偽薬でも本人の思い込みによっていくらか効果が表れることを「プラセボ効果」と言います。
実際にプラセボ効果を期待して偽薬を処方することもあれば、本物の薬の効果を確かめるための比較対象試験で用いられることもあります。
そしてこれまでに行われてきた研究の結果、プラセボ効果は投与方法や医師の雰囲気、患者の年齢によって効果の程度が異なると分かりました。
ここでは、本来はゼロであるはずの偽薬の効果をさらに向上させる方法をご紹介します。
目次
- 最初のプラセボ効果
- 偽薬の効果は投与方法と年齢によって変わる
- 偽薬を処方する医師の雰囲気にも影響される
最初のプラセボ効果
18世紀のロンドンでは、「パーキンス・トラクター」と呼ばれる高価な治療器具が話題になっていました。
「特殊合金でできている」と謳われた金属器具を20分ほど患部に振りかざすなら痛みが和らぐ、と信じられていたのです。
ところが実は、これらは全くの嘘であり、パーキンス・トラクターは単なる銅と真ちゅうの棒でした。
しかしながら、一部の人たちは「本当に痛みが消えた」と報告していたようです。
この出来事に興味をもったイギリスの医師ジョン・ヘイガ―ス氏は、ある実験を行いました。
安価な木でパーキンス・トラクターを作り、その効果を試したところ、同じように「痛みが和らいだ」という報告がもたらされたのです。
これが初めて実証されたプラセボ効果だと言われています。
さて現代では、金属や木の棒が用いられることはないものの、プラセボ効果自体を疑う人は少なくなってきました。
そしていくつかの研究が証明しているように、状況や方法によってプラセボ効果をさらに向上させることさえできるのです。
これからプラセボ効果を高める要素を考慮していきましょう。
偽薬の効果は投与方法と年齢によって変わる
偽薬の投与方法はプラセボ効果の高さに違いを与えます。
最近では、飲み込む錠剤タイプや注射器を用いるタイプ、塗り薬タイプなどさまざまな方法があります。
そして2015年の研究では、変形性関節症の患者に、いくつかの方法で偽薬が投与されました。
その結果、関節に直接注射するタイプのプラセボは、塗り薬タイプのプラセボよりも高い効果が出ました。
さらに塗り薬タイプは錠剤タイプよりも高い効果が出たようです。
つまり、すべてが偽薬にもかかわらず、投与方法によって効果の差が明確に現れたのです。
これは私たちが、「飲み薬や塗り薬よりも注射の方が重大な場面で利用され、なおかつ効果も高い」という認識を持っているからなのかもしれません。
また2008年の研究では、年齢の違いにも焦点が当てられました。
大人よりも子供の方が高いプラセボ効果を得られる、という結果が出たのです。
知識と経験の浅い子供の方が、薬に対する思い込みが強いため、プラセボ効果も向上したのかもしれません。
偽薬を処方する医師の雰囲気にも影響される
さらに別の研究では、医師の雰囲気でもプラセボ効果の高さに違いが表れました。
この研究では、温かい印象の医師と冷たい印象の医師、また有能そうな医師、無能そうな医師がそれぞれ同じ偽薬を投与しました。
例えばある医師は温かい印象を与えるために、患者の名前を呼んだり、頻繁に目を合わせたりしました。
また別の医師は有能そうな印象を与えるために、手順をミスせず完璧にこなし、整理整頓された部屋で診察しました。
そしてそれぞれ逆の操作を行って、冷たく無能な印象を与えた医師もいます。
実験の結果、温かく有能な印象を持たせた医師が処方したグループは、プラセボ効果が向上すると判明しました。
さて、これらの研究結果を考えると、プラセボ効果の高さは確かに向上させられると分かります。
そしてそのために有効なのは、「より高い効果があると思わせること」だと言えるでしょう。
特に子供は、有能で優しそうな医師に注射してもらうと、より大きなプラセボ効果が見込めます。
もちろん偽薬が本物を越えることはありません。
それでも他に手段がない場合には「効果を高めた偽薬」が役立つこともあるでしょう。
参考文献
All Placebos are not created equal
https://atis.substack.com/p/all-placebos-are-not-created-equal