衆院選で改憲勢力が発議に必要な3分の2を超え、憲法改正論議の活性化を期待する声が高まっている。
そんななか自衛隊に関心がある人は6割超、その存在を肯定する人も8割を超える一方で、日本の防衛力整備が「防衛計画の大綱」によることを知らない人も8割近くに上る―。そんな調査結果が明らかになった。
京都大などの研究者らによるミリタリー・カルチャー研究会が「日本社会は自衛隊をどうみているか」(青弓社)を刊行した。現代社会での市民の戦争観や平和観、それと相関する価値観、社会意識、知識などを客観的・学術的に体系化したデータを提供するのが狙いという。
災害救助の浸透
今年1~2月、日本に住む15歳以上の人を対象に無作為抽出による郵送調査で実施した「自衛隊に関する意識調査」の結果概要をまとめたものだ。
それによると、「自衛隊に関心がありますか」との問いに、「非常に関心がある」(10・6%)、「ある程度関心がある」(54%)と合わせ、全体の6割強が関心があると答えた。「あまり関心がない」(26・7%)、「まったく関心がない」(7・9%)を合わせ、関心がない人は約35%だった。
次に、関心があると答えた人に関心を持つようになった理由を、11の答えを提示して聞いた。2つまで選べる形式で、特に多かったのが「自衛隊による災害救助活動に関心がある」と、続く「日本の安全保障や防衛政策に関心がある」だった。
近年、災害派遣で自衛隊の活動を見る機会が増えていること、また米中対立や台湾情勢など日本の安全保障をめぐる環境が大きく変化していることなどがその背景にあるだろう。
また「自衛隊の存在そのものを肯定しているか、否定しているか」を聞いたところ、「肯定している」が52・3%、「どちらかといえば肯定している」が28・6%で、合わせて8割を超えた。「どちらともいえない」とした人は17・2%で、「どちらかといえば否定」(1%)、「否定」(0・7%)と否定派はわずか1・7%だった。
一方、知識を問う設問では日本の防衛力整備が国家安全保障会議と閣議によって決定される「防衛計画の大綱」で規定されていることを「知らない」と答えた人が77・2%に上った。
憲法9条への明記
「あくまで客観的データを提示しただけで、解釈や分析はこれからです」というのは、今回の調査をまとめた一人、京都大の吉田純教授だ。「今後の軍事や安全保障問題に関する討議のための基礎データとして多くの人に見てもらえたら」と話す。
興味深かったのは、憲法9条の条文を示した上で自分の考えに近いものを選ぶ設問だ。
結果は、「憲法9条を変えない」(21・6%)▼「憲法9条2項をそのままに、自衛隊の保持その他を書き加える」(18・3%)▼「専守防衛に徹する自衛隊を憲法9条に明記する」(22・3%)▼「集団的自衛権を行使できる自衛隊を憲法9条に明記する」(10・5%)▼「憲法9条を削除する」(3%)▼「わからない」(23・8%)―となった。
わずかの差ながら最多は「わからない」だった。全体として意見は割れたが、自衛隊を憲法に「明記する」ことに賛成の人の合計は「憲法9条を変えない」とする人より多かった。
個人と国家の関係
もう一つ、興味深い数字があった。「もし、日本が武力紛争にまきこまれた場合、あなたはどう行動すると思うか」という安全保障上の脅威への問いだ。
最も多かった答えは「その時になってみないとまったくわからない」(30・1%)で、次に「もっぱら自分自身や家族の安全を考えて行動する」(25・8%)だった。「政府の指示のとおりに行動する」(13・5%)、「自衛隊に志願はしないが、自衛隊の作戦を積極的に支援する」(10・1%)と続いた。
見えてくるのは、極めて現実主義的な現代日本の姿だ。戦後の日本人が培ってきた健全さともいえるが、自分だけがよければいいのかという疑問も生じた。「公」という意識の希薄さも感じる。
個人と国家、そして個人と社会。その関係は今どうあって、今後どう位置づけられるべきか。戦後の日本社会が避けてきたテーマに、そろそろもう少し真剣に向き合う時期に来ているのではないか。さまざまな意見を聞きたいと思う。(やまがみ なおこ)