツメーカーのプロモーションなど、
ジャンルを問わず幅広い案件のアートディレクションを担当している。
康 あん美氏
HRプランナー
2015年入社。
EC事業部のディレクターとして、商品開発、バイイング、記事コンテンツの企画・制作などを担当。
2018年7月から人事を務める。
3.セッション
「フリー出社制度」から「脱オフィス」までの道のり
――リモートワークが推奨されるコロナ禍に入る前の2017年から、既に「フリー出社制度」を導入していたとお伺いしました。どういう経緯でスタートし、どんな制度だったのでしょう。
施井 僕の入社前からの取り組みで、「社員それぞれがオーナーシップを持つことが必要」という考えから始まったと聞いています。
当時は、AIが人間の仕事を奪っていくとか、過労死や長時間労働の問題など、クリエイターの働き方が抜本的に見直された時期でした。CINRAはどうやってそれらに対応していくのか考えたときに、答えが「一人ひとりの社員がオーナーシップを持って働く」「そういう社員の集まりがCINRAである」というものでした。
CINRAは、自主性を重んじる社風は持ち合わせていました。ですが会社としては、オフィスが決まった場所にあって、何時からスタートで、そこに出社して業務を開始する、といったシステムが固定化されていたんです。そこで、自分がいつ、どこで働くのが良いのかを自分で選択しよう、ということから始まりました。
――目的は“社員の自立”だった、と。
施井 はい。ですので、2017年時点は選択肢としてオフィスで働きたい人は働いてもOKにしていました。けれども、出社しない人とはずっと顔を会わせないということではなく、週1回だけはみんなで集まっていました。
――2020年の11月にオフィスを廃止されたのはなぜ?
施井 コロナが大きなきっかけです。社会的にリモート会議を許容してもらえたことが、脱オフィスのポイントになりました。
当社はもともと場所に縛られて仕事をしたくないという考えをもっていましたが、やはり社会全体は“会うこと”が前提のビジネスでしたからね。クライアント様やパートナー様との打ち合わせは対面で、取材などはオフィスでやっていたので、どうしても自分たちだけ脱オフィスというわけにはいかない状況でした。
もう一つは、CINRA代表の杉浦とコロナ禍の働き方について会話するなかで出てきた、効率に関する懸念ですね。
どんなに短く見積もっても2年間ぐらいコロナは収束しないだろうと話しているなかで、「出社と在宅を繰り返したとき、会社に行く人と家にいる人の2パターンがいると、どうしても会社に行く人の方が主導権を握ってしまいそうじゃない?“主の人とその他の人”のようになってしまうとすごく生産性が悪いよね」と心配していて。
「今から1カ月間は在宅勤務です」「これからまたオフィスに出社しましょう」と変化があると、社員にも負担を強いることになりますし、必要なツールも全然違います。「生産性と効率を考えると、このタイミングしかない!」ということで、まずはオフィスの解約に踏み切りました。
強制的に「この日には全員オフィスを出ていかないといけない」という状況になり、結構しんどい時もありました。けれども、トップがすぐに判断してくれたので、あとは僕たちがやり切るぞというかんじでしたね。
実のところ僕たちが考える“フルリモート”は、今はまだ実現できていないと思っているんです。「好きなところで働く」、「必要なときに会う」、「必要じゃなくても会いたければ会う」と、フレキシブルにできるようになることが理想です。
――いちばん最初に脱オフィスの話を聞いたときはどう思いましたか?
上野 もともと「フリー出社制度」がありましたし、驚きというのはあまりなかったです。当時僕の家からだと準備なども含めて通勤に大体2時間ぐらいかかっていました。フリー出社制度があることでその時間をまるまる作業時間やインプット、普段できないことに充てることができていたので、脱オフィスは一層ありがたいと感じました。
康 脱オフィスが完了する前にみんなでフルリモートに近い状態で仕事をし、リモートワークの快適さ、リモートワーク前後のモチベーションの変化、コミュニケーション面の問題などのアンケートを実施したことがあったんです。結果、100%が快適な状況ではありませんでしたが、おおむねフルリモートワークに対して好意的な意見をもらいました。
――やはり若干名は「快適じゃない」という意見もありましたか?
施井 そうですね。家の中で仕事とプライベートを分け、オン/オフを切り替えるのが苦手な人や、仲間と会話しながら仕事することでストレス発散するタイプの人からは、リモートワークがなかなか難しいという声を聞きました。
――「脱オフィス」計画実行の中で大変だったことは?
施井 「オフィスで共有していたものをどうするか」問題は大きかったです。例えばプリンター、スキャナー、シュレッダー。あとはミーティングや取材の場所問題ですね。
社員は東京、千葉、埼玉、神奈川などバラバラに住んでいるので、みんなが今までよりも快適に共有物を使うにはどうしようかと、いろいろな社内サービスを見比べて決めていきました。
脱オフィス後の変化は?
――脱オフィスを実行して、みなさんの働き方はどうなりましたか?
康 わたしはほぼ在宅で仕事をしています。社内の大多数の人も主に在宅ワークですね。会社が借りているコワーキングスペースに行くこともあります。
あとは、東京近郊の好きな場所に引越した人が結構いました。神奈川の海の近く、葉山とか。コロナの状況次第では、今後ワーケーションのような働き方もできると思います。働き方の選択肢、人生の選択肢が増えましたね。
上野 僕は2021年の8月に福岡県に移住しました。基本的な働き方には変化はありませんでしたが、生活がガラッと変わりましたね。
仕事面でいえばデザイナーやエンジニアは元から家で作業できる環境を整えていた人が多く、僕も入社前は約1年間フリーランスをしていたので、作業環境をつくるところはスムーズにいきました。
生活面では、東京にいたときは夜型だったのが、福岡に来てから朝型になりました。以来決まった時間にご飯を食べて規則正しい生活です。というのも、近所のスーパーの生鮮食品のクオリティが、東京と全く違うんですよ…。それで自炊する機会が増えました。
あとは、たまに釣りに行ったりもしますね。車で30分くらい行けばすぐ釣れるスポットがあるので。東京では考えられなかったです。
あと新卒のときに少しだけ福岡に住んでいた期間もあって、多少デザイナーやエンジニアの知り合いもいるので、久しぶりに会ったり。
福岡はGoogleが進出を予定しているように、ITやWEB界隈の感度の高い人や会社が結構増えてきたので、そのコミュニティをこれから広げられそうだと思っています。
――会社として、脱オフィスを実行して良かったことはありますか?
康 すごく良かったと思うのは、場所の強い制約がなくなり、関東圏以外に住んでいる方も採用できるようになったことですね。今までは居住地が理由でお見送りする方もいらっしゃったと思います。
施井 あと、子育て世代の社員にはすごく好評で。子どもが風邪を引いても、仕事自体を休まずに側にいれば大丈夫とか、時短制度を使うだけでは両立が難しい場合でも、フルリモートだとバリバリ働けるという人もいました。より子育てに深くコミットできるようになった人が多いようです。
――会社として、脱オフィスを実行して大変だったことはありますか?
施井 想像以上に大変だったのが、総務・経理業務のフルリモート化は難しく、郵便物や電話対応が課題として残りました。他社の事例を参考にしようとしても、他も総務・経理業務だけは出社にしているところが多かったので、苦労しました。
現状は「ほぼリモート勤務」というところまでもってくることができました。3畳程度のコワーキングスペースを借りて、総務・経理チームで週2回、誰かが出社するかたちで対応しています。
康 あと、移動時間がなくなったことで打合せがとても増えて、終日打ち合わせだらけの人が出てきました。打合せが続きすぎてしんどいと感じる人もいるかもしれないですね。
施井 会議室を取る概念がなくなったので、これまでにあった「会議室が空いていないから打ち合わせを後日にしよう」ということがなくなったり。席数の制限もないので「せっかくだからミーティング一緒に入る?」といって全てのミーティングに入ってしまう、という無駄も問題ですね。
――脱オフィスをしても、変わらなかったことはありますか?
施井 会社は“ミッションドリブン”でやっていて、そこを中心にやるというのはまったく変わらずです。ただ単に、働く場所がそれぞれになった、という気持ちですね。僕の感覚でいうと、もっと他社さんもオフィスをなくすんじゃないかと思っていましたが、そんなになかったですね。
上野 変化が多い会社なのですが、一貫して、“いかに社員がパフォーマンスを一番発揮できる環境を作るか”、それを重視するスタンスは僕が入社したときからずっと変わらないのですごくありがたいです。
脱オフィス後の「コミュニケーション」問題
――リモートワークで、コミュニケーション不足の問題があるという声がさまざまな会社から聞こえてきます。クリエイティブな仕事には特に欠かせない部分ですが、会社として、コミュニケーション面の問題を解決するための施策はしていますか?
施井 結構いっぱいあるんですけど、一つめは「チェックイン」。一人暮らしの方だと変化に気づけないこともあるので、みんなちゃんと元気に生きてるか?と、毎日、朝の時間のどこかで、挨拶だけして顔を合わせようという取り組みです。
二つめは「バーチャルオフィス」の活用。「oVice(オヴィス)」というサービスを使っています。
打ち合わせの予定をわざわざ立てなくても、声が聞こえてその場で話が進められるのが便利です。ウェルカムゾーンみたいなものもあって、そこにアイコンを置いている人たちは今話せる状態にあるのがわかります。半年に一度の決算会議の後の食事会や宴会もバーチャルオフィスで行いました。
康 みんなに同じおつまみを送っておいて準備したり、拍手とか送って。楽しいです。
上野 oVice上でクイズ大会とかもやりましたね。
施井 僕は、夜にちょっとふらっと行って、社員に声をかけるみたいな使い方もしています。リアルオフィスにいたときも、夜だと人数が少なくなって、何やってるの? と気軽に声をかけるタイミングがあったと思います。そういったこともバーチャルオフィスでできるんです。これは新しい取り組みで、なかなかまだ社内に浸透はしていないですが、会社としてはみんなで使っていきたいなと思っています。
それから三つめは、コワーキングスペースを2か所借りています。
社内で予約制にして、予約シートを見ると「今日は誰がいるから行こうかな」というふうに集まれる場所になっています。同社のよく知った仲間と同じ空間で仕事したいというニーズがあり、たわいもない会話からアイデアが生まれることも多々ありますのでそういった場を設けました。代表の杉浦は、「こういった場所を全国に点々とつくりたい」と言っています。会社があるところに人が集まるのではなく、社員が働く場所にオフィスがあるというふうに。「フルリモートだから人と会わずに個々人で働きたいんでしょ」と誤解されることが多いのですが、全然そんなことはなくて、“選択肢”を広げたいんです。
四つめは、「チームハングアウト」。今はコロナ禍でちゃんと実行できない部分もありますが、会社が経費を出すので、何をしてもいいからチームで集まろうという取り組みです。散歩でもいいし、一緒に仕事するでも、ランチでも、飲みでもいい。
五つ目は、「かんかんラジオ」(笑) 康が社員とざっくばらんにしゃべっているのを動画で録って、それをずっとアーカイブしていっています。しゃべったことのない同僚が、遠くで話しているのを聞いたら自分と同じ趣味なんだって分かることもあるじゃないですか。オフィスがないとそれがなかなか発生しないので、コミュニケーションのきっかけになればと。ラジオではみんなキーボードを弾き始めたりとか、それぞれ個性を出しています。始めたのは、ちょうどコロナ禍の外出自粛の雰囲気が強かった時期。暗くなっている世の中で、めちゃめちゃ陽気な康がやることによって、社内にも元気を振りまければなと。
康 「かんかんラジオ」なんてネーミング、スベッたら恥ずかしいじゃないですか(笑)最初は「社員紹介」とか堅い名前の活動だったのですが、途中から変更されました。
最初は、誰がこんなのを聞いてくれるんだろうと不安でしたが、ラジオ聞いたよという声を耳にすると、コミュニケーションの活性化に役立っているのかなと嬉しく思います。今は私の気まぐれで更新しているので不定期なのですが。
――メンバーへの指示出しはどのようにしていますか? 上長は、マネジメントがしにくくなったのでは?
施井 大人数だとカメラ越しの表情がしっかり分からないので、テキストコミュニケーションで何か普段と違うものを感じたら、「ちょっと話しする?」と声をかけることはありますね。
あと、月1回評価のために状態を確認するのと、僕はそれ以外に毎週金曜日の夕方にメンバーと雑談の時間を作って、仕事の話は基本的にせずに、一週間どうだったかという話をしています。そんなふうに、各マネージャーが工夫してコミュニケーションの場を設けていますね。
上野 僕はマネジメントを受ける側ですが、以前よりもはるかにマネージャーとのコミュニケーションの機会が増えました。毎日チェックインで顔を合わせたり、僕の出張のタイミングでチームみんなで集まったり。僕目線では、コミュニケーション面で困ったことはないです。
脱オフィスに成功したCINRAの今後は?
――CINRAの働き方はこれからどう変化していきますか?
施井 間違いなくこれからも、時代に応じて変わっていくだろうなと思います。脱オフィスを実施して1年経ちますが、コロナ禍の特別な時期のために自在に会うということができていないので、僕のなかではゼロ年目。これから圧倒的に、オフィスにいた時代よりも良いものにしていきたいです。近年欧米で増えてきている週四日・週三日勤務、副業、複数の会社に所属する副業なども検討して、いろんな軸で働き方の選択肢を広げていきたいです。
上野 入社してから、一度として同じような一年は無かったんです(笑)今後も、働き方や社内体制、いろんな変化が必ずあると思っています。
地方の人材を採用できるようになったという話もありましたが、年齢層も広くなってきたり、もしかしたら海外のスタッフも増えるかも知れないし。バラエティに富んだ人材が増えて、ソリューションがもっと幅広くなったり。デザインに関しても、今はWEBの仕事が多いですけれど、これからは映画を作る人がいたり、内装デザインができる人が入るかも知れない。会社ができることの範囲が広くなっていのはすごく楽しみです。
質問コーナー
最後に、参加者から事前に募った質問に答えていただきました。
康 新入社員が入社して2週間目のタイミングで「今後フルリモートになります」となったのはびっくりしたと思います。何で困っているか、今どういう状況かが把握しづらいデメリットがあったので、コミュニケーションを取る時間を設けたり、バーチャルオフィスを導入してキャッチアップしていきました。今はまだ正解は分からない状況ですが、今後もいろいろな施策を打っていきます。
施井 かなりしっかりしたオンボーディングのプログラムを作りました。リアルで集まる機会を設けて全社員と触れられたり、ミッション型のワークショップでCINRAのことをよく知ったりとか。これまでのオンボーディングはチームごとにバラバラだったのですが、そこを改善しました。
※オンボーディング:新卒や中途の新入社員に対し、一律に行われる研修とは別に、個々が業務で必要な知識や技術を提供したり、会社やチームになじめるようサポートしたりする一連の取り組み。
5.まとめ
コロナ禍、多くの企業が今後のあり方を模索しもがくなか、「脱オフィス」を成功させて抜きん出た株式会社CINRA。
個人の裁量が大きくなり管理が難しいのかと思いきや、さまざまな対策やケアを行い、以前よりも一体感が増したようにも感じられます。今回のお話を参考に、自分の会社でも活かせるポイントを見つけたり、働き方を見直していきたいですね。
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投稿【イベントレポート】C&R社 カンファレンス[#より良い働き方について考える1日]WEB業界編 株式会社CINRAセッションはクリエイターのための総合情報サイト CREATIVE VILLAGEの最初に登場しました。