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デラニー&ボニーと聞いて最初に思い浮かべるのはクラプトンでしょうか?ジョージハリスンでしょうか?レオンラッセルって人は渋いね。友達になってください。夫婦ドゥオで白人ながら絶叫系のドス黒い歌唱を聞かせる。白人初のスタックス(ソウルの名門レーベル)での音源「HOME」を残したとか、ブリティッシュロックの偉人達が挙ってアメリカのルーツミュージックに走るきっかけになったとか(ジョージハリスンのオールシングスマストパス、デイヴメイスンのアローントゥギャザー、そしてクラプトンの、デレク&ドミノスのレイラの直接的きっかけ。人脈もデラニー中心に育まれたもの)、そんな話ばかりが先行しますが…ブリティッシュロック勢の参加した「オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン」がなくとも、デラニー&ボニーは素晴らしい。

デラニー&ボニーはLAを中心に活動して、デビュー前からコネクションを築いていて、ミュージシャンにファンをたくさん擁していた。売れっ子全盛期のジミヘンドリクスがフレンズとして帯同したこともある。ドクタージョンは自伝の中で、「ジミはリトルリチャードの後ろでセッションミュージシャンをしていた頃の方が活き活きしていた」と語る。目から鱗だった。アクが強い1人よがりなプレイヤーだと思っていたが…聴き方が変わり、1人で全部やらざるをえないジミをちょっと窮屈そうに思ったり。見てみたいなぁ、デラニー&ボニーの後ろでデュアンオールマンどやるジミヘン…って、ジミの話じゃない(笑)この話に象徴的なように、このデュオとレオンラッセルの周辺をたくさんのミュージシャンが出入りして、ライブ以外にも夜な夜なセッションを繰り返していた。その中にはグラムパーソンズ(ロデオの恋人で、バーズをカントリーロックにシフトさせた張本人。フライングブリトーブラザーズのアルバムは僕の名盤リストに必ず入る。)、ジェシデイヴィス(レノンのスタンドバイミーでスライドソロを聞かせた名手)、カールレイドルやデュアンオールマンといったドミノスの面々もいた。LAコネクションの真髄に触れるならレオンラッセルの「シェルターピープル」、ジョーコッカーのマッドドックスなんかはオールシングスマストパスよりマスト。そして、これらを表向きの名盤とするならデラニー&ボニーの「モーテルショット」は裏の名盤。

激しいツアー日程の疲弊ってのはミュージシャンが薬に走る要因で…ほんとの意味でのリラックスした、本人達のための、誰のためでもなく「そこにある音楽」をパッケージすることはできなかった。ライブよりもライブした音楽をパッケージするために行ったのは、ツアーの合間にホテルでアコギを片手にジャムる瞬間を録音するっていう、アンプラグドの走りみたいなこと。ここで聞けるのは、レオンラッセルのゴスペル風のピアノに寄り添う大合唱。デラニーの爪弾くメロディーに寄り添うスライド。サイケデリック全盛期に時代に抗い、アメリカ南部のルーツミュージックに根差して活動してきたデラニー&ボニーの周りでミュージシャンが音楽を発見し直していき、「楽しさ」と本質を取り戻した果てのドキュメント。デラニー&ボニーと並んで「スワンプ」の起因となったザバンドとディランが地下室で育んだものより生々しく、まさに「空気」を湛えて…

版権の都合でクレジットされてないけど、間違いなくクラプトンやグラムパーソンズも参加していて、コネクションのメンバーはほぼ集結しています。これはロックンロールに取り憑かれた人々の束の間の安息。音楽は商業と結びつく以前はこうやって街に溢れていた。

音楽がなきゃ生きていけないなんて嘘だと思う。あなたは両手を失って楽器を弾けなくても生きていく。カーティスメイフィールドは遺作で、半身不随になりながらも床に寝そべって声を吹き込んだし、ロバートワイアットはドラムを叩けない身体になっても、リハビリの末にピアノで音楽を紡ぎ出したが…それは、やはり「音楽しかない」って感覚からくるものじゃないでしょう?だって音楽がやれない間も生きてきたからまたやれた。まず生きている日々が先行しているはず。あってもなくてもいいはず、あったら尚いいはずの娯楽ってのが本質のはず。

なんでこんなこと書いたかって、この「あるべき姿」ってのはAKOGAREの音楽の一つのテーマなんです。先ほどアップした「世界は君と僕のもの」の歌詞はAKOGAREによる、このテーマの声明文です。

「無いよりまし、あった方がいい、そんな日々の歌になれたら」

必要とされたいだとか、生きる意味に対する自問自答だとかが青春活劇のテーマとなる昨今。メンヘラ化の原因でしょう(笑)別に僕がいなくても日々は流れて、それで素晴らしいでしょう。気楽なもんです。ただ「あなた」との間で責任をとるし、「あなた」との間に何か見いだしていく。ミニマルな世界と世界で「社会」でえぇじゃないか。

いやぁ、モーテルショットは素晴らしい…ここには何にもないから。デュアンオールマンもクラプトンも世界的ギタリストから、ただ脈々と続く音楽の地平に放たれて…