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【編集部注:】

ミャンマーでクーデターが起きて9カ月あまり。軍に通じている密告者の暗殺や、警察による取り締まりの強化、賄賂や嫌がらせの横行など、情勢は依然として不透明で、人々はさまざまな場面で理不尽を強いられています。ここでは、それでも思いが揺らぐことなく胸を張る現地の人々の姿を伝えるFacebook投稿を紹介します。

~ 以下、Facebook投稿より ~

ヤンゴンの街に残る、WE WANT JUSTICE(私たちは正義を求める)のペイント。

「PDF※が、本格的にヤンゴンで動き始めたみたい」
そう聞いたのは、2週間ほど前のこと。
一見落ち着きを取り戻していたヤンゴン市内で
爆発や銃撃がまた増え始めていた。
(※PDF=人民防衛隊。民主派側の武装組織)
PDFからは事前に「警察署や役所には近づかないように」と
アナウンスされていた。
今までにもそういう発表は何度かあったから、
あまり気にしないようにしてたのだけれど 
ヤンゴン市内では明らかに警察や兵士のチェックポイントが増えていた。
善良な外国人(←自称)である私は、彼らにアレコレ絡まれることはない。
でも軍のチェックポイントを通りかかると、
カバンの中を見せろと呼び止められたり、
夜だと無言で懐中電灯で照らされたりする(不愉快きわまりない)。
だが、そんな厳重な警備にもかかわらず、PDFの攻撃は止まない。
しかも空港やアメリカ大使館など、警察や兵士がウヨウヨしている場所の近くでも、
あるいは、早朝や夜間ではなく日中にも、そういう事件が起きるようになった。
「明日は11月11日、ゾロ目の日。
 何か起きるかも・・・って噂は聞くけど、わからない」
友人はそう言って、不安半分、期待半分、という表情をする。
===
「昨日、また近所でダラン(軍への情報提供者)が殺されたよ」
そう話す同僚に、それって怖い?嬉しい?と聞いてみる。
彼は、少し考えてから答える。
「うーん、半々だな。 
 こういうことが起きると、警察とか兵士が夜中に周辺の家を調べて回るから、それは怖い。
 こういうことがあった後は、ナーバスになってしまって
 犬が吠えただけでも、兵士がきたかと思って目がさめるんだ」
あぁ、そういえばCDMerの友人も、同じことを言っていたな、と思い出す。
「だけど」と彼はニッと笑う。
「ダランが殺されたってことは、自分の地域の安全を、自分たちで守ったってことだろう?
 そのダランのせいで、逮捕されたり殺されたりした人もいるけど
 これで、やられっぱなしじゃないぞ、って見せつけることができた。
 自分の地域を、誇らしく思うよ」
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私が住んでいる地域でも一時期、たびたび警察車両がやってきては、地域住民を連行していた。
人々はこう言って憤っていた。
「あの家で鍋を叩いている、とか、あの家にCDM(不服従運動)の参加者がいる、とか、ダランが密告したんだよ。
 誰がダランかみんな知ってる。でも後ろに軍がいるから、下手に手は出せない」
別の友人は、こう言っていた。
「地域の住民たちが『情報提供はやめてくれ』と頼んでも
 『殺されても知らないぞ』と脅しても、密告を続けるダランはいる。
 だから市民の中には、自分たちの安全を守るために
 『あの人はダランだから攻撃してほしい』とPDFに依頼する人もいるんだよ。
 PDFはその人が本当にダランか、いろんな人に聞いて調べる。
 絶対に間違えちゃいけないからね。
 PDFは殺人という苦しい仕事を引き受けて、市民の安全を守ってくれてるんだよ」
だから人々も、PDFを守る。
友達の家には、もしPDFが彼女の家に逃げ込んできたらすぐに渡せるように、救急箱が準備されていた。
抗生物質や痛み止め、栄養剤、包帯などがぎっしりと詰まったセットが5つ、台所に隠してある。
彼女は、もしPDFが逃げ込んできたら、命がけでかくまうだろう。
こういう人は、決して少数派ではない。
反軍政のもとに、市民はひとつのチームになり、結束する。
これが市民の強さだ。
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最近変わったことは、ほかにもある。
例えば、経済政策。相変わらず一方的に、いろんな通達が出されている。
先日はとつぜん、現金での売買が2000万チャット(約120万円)までに制限された。
分割払いなどという仕組みがほとんどないミャンマーでは、車だろうが家だろうが、現金一括。
上限額が設定されると、当然こうしたものの売買が止まる。
友人たちは冗談を言って笑いあった。
「もし今の状況で家を買いたいなら、パーツごとに契約しないとね。
 トイレはいくら、台所はいくら、リビングがいくら、って。
 廊下を買い忘れた!みたいなことになったりしてね」
こうして笑い飛ばしつつ、理不尽な現状を飲み込んで進んでいくミャンマーの人たちは
本当にたくましくて眩しい。
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しかし、笑い飛ばせないこともある。
銀行に行くたびに疲れ果てて帰ってくるのは、経理担当の同僚だ。
彼女は、銀行の窓口がすっかり軍政スタイルに戻ってしまった、と嘆く。
「たとえば、銀行で残高照会したいとするでしょ。
 すごく簡単なことなのに、窓口でお願いすると『今日は忙しいから明日来い』と言われるの。
 仕方なく通帳に1000Ks(60円くらい)はさんで渡すと、すぐに照会してくれる」
NLD(クーデター前の政権)の時は、そういうのはなかったの?と聞くと
彼女は、ないない!と首を振った。
「賄賂を要求された市民が、通報できる窓口があったから。
 公務員は罰されるのを恐れて、賄賂を要求しなくなったんだよ。
 NLDのときは、本当によかった」
そんな彼女に昨日、再び「ちょっと聞いて」と呼びかけられた。
「さっきお金を引き出しに行ったら、窓口の係員が『服を買わない?』と持ちかけてきたの。
 銀行職員だけど、個人のビジネスとして服を売ってるわけ。
 何人かのお客さんは、その人との関係を良好にするために、服を買ってた。
 でも、私は『最近買ったばかりなので、すみません』と丁重にお断りしたの。
 そしたら、どうなったと思う?
 ・・・私の引き出した2000万チャットは、全部小額紙幣(1000チャット札)で出されたの。
 服を買った人は、みんな高額紙幣(1万チャット札)でもらってた。
 私だけ、1000チャット札を2万枚も抱えて・・・どれだけ重たかったか。」
彼女の口調は怒っていたけれど、その表情は傷ついているように見えた。
子どもじみた嫌がらせに、文句の一つも言わずに、黙って従わなければならない。
文句なんて言ったら、次回は1チャットも引き出せないかもしれないのだから。
だからきっと彼女は、2万枚の紙幣を前に途方に暮れながら、
それでも笑顔で「ありがとう」と言ったのだろう。
悔しかったと思う。
軍政下では、こうして人々の自尊心が傷つけられていくのだろうか。
===
いや、それでも人々は胸を張っている。彼女も含めて。
「どんなにひどい扱いを受けても、私たちは間違ってない」 
そこにいささかの揺らぎもない。
そして人々には、何を未来に残し、何を残すべきではないか、
すでに明確な答えが見えている。
その答えにたどり着く道のりは、まだ判然としないけれど
現在地と目的地がわかっているのだから、必ずたどり着く。
「軍が倒れるまでどのくらいかかるかな」と私がつぶやくと
彼女は「さぁ・・・」と首をかしげたあと、こう言って笑った。
「わからないけど、その日が楽しみだね」

11月8日にマンダレー街角で行われた夜間デモ。マンダレーはミャンマー第二の都市だが、デモなどが今も盛んに行われていて、ヤンゴンとは少し様子が違うようだ。横断幕には「マンダレー大学」の文字もあり、そういえば2〜3月はみんな所属を明らかにして正々堂々とデモをしていたよな、と思い出す(c) Khit Thit Media

11月8日、 マンダレーで、おそらく警察のいないすきに交番にPDFを支持する布を貼り、赤スプレーでデコレーションする様子。こうして押さえ込まれた状況において、目に見える形で意思を示すことはとても大切だと思う(c) Khit Thit Media

白いペンキで消されたはずの、CDM応援の三本指が、時を経て浮かび上がる(筆者撮影)

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