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2020年度から日本の小学校でプログラミング教育が必修化された。2021年度からは中学校でも新学習指導要領によりプログラミング教育が拡充され、その重要度は高まるばかり。「早いうちから子どもに学ばせたい」と考えている保護者も少なくないだろう。

プログラミング入門に最適な「マイクロビット」

子どもがプログラミングを学ぶ第一歩として、なにから手を付けたらよいのだろうか?子ども向けのプログラミング学習キットはさまざまなものが発売されているが、おすすめは「micro:bit(マイクロビット)」だ。

マイクロビットはイギリスで誕生した教育用小型コンピュータボード。43×52mmという小型のサイズで、手軽にプログラミングを学べる教材として世界中の教育現場で利用されている。

マイクロビット

これがマイクロビットのボード。手のひらサイズの小さな板に、25個のLED、2個のボタン、光と温度のセンサー、加速度計といった機能が搭載されていて、プログラミングによって指示を出すことで、さまざまなことができるようになる。プログラミングはPCのほか、スマホやタブレットでも行える。

今回はこのマイクロビットを使って、KDDIの技術系社員による子ども向けのおすすめの作品例を紹介する。協力してくれたのは、技術戦略本部・技術渉外部に在籍する岡本浩尚。

KDDI 技術戦略本部・技術渉外部 岡本浩尚

岡本は小学5年でホームページ作成を始め、中学生でプログラミングにのめり込むなど、子どもの頃からコンピュータに慣れ親しんできた。理系の大学、大学院を経てKDDIに入社し、現在は量子コンピュータをはじめとする先端技術の社内活用の検討や情報発信を担当。趣味はプログラミングと電子工作で、マイクロビットの扱いもお手の物だ。

「マイクロビットの特徴は、コードを書かなくてもプログラミングができること。PCやスマホの画面上のブロックをドラッグ&ドロップするだけで手軽にプログラムを組めるので、プログラミングの仕組みをビジュアルで直感的に理解することができます。また、慣れてきたらJavaScriptでプログラムを組むこともできるため、次の段階にステップアップしやすいことも魅力です」(岡本)

理系男子による作品例は「将棋」がテーマ

マイクロビットを使って、子どもたちが楽しみながらプログラミングを学べる作品例をつくってほしい――そんな編集部からのリクエストを受けて岡本が製作したのがこちら。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

マイクロビットのまわりに将棋の駒が置かれているが……これはいったい?プログラミングとどう関係があるのか。そもそも、なぜ将棋なのか。

「将棋の駒はそれぞれ動ける範囲が決まっていますが、将棋のことをまったく知らない初心者やお子さんにとって、駒の動きをおぼえるだけでもひと苦労です。そこで、駒の動ける範囲を誰でも確認できるものをプログラミングと工作でつくりました。名付けて『将棋駒チェッカー』です。アルミテープと厚紙でつくった台紙の上に駒を乗せると、その駒の動ける範囲がマイクロビットのLEDで表示されます」(岡本)

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

なるほど、これはわかりやすい。駒を置くとその駒の動きが表示されるというシンプルなものだが、5×5の計25個のLEDを備えたマイクロビットの特徴が生かされている。

「コロナ禍で外出しづらいなか、ボードゲームをはじめとするアナログな遊びが再評価されているようです。なかでも将棋は、藤井聡太さんの活躍で注目度が高まっています。また、世代を問わず楽しめる将棋を通じて、家族のきずなを深めてほしいという願いを込めて、今回のテーマに選びました」(岡本)

将棋は伝統的なボードゲームだが、最近はAIによる手筋の分析や対局中の勝率表示が一般化するなど、デジタルとの親和性が高い。「プログラミングのことはわからないが、将棋ならまかせておけ」という保護者も、子どもと一緒にプログラミングを学ぶきっかけにしてみてほしい。

「将棋駒チェッカー」の仕組みとは?

岡本が製作した「将棋駒チェッカー」はどのようにして駒を判別しているのか?その仕組みを教えてもらった。

「まずはプログラムに関して。今回はマイクロビットに搭載されている電圧を読み取る機能を利用しています。マイクロビットには、0・1・2の電圧を読み取る3つの端子と、3Vの電気が流れる端子、そしてGNDという電気が戻ってくる場所の端子があります。将棋の駒は8種類。マイクロビットの電圧を読み取る3つの端子のオン/オフを変えることで、ちょうど8通りのパターンがつくれます。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカーの仕組み

今回はその8パターンに対応したかたちで、マイクロビットのLEDの光り方を変えるプログラムを組みました。マイクロビットには25個のLEDが内蔵されていて、その光り方を変えることで、すべての駒の動きを表現できます」(岡本)

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカーのプログラム岡本が製作した「将棋駒チェッカー」のプログラム。こちらからダウンロード可能

今回、岡本はPCでプログラムを組んだが、スマホで組むことも可能だ。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

続いて、工作部分に関して。

「それぞれの駒の底面にアルミテープを貼って回路を付け、その上からセロハンテープを貼って電気を流す部分と流さない部分を駒ごとに変えています。そして駒を台の上にのせたときの電圧のオン/オフを読み取ることで、駒の種類を判別します。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

たとえば金将は、1にあたる部分にセロハンテープを貼っています。すると台の上に置いたときに、1の部分の電気が通らなくなり、0と2とGNDのみ電気がつながります。それを読み取ることで、金将の動きがマイクロビットのLEDに表示されます」(岡本)

駒へのテープの貼り方は事前に決めておく必要があるが、8パターン分かれてさえいればどんな貼り方でもかまわないとのこと。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

駒をのせる台紙は厚紙とアルミテープで製作。厚手の紙を適当な大きさにカットし、アルミテープを貼って、カッターで切れ目を入れる。将棋の駒をのせる台の部分はアルミテープを直角に折ってセロハンテープでとめている。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカー

台紙にはゼムクリップをとめ、ワニ口クリップでマイクロビットや抵抗とつなぐ。

今回の『将棋駒チェッカー』の仕組みを図式化すると下記のようになる。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカーの仕組み

「製作にあたって、回路の仕組みを理解している必要がありますが、ある程度の知識があれば小学校高学年のお子さんでもつくれると思います。マイクロビットがまったく初めてというお子さんや、回路の仕組みがわからないお子さんは、回路を使わずに駒の動きのみをLEDで表示するところから始めてみてもいいでしょう」(岡本)

最後に、岡本が「将棋駒チェッカー」の製作のために用意したものをご紹介。

マイクロビットを活用した将棋駒チェッカーの材料

【用意したもの】
・マイクロビット(及びPCと接続するUSBケーブル)
・将棋の駒
・アルミテープ
・セロハンテープ
・はさみ、カッター
・厚手の紙(画用紙や牛乳パックなど)
・ゼムクリップ
・ワニ口クリップ
・抵抗

「将棋の駒は木製よりもプラスチック製がおすすめです。そのほうが貼ったテープを剥がしやすいので。ワニ口クリップや抵抗は電気屋さんなどで購入できます。そのほかは100円ショップなどで手に入ります」(岡本)

プログラミングは「楽しむ気持ち」が大切

小学校での必修化など、社会的に注目されているプログラミング。子どもの頃から慣れ親しんできた岡本は、自身の経験を踏まえて、「早いうちから始めていてよかったと思いますし、社会に出てからも役立っています」と語る。

KDDI 技術戦略本部・技術渉外部 岡本浩尚

「プログラミングの知識や技術は大学や大学院での研究に欠かせないものでしたし、いまも仕事で大いに活用しています。また、プログラミングを学ぶことで、目的達成への道筋を段階的に考える論理的思考力が身につきました。

プログラミングを学ぶうえで大切なのは、楽しむ気持ちです。プログラミングを学ぼうとするよりも、今回の『将棋駒チェッカー』のように、やりたいことをプログラミングを使って実現しようとするほうが、自然と知識が身につきます。子ども自身が興味のあるテーマを見つけて、自発的に学んでいけば、楽しみながらプログラミングの基礎を身につけられるのではないでしょうか」(岡本)

アイデア次第でさまざまなことが可能なマイクロビット。岡本が今回製作した「将棋駒チェッカー」もその一例に過ぎない。家にいることが多いいま、お子さんといっしょにテーマ設定から相談しながら、マイクロビットを活用してプログラミングの基礎を学んでみてはいかがだろうか。