チューナーのマンハートは、重量2.4トンのアウディRS Q8を、918馬力と山のようなトルクを持つ、凶暴でブルートなSUVに変身させた。しかし、そこには1つだけ問題がある。
今、ハイパフォーマンスSUVが大流行している。
そして、メーカーは、常にお互いをけん制し合い、ライバルモデルより、パワー的により凌駕しているモデルを導入するが、さらに他の人に大きな差をつけるには、チューナーに頼るしかない。
そんな中、チューナーのマンハート社は、RQ900というモデルを開発した。
これは、「アウディRS Q8」を強力にチューンナップして、318馬力を追加したものだ – 318馬力!の追加だ。
しかし、このエンジンチューニングは、ドイツでは認可されていない。
ターボチャージャーと触媒コンバーターが車検時の悩みの種だ
チューナーは、まず、4リッターツインターボV8に、インタークーラーを含む、新しいターボチャージャーを与えた。
また、インテークや、要望に応じてHJS製の200セルのスポーツ触媒も新調した。
最後に、ソフトウェアを最適化し、フラップ式のエキゾーストシステムを取り付けた。
その結果、最高出力600馬力、最大トルク800Nmではなく、最高出力918馬力、最大トルク1180Nmとなり、2.4トン車でありながら、他を圧倒的に凌駕する性能を発揮する。
しかし、マンハートは走行性能数値に関しての情報は公開していない。
このパワーとトルクをもってすれば、標準モデルの「RS Q8」が、0から100km/hに到達するのに必要な3.8秒は、コンマ数秒なら簡単に短縮できるはずだ。
最高速度を上昇しない場合には、おそらく、最高時速は305kmのままだろう。
ドイツでの法的認証を受けられないのは、ターボチャージャーと触媒コンバーターのためで、これは車検時には受け入れられない。
チューニングされたアウディRS Q8の355リアタイヤ
マンハート社は、カーボンワイドボディキットを用意している。
ワイドフェンダーに加え、ラジエターグリルフレーム付きのフロントエプロン、サイドスカート、リアディフューザー、ルーフとトランクリッド用のスポイラーが付属している。
ホイールアーチには、10.5インチと12.5×24インチのマットブラックホイールが装着され、それぞれに、295/30と355/25のタイヤが装着されている。
また、ブラックペイントとゴールドのアクセントが、洗練された外観を完成させている。
パフォーマンスとボディキットで6万ユーロ(約780万円)弱の出費
また、マンハートは、装飾的なステッチや好みの色の刺繍を含む完全なレザーインテリアで、コックピットを洗練させている。
その価格は、車本体の価格に匹敵するほど膨大だ。
リストから少しだけ抜粋するなら、パフォーマンスキットが26,775ユーロ(約353万円)、スポーツキャッツが3,900ユーロ(約51万円)、ボディキットは29,631ユーロ(約390万円)、ホイールは1本あたり11,781ユーロ(約155万円)というものだ。
この価格を知ると、129,500ユーロ(約1,700万円)という希望小売価格を持つ、普通の「アウディRS Q8」が、急に、それほど、高価に思えなくなってきた。
918馬力ですかぁ……。もうじきブガッティヴェイロンの1000馬力に迫るようなパワーを与えられたアウディのSUVを見ながら、どこまでパワーチューニング競争が続くのだろう、と思った。
世の中はEVだ、プラグインハイブリッドだ、カーボンニュートラルだと言っているのに、その一方では24インチのペッタンコのタイヤを履いた1000馬力のSUVである。これこそが今の混沌とした時代の矛盾ということではあろうが、それでもちょっとやり過ぎなんじゃないの、と感じてしまう。
これくらいのSUVだったら300、いやいや200馬力だって十分でしょう、それ以上は食べきれない食材を捨てるような無駄な世界じゃないの? と偽善主義者的言葉を使ってしまったが、でもここまでの性能は過剰すぎるのではないだろうか。
そもそものベースモデルの「RS Q8」だって600馬力と、パワーありすぎなのに、そこに318馬力も追加する意味とは……。いったいこの競争のゴールはどこなのだろう。
Text: Moritz Doka
加筆: 大林晃平
Photo: MANHART Performance